人の手が加えられていない故に無造作に伸びた草を掻き分けて、ゴールドが先頭を行くブルー達に話し掛けた。
「別に洞窟探すのは良いんスけどー…何で、洞窟なんスか?」
別に他のモンでも良くないっスか?
そう問い掛けるゴールドにブルーは、「それなら、ゴールドは何が良いの?」と聞き返した。
「オレっスか?オレならー…あっ、ツリーハウスとかどうっスよ?」
名案と言わんばかりに指を鳴らしたゴールドに、グリーンが静かに言った。
「却下だ」
グリーンの返答にゴールドが不満の声を上げる。
「えーっ!何でですか!ツリーハウスだったら、ポケモンと一緒に作れば直ぐに家が建つじゃないっスか!」
「そのツリーハウスはこの島の木を使って作るんだろう?この島には人間はいないが、ポケモンが生息している事は確認されている。ゴールド。もしもお前だったら、自分の住家に無断侵入してきて荒らす輩をどう思う?」
「えー、そうっスね。オレだったら追い出して、二度と来ない様に軽く脅すか、懲らしめるっス。…あ」
「気付いたか。そうだ。野生のポケモンとバトルをしなくてはならない状況になる。いつまで滞在するか分からないオレ達からしたら、その状況になる事は避けて通りたい」
グリーンに気付かされたゴールドは肩を落としたが、まぁ、よくあるこった!と笑い飛ばして、洞窟探しに専念し始めた。
「あ!そうだ。皆、言い忘れてたんだけど…洞窟はなるべく広くて、天井が高くて、外へ出やすいものを見付けてね」
くるりと向きを変えて後ろを向いたブルーがゴールド達に言う。
「どうしてですか?」
クリスタルが不思議そうにブルーを見上げると、ブルーはふふふ、と含みのある声で笑った。
「図鑑所有者全員が揃うとなるとそれだけで広い敷地が必要だし、そこで食事を取ることになったり火を使うとなると、高度があった方が何かと便利だ。それから、密閉されていなければ、一酸化炭素中毒になる恐れもなくなる」
すらすらとブルーの言う洞窟の条件に対する理由をシルバーが述べると、ブルーは感激したのか、明るい声音でシルバーに笑いかけた。
「完っ璧よ!流石、アタシの弟なだけはあるわ!」
きゃあきゃあと騒いでいたブルーは自分の足元に注意を向けるのを失念していた。
「…っ!」
木の根に足を引っ掛けて転びそうになる。
「姉さん!」
シルバーが叫んで手を伸ばしたが、先に歩いていたブルーとの距離は開いていて、伸ばした手はブルーには届かない。
シルバーの想いとは裏腹に空しく空を切ったその手の代わりに、グリーンが転倒しそうだったブルーの腕を掴み、支えた。
「あ…ありがとう」
ブルーが礼を言うと、気を付けろと一言言ってグリーンは先を歩いた。
「あ、ちょっと待ってよ!グリーン!」
ブルーがグリーンを追いかけて走る。
走って前を行くブルーの背と自分の手を交互に眺めて立ちすくむシルバーにクリスタルが声をかける。
「シルバー?どうしたの?」
様子がおかしいと感じて、シルバーの顔を覗き込もうとするクリスタルにシルバーは何でもないと言って首を振った。
「おい。シルバー、クリス!サボってんじゃねーよ!」
草を掻き分け、特徴的な前髪をひょっこりと出してゴールドは憤慨した。
「今回は真面目に探しているのね。感心だわ」
普段から寄り道をして目的の達成を迅速に終わらせた事のないゴールドを知っているクリスタルは数回瞬きをした。
シルバーはそっと上空を見上げてからゴールドをまじまじと眺める。
「んだよ。その言い方は。それじゃ、まるでオレが普段からふざけてるみたいじゃねーか。それから、シルバー。雨なんか降らねーから空見上げんな」
ジロリとクリスタルとシルバーを睨みつけると、シルバーとクリスタルは顔を見合わせた。
「だって…」
「ああ」
「…何だよ?」
訝しげにゴールドが聞くと、クリスタルとシルバーは声を揃えて言った。
「「真面目なゴールドは気持ち悪い」」
「ふざけんな!オレだってやるときゃやるっつーの!」
声を張り上げて口喧嘩を始めようとしたゴールド達の元にブルーとグリーンが割り込んだ。
「レッドとイエローが居ないんだが」
「あんた達、知らない?」
グリーンとブルーによって知らされた「レッドとイエローの行方不明」に、虚をつかれたゴールド達は声を揃えて聞き返した。
「「「…は?」」」