春の陽気に誘われて、チュチュと共にトキワの森で散歩をしていたイエローの前には、気持ち良さそうに大口を開けて眠るレッドが居た。
(あれ、レッドさん?)
どうしてこんな所で眠っているのだろう。
イエローは不思議そうに首を傾げたが、数分も経たぬうちに考える事を放棄すると、ころんとレッドの隣に横たわった。
サワサワ。
そよそよ。
風が吹いては木々の葉をさらって森の歌を奏でていく。
葉と葉の間から差し込む暖かな日の光にイエローは心地好さを覚えて同時に納得した。
(これは確かに眠くなりますよね…)
ふああと欠伸をかいて自分を襲おうとしている眠気と闘う。
闘うのだが、やはり人間というものは欲望には勝てないらしい。
次第に降りてくる瞼に気付いて、うつらうつらとしていたイエローはハッとして慌てて首を振った。
(ダメ。ダメ。ボクまで眠ったら誰がレッドさんを起こすの)
隣で気持ち良さそうに眠るレッドをじっと見て、イエローは溜息を吐いた。
駄目だ。
気持ち良さそうに眠るレッドを起こして、その安らかな眠りを妨げる事が自分には出来そうにない。
(それにしても、気持ち良さそうに眠ってますね)
羨ましそうにレッドを眺めて、イエローは苦笑した。
(いつもはボクが寝ていて、レッドさんがボクを起こしているのに、これじゃあ逆だなぁ)
(ん?逆?)
イエローはある事に気付いて、すやすやと眠るレッドを凝視した。
そして、悪戯を思い付いた子供の様な表情をすると、レッドを優しく揺さぶった。
「レッドさん。起きて下さい」
レッドさん。レッドさん。
優しく、優しくイエローがレッドを呼んで揺さぶっても、レッドはむにゃむにゃと聞き取れない寝言を言って寝返りを打つだけで、一向に起きる気配は見られなかった。
「仕方ないですね…」
イエローは溜息をついて、レッドへと手を伸ばした。
レッドさん。
レッドさん。
柔らかくて優しい声が自分を呼んでいる。
この声は誰だっただろうか。
ああ、そうだ。
この声は。
この声の持ち主は。
自分が大切に想っている世界で一番のー…。
頬と唇に感じた暖かな温もりに、レッドは閉じていた瞼を開いた。
ぼーっと起き上がって周りを見渡せば、隣にはイエローが。
(あれ…。イエローだ。そういえば、さっき夢にも出てきたなぁ。じゃあ、これも夢か)
良い夢だ。
満足そうにレッドが微笑んだ時、イエローがレッドの方を向いて微笑した。
「おはようございます。レッドさん」
やっと起きたんですね、と笑って話しかけてくるイエローの頬が心なしか赤く染まっている様に見えて、レッドは首を傾げた。
「…!!」
レッドが不思議そうに首を傾げていたのはほんの少しの間だけだった。
驚愕に目を見開くと、レッドはイエローに問い掛ける。
「い、イエローはいつからそこに居たんだ?」
イエローはきょとん、としてから微笑した。
「レッドさんが眠っている間にですよ」
「…本物の、イエロー?」
「何言ってるんですか。もしかして、寝ぼけてるんですか?」
イエローが眉を潜めてレッドを見るとレッドは唖然としてイエローを見つめた。
夢じゃない…等と呟いている様子を見ると、夢だとでも思っていたらしい。
それはそれで嬉しいなぁ…と密かに満足していると、レッドが自信のなさそうな声と表情でイエローに問いかけた。
「なぁ…イエロー。さっき、オレに何かした?」
「レッドさんはどっちだと思います?」
基本的に素直な性格のイエローからの思いもよらぬ言葉に、レッドは虚をつかれて目を丸くする。
「ど、どっち…?えぇ…?」
混乱するレッドの隣でイエローは満足そうに笑うと、しばらくの間、頭を抱えて悩むレッドを楽しそうに眺めた。
眠り姫から目覚めのキスを
(ボクだって起こされてばかりじゃないんですよ!)
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眠り姫→イエロー
王子→レッド
なイメージで書いた結果、こうなった。