第四話 夢


あまり"良かった"とは言えない下忍組と上忍の出会いがあった後、上忍含む第七班は屋上へ来ていた。右からナルト、サスケ、サクラ、カナの順に四人は屋上にある段に座り、その前の手すりに腰をかける形で上忍がいる。

「そうだな、まずは自己紹介をしてもらおう」
「......どんなことを言えばいいの?」
「そりゃあ好きなもの、嫌いなもの。将来の夢とか趣味とか、ま!そんなのだ」

身振り手振りで何か重大そうに言っているようにも見えるが、実際かなり大げさである。サクラやらサスケやらが胡散臭そうに上忍を見ている反面、ナルトは興味津々に身を乗り出す。

「あのさ!あのさ!それより先に、先生、自分のこと話してくれってばよ!」
「あ、オレか?オレは"はたけカカシ"って名だ。好き嫌いをお前らに教える気はない。将来の夢って言われてもなぁ......ま!趣味はいろいろだ」
「......本ッ当にテキトーですね」

やる気のなさそうな声で言った彼に、カナがこの場に来て初めて口を開く。結局分かったのは名前だけじゃないかと、サクラがコソコソと呟くのも無理はない。

「じゃ、次はお前らだ。右から順に、ホラさっさとやれ」

誰の意見を聞くこともなく、上忍改めカカシはさらっとスルーしたが。とりあえず一番右に座るナルトは気を取り直してゴホンと一つ咳払いをした。

「オレさ!オレさ!名前はうずまきナルト!好きなものはカップラーメン!もっと好きなものはイルカ先生におごってもらった一楽のラーメン!」

ラーメンに乗ってる具材の名前だけはある自己紹介である。

「将来の夢はぁ、火影を超す!んでもって、里の奴ら全員に、オレの存在を認めさせてやるんだ!」

続いたのは、前述のラーメン云々からは想像もできないような大望だ。チームメイト三人の反応は多種多様、呆れている顔から微笑んでいる顔まで。

「趣味は......いたずらかな」

最後にずっこけそうな自己紹介をしたナルトに、カナがクスッと笑うと同時、ナルトを見ていたサクラは「やっぱりナルトね」と言うように首を振る。カカシは苦笑した後、「次」とすぐに話題を切り替えた。

「名はうちはサスケ。嫌いなものならたくさんあるが、好きなものは別にない」

キラキラと瞳を輝かせていたサクラはそこでガクンと肩を落とした。だが、それまで緩んでいた空気は次の瞬間からぴりっとしたものになる。

「それから、夢なんて言葉で終わらす気はないが、野望はある!一族の復興と......ある男を必ず、殺すことだ」

サスケの目のぎらついた光は嘘などついていなかった。幾段か沈んだ空気の中で、ナルトは身を引き、カカシは目を細めている。頬を染めるサクラは大物だ。
カナはサスケから目をそらし、唇の両端を噛んでいた。

「......じゃあ、次ね」

少し重たくなった空気を払うように、相変わらずやる気のなさそうな調子でカカシが言う。女の子特有の恋する表情をしたサクラは「ハイ!」と元気よく返事をした。

「私は春野サクラ!好きなものはぁ、っていうか、好きな人はぁ......えーっとぉ、将来の夢も言っちゃおうかなぁ......」

そこで、甲高い声。ちらちら見ている視線の先のサスケは仏頂面のままのようだが。
ナルトはあからさまにぶすっとしている。無理もない、サクラがサスケを好きなように、ナルトはサクラが好きなのである。しかも極めつけ。

「嫌いなものは、ナルトです!!」
「ひでーってばよう......」

大きな石が頭の上に落ちてきたような衝撃を受けたナルトは、一人涙を流した。サクラの前には強がりなイタズラ小僧も形無しだ。カナは思わず笑ってしまい、サスケの自己紹介時の暗さは完全に霧散していた。
「じゃあハイ、最後」とカカシに促され、「はい」と頷く。

「名前は風羽カナ。好きなことは、鳥たちと過ごすこと」
「鳥ぃぃ?」
 
不思議そうにナルトがすかさず突っ込むが、それをカカシは黙ってろ、と抑える。

「嫌いなものは......蛇かな」
「......」
「趣味は散歩とか、色々です。将来の夢は......夢というより、願いになるんですけど」

カナは一旦目を瞑った。その胸はとくりと高鳴った。数秒後顔を出した瞳は、どこか遠くを見るように。カナの口が弧を描いた。

「共に、生きること」


その意味がわかるものは一人しかいない。カカシが黙っている一方で、ナルトとサクラは「どういう意味?」と揃って首を傾げている。
サスケだけが、いつもの無表情の端に満足そうな色を出していた。

「......よし!四人とも個性豊かでおもしろい!」

個性が強いということは、まとめるのも難しいということだが。

「じゃ、明日から早速任務をするぞ」
「ハッ!!どんな任務でありますか!?」

ずっと"任務"に憧れていたナルトがその言葉に即座に反応する。だがそれはナルトだけではなく他も興味深そうにカカシを見た。

「まずは、この五人だけであることをやる」

えらく間を置いた後、カカシは最後に一言こう言った。

「サバイバル演習だ」




コンコン、

夕暮れ時。火影室に静かなノック音が響いた。その部屋の主・三代目火影が書類から顔を上げる。視線の先でドアを捉え、忍のさがか、自然と相手の気配を読んだ。
一声入室の許可を出すと、ゆっくりとドアが開けられる。失礼します、という律儀な声が届いた。

「三代目。お呼びですか?」
「カカシ。呼び立ててすまんの」

軽く会釈をして入ってくる男、カカシに、三代目はゆるりと笑った。楽にせい、と言うと、はあ、と気の抜けたような返事が返ってくる。三代目も自分の頭に被っていた笠をとり、机の上に置いた。

「お前の班が一番ややこしいところを揃えてしまったからの。ちょっと気になってな」
「…まあ…そうですね。顔合わせしたところによると、まあ、てんでバラバラ、って感じです。ありゃ、かつてのオレの班以上かと」
「ほっほ……懐かしいの。まあ、お主らにはリンがおったからな」

三代目が何気なく発するその名前に反応し、そうですね、とカカシは眉を下げる。だが必要以上に気を落とさず、まァ、と頭を掻いた。

「アイツの役どころは……ウチの班で言うと、あなたの孫のような存在、カナってところでしょうか。穏やかで、よく人を見ているような感じはありました」
「うむ…優しい子じゃよ。幼い頃はワシが長く共に暮らしたが、本当に手のかからん子じゃった……もう少し子供っぽく育ってくれても良かったんだがの」
「…私はあの事件の概要しか知らないのですが…やはり、一族のことが原因で?」

恐らくな、と三代目は頷いて、深く長い息を吐いた。目頭を抑え、その脳裏にかつての教え子の姿を思い出す。カカシもその様子を見て、三代目が今誰を思い出しているか分かっていた。カナの一族のことは、その程度には有名だった。

「…今日の自己紹介で、嫌いなものが…蛇、と」
「…!」
「あの事件がその全ての原因なのかは分かりませんが......まだ、忘れてはいないようです」
「......そうか」

三代目は辛そうに眼を閉じた。かつての教え子、可愛かったあの顔を思い出すと、その度三代目を襲うのは悔いても悔いても悔いきれない気持ち。
あの時あの子を罰していたら、今でもカナの一族は生きていたかもしれないのだ。

「......すまぬ」
「いえ……すみません。三代目が謝ることでは…。私は当時はまだほんの若造で詳しい事は知りませんが、あなたの責任ではなかったでしょう」

カカシは立場が違うとばかりに返す。三代目はゆっくり首を振り、もう一度「すまぬ」とつぶやいた。

「……ナルトと、サスケ。そしてカナ......この三人は普通の子にはありえぬほどの辛すぎる過去を経験してきた」
「!」
「春野サクラももちろん。......あの子たちに、楽しい思い出を作ってやってくれ」
「......ええ」

カカシの深く頷く。そして、口に弧を描いた。

「明日のサバイバル、合格すれば、ですがね」
「......なに、あの子らは大丈夫じゃ。心配はいらん」

返事をした三代目もまた、小さく笑んでいる。先ほどの張りつめた空気は嘘のように、緩やかで穏やかな時間が訪れた。


 
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