クリスタルとゴールドが結婚した。
花嫁衣装を纏ったクリスタルは誰よりも輝いていて。

「結婚、おめでとうございます」

「ふふ、ありがとう。エメラルド君」

幸せそうに微笑む彼女は誰よりも美しかった。

ゴールドとクリスタルの結婚式は仲間内だけの予定だったけれど、ゴールドの地元の人達やクリスタルの母親とその友達、ジョンバニ先生のポケモン塾で育った子供達が駆け付けて盛大な結婚式になった。
クリスタルが優しく煌めく星なら、ゴールドは周りを明るく照らす太陽だ。
彼の笑顔の隣で笑う彼女の笑顔はとても楽しそうで。
クリスタルの白い腕からブーケが空へと放り投げられた。
青空に次の花嫁を決める幸せのブーケが宙を舞う。
その恩恵にあやかろうとブーケに手を伸ばす無数の人の手。
色々な人の手に渡られそうになったブーケは宙を二回、三回と回転してエメラルドの元に渡った。

「…え…」

ぽすりと自分の手の中に転んできたブーケを呆然と見つめてエメラルドは固まった。
自分に注がれるのは瞳をぎらつかせた女性達の視線。
ひくり。
エメラルドの喉が鳴った。

「エメラルド君」

人込みを掻き分けて、クリスタルがエメラルドを呼んだ。

「ブーケ、手に入れたのね。次はエメラルド君が幸せになれると良いわね」

ふわりとした笑顔を浮かべたクリスタルの言葉にエメラルドは一瞬沈黙した後、その間をごまかすように笑った。

「ありがとう。…クリスタルさんも幸せになって下さいね」

「おいおい、それじゃ俺がクリスを幸せに出来ねーみたいじゃん」

エメラルドの肩に肘を置いて絡むゴールドに苦笑する。
ゴールドの肘が肩に乗るくらいにエメラルドの背は成長していた。

「そんなつもりで言った訳じゃないですよ」

やんわりとゴールドの肘を拒んでエメラルドはルビーとサファイアの元へと去った。
その動作は酷く自然過ぎて。
ゴールドとクリスタルの傍から逃げる様に離れたエメラルドの行動は長年の付き合いがあるルビーとサファイアにしか分からなかっただろう。




結婚式を終えたエメラルドは帰り道を一人でとぼとぼと歩いていた。
人に囲まれ続けるあの二人を見ていられなくて。
堪えられなくてエメラルドは人知れず、そっと結婚式場を後にした。

ずっと、憧れてたんだ。
責任感が強くて、仕事熱心で、心の優しい彼女に。
憧れはいつからか恋に変わって。
好きだと思ったんだよ。
本当に、大好きだった。
でも、クリスタルさんはゴールドさんが好きで。
いつも口喧嘩をしているけど、ゴールドさんに惹かれているって事、知ってたよ。
伝えたいと何度も思ったけど、伝えたらきっと凄く困るんだろうから。
俺はクリスタルさんに自分の気持ちを伝えない。

「「エーメラールドッ!」」

「!?」

両側から突然重みが掛かり、エメラルドは驚いた。

「酷いじゃないか、先に帰っちゃうなんて」

「こげん時は声ば掛けるとか、待つのが常識ったい!」

「…何で、お前等が此処に居るんだよ」

エメラルドの左右の腕を絡み取り、抗議するサファイアとルビーに固い声でエメラルドが聞いた。

「君が出ていくのが見えたから追い掛けてきた、に決まってるだろ?」

「あたし達は制覇トリオやろ?三人一緒ったい!」

呆れた表情で答えるルビーと明るく笑うサファイア。
そして両腕に感じる二人の温もり。

「………」

一人では知る事の出来なかったあたたかさ。
それを得たのは出逢う事が出来たから。
クリスタルに、ゴールドに、ルビーに、サファイアに。
大切な仲間にポケモンに。
だからこそエメラルドは大事にしているのだ。
手放したくないから。

ぽつり。

雫が一滴、地面に吸い取られる。

「あ、雨が降ってきたね」

快晴の空を見上げてルビーが言った。

「そうたいね。早う雨宿りせんと」

サファイアが頷く。
ルビーとサファイアはエメラルドに気を使っているのか、一度も彼の顔を見ようとはしなかった。
エメラルドも見られたくはないだろう。
今の自分の涙でぐちゃぐちゃになった顔は。

本当に大好きだった。
クリスタルさんもゴールドさんも。
大切だから失いたくない。
この繋がりは。
本当に、本当に。
大好きだから、二人の幸せを願ったんだよ。
今はまだ自分の気持ちを上手く昇華出来ないけど。
どうか、ゴールドさんとクリスタルさんが幸せでありますように。

「寒ー。エメラルドは子供体温だからあったかいねー」

「子供体温?」

「子供みたいに熱量があるって事さ」

「成る程。確かにエメラルドは子供体温やね」

「子供、子供言うなっ!」

自分の腕に縋り付き、暖を取るルビーとサファイアに叫んでエメラルドは両腕を振り上げた。

「あっ、湯たんぽが逃げた!」

「誰が湯たんぽだ!」

「雨、止んだとねー」

空を見上げてサファイアは笑う。

「綺麗な蒼色ったい」



今はまだ、心からの祝福なんて出来ないけど。
胸を一杯にさせるこの切なさが和らいだら。
きっと最高の笑顔で。

(おめでとう!)

**************
グリブル←シルかゴークリ←エメでこの結婚ネタを書くのをどっちにするのか凄く迷った。




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