「クリスタルさん、珈琲が入ったよ」

「エメラルドくん、ありがとう」

エメラルドから珈琲を受け取って、クリスタルは珈琲を口に含み、手に持っている書類を眺めた。

「休みの時にまで仕事しなくても…」

書類とにらめっこをしているクリスタルに呆れた視線を向けると、クリスタルは苦笑した。

「少しでもやれる事はやっていかないと。これから行く無人島にも、新種のポケモンや色違いのポケモンがいるかもしれないし」

「ゲッターの血が騒ぐんだ?」

エメラルドがニヤリと笑うとクリスタルもニコリと笑った。

「ええ、そうよ。でも、それはエメラルドくんも同じでしょう?」

クリスタルがエメラルドの足元を指差すと、エメラルドは舌をぺろりと軽く出した。

「ばれちゃった?」

「バレバレよ」

「ちょっ…待てよ、シルバー!」

クスクスと笑い合うクリスタルとエメラルドの間にゴールドの叫び声が割って入った。

「煩い。しつこい。黙れ」

「ひでぇ!」

本を片手にスタスタと歩くシルバーをゴールドが追いかける。
次第に口論が大きくなり、エメラルドとクリスタルはその騒音に耐え切れずに耳を塞いだ。

「エメラルドくん!あの二人、トキワとワカバの土で鎮められないの?」

「クリスタルさんこそ、ゴールドさんとシルバーさんを捕獲出来ないの?」

「お前等、人をダシにふざけてんじゃねーよ!オレ等はポケモンじゃねぇっ!」

真剣に話すクリスタル達にゴールドが怒声を浴びせた。

「全くだ。この馬鹿はともかく、オレまで一緒にするな。迷惑だ」

シルバーが同意するかの様に頷く。

「あんだと?もっぺん言ってみやがれ!こんちくしょう!」

その言葉が癪に障ったのか、ゴールドは声を荒げた。

「何度でも言ってやる。馬鹿、単細胞、筋肉馬鹿」

「ざけんなっ!喧嘩売ってんのか!?」

「もう一回言えと言ったのはお前だろう。そんな事も忘れたのか?流石、脳みそまで筋肉なだけはあるな」

馬鹿にする様に人差し指で頭を指差し、ゴールドを挑発する。
シルバーの仕種を見て、ぴきり、ゴールドの額に青筋が浮かんだ。
わなわなと震えて、無言でキューを取り出すと、キューの尺を伸ばしてシルバーへと突き出す。

「…っのやろ!上等だ。やってやらぁ!」

「やれるものならやってみろ」

シルバーが口角を上げ、不敵に笑う。

「コラ!二人共、喧嘩しないの!」

今にも喧嘩を始めそうなシルバーとゴールドを仲裁しようとクリスタルが割って入る。

「糞真面目系学級委員長は黙ってろっつーの!男の喧嘩に女が混ざんじゃねー!」

「何ですってえぇっ!!」

ゴールドに激怒し、クリスタルが眦を吊り上げてゴールドを蹴り飛ばした。
ぐへぇっとゴールドの不様な声と共にデッキに落下音が響く。

「痛ぇっ!クリス、本気で蹴り飛ばすなよ!おめーはサワムラーかっ!」

「誰がサワムラーよっ!そういうゴールドはエイパムじゃないっ。悪戯好きでお調子者なところそっくりよ!」

「あんだと?」

「何よ!」

「あーあ…」

ぎゃーぎゃーと騒ぐクリスタルとゴールドの大喧嘩をエメラルドは呆れた視線で見てから、よっこいせと呟いてゴールドとクリスタルの喧嘩を面白そうに静観しているシルバーの元へと駆け寄った。

「シルバーさん。暇ならゴールドさんでおちょくってないで、クリスタルさんの仕事手伝ってよ」

「オレで良いのか?」

「進化に関する内容だから、シルバーさんが手伝ってくれた方が早く終わるんだよね」

「分かった」

「これなんだけどー…」

「ああ、これはー…」

クリスタルの仕事に集中し始めたエメラルドとシルバーの耳には、クリスタルとゴールドの大喧嘩による騒音は聞こえない様だった。


「なぁ、ダイヤ、いや、ダイヤモンド」

「なぁに?パール〜」

クリスタル達とは少しばかり離れた場所でパールはダイヤモンドに話しかけた。
ぼーっと空を眺めていたダイヤモンドはパールに顔を向けた。
パールは親指をくいっと大騒ぎをしているクリスタル達の方に向ける。
パールの指先に促され、ダイヤモンドがその方向に視線を向けると、パールは口を開いた。


「先輩達、楽しそうだな」

「そうだね〜。賑やかで良いと思うよー」

のんびりと笑うダイヤモンドを一瞥してパールは真剣な表情で続ける。

「クリスタル先輩は仕事をして、他の先輩達もそれぞれするべき事をやっている。オレ達も自分に出来る事をやらなくちゃいけないんじゃないか?」

「出来る事?」

不思議そうに首を傾げれば、パールはそう!と大きな声を出してダイヤモンドの肩を掴む。

「オレ達に出来る事は漫才だ!漫才の練習をするぞ!」

「うん!オイラ頑張るよ」

強い意志を瞳に宿し、真剣に自分を見るパールに、ダイヤモンドは応えるかの様に朗らかに笑った。

「ポケモンといえばぁーっ」

「ポケモンといえばぁ〜」


季節は夏。
キャモメがくーくーと鳴き、飛び交う空は快晴。
青空の蒼さを反射し、キラキラと光り輝く海はどこまでも碧く。
壮大な海に一隻の船が希望や夢を乗せて走る様は爽快で。
その船から聞こえる楽しげな声はどこまでも希望に満ちている。


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