あいつはいつも何も言わないで、勝手に何処かに行って、そうして勝手に帰って来るから。
だから、だからー…





連日の激務をこなし、疲れ果てたクリスタルは自分に与えられた仕事机に突っ伏して眠っていた。
彼女の机には、残り百枚となった様々なデータが記されている書類が積み上げられている。
割と大きな物音がしたとしても、クリスタルは起きないだろう。
そう想像するのが容易いくらいに彼女は深い眠りに着いていた。

(ったくよぉ…)

ゴールドは深い溜息を吐くと、ソファーに掛かっていた毛布をクリスタルの肩に掛けてやった。
久々にジョウトに帰って来てみれば、超の字がつく真面目系学級委員長はその名の通り、真面目に仕事をこなしていたらしい。
実際にその光景を見ていた訳ではないが、クリスタルの机に積み上げられている書類を見れば、一目瞭然だろう。

「ちったぁ、息抜きする事も覚えろっての」

自分の言葉に答えが返ってくる事を期待せずに呟いて、ゴールドはクリスタルへと手を伸ばした。
顔にかかっていた髪の毛をはらってやると、むず痒そうにしていた表情が安堵の表情へと変わっていく。

(こいつ、こんな表情もするんだな…)

いつもの眦を吊り上げて、ゴールドに怒声を浴びせるクリスタルの顔を思い出して、クリスタルの幼い寝顔をゴールドは見つめた。

(眠ぃ…)

すやすやと眠るクリスタルにつられてなのか、長旅による疲れなのか、ゴールドは大きな欠伸を一つかくと、備え付けられているソファーへと向かった。
途端、服の端が何かに引っ張られる様な感覚があって、ゴールドは後ろへと振り返る。
振り返ってみれば、先程まで気持ち良さそうに眠っていた筈のクリスタルがゴールドの服の端を掴んでいた。
寝ぼけているのかと思い、クリスタルに近づくと、クリスタルはぼんやりとゴールドを見つめた。

「ごーるどぉ…おかえりなさい」

幼い口調で子供が母親にする様にふにゃりと笑うと、かくりと首を傾けてまた寝入ってしまった。
そのまま倒れ込むクリスタルを支えて、ソファーへと連れていき、寝かせてやるとゴールドは小さく笑った。

「子供みてぇ」

いつもはしっかりとしたクリスタルの意外な一面を見た。
こんな彼女の顔を知っているのはおそらく自分だけだろう。

「ただいま」

小さくそう言って先程のクリスタルに返事を返すと、ゴールドはソファーを背に、地べたに座って夢の中へと旅立って行った。



「ん…」

小さな声を上げてクリスタルは目覚めた。

「あれ…わたし、いつの間に眠っちゃったんだろ…」

目を擦りながら自分の記憶を辿ってみるが、寝起き故なのか思い出せない。
おかしい。
自分は仕事机で仕事を続けていた筈なのに。

「…とりあえず、仕事終わらせなくちゃ」

自分が抱いていた疑問を頭の隅に追いやって、脳を活性化させる為にクリスタルは立ち上がった。
珈琲カップを手に給湯室へと向かう。

「…ゴールド?」

何故かソファーの後ろに、地べたに腰を下ろして、ソファーに寄り掛かりながら眠る友人が居た。
いつからそこに居たのだろうか。
それよりも、いつ帰って来たのだろうか。
まずは、大口を開けて何も掛けずに眠るこの友人を叩き起こし、風邪を引いてしまうでしょう!?と叱咤するべきか。
…仕方ない。
こんなに気持ち良さそうに眠っているのだ。
寝かせておいてあげよう。
クリスタルは小さな溜息を吐いて、先程まで自分が使っていた毛布をゴールドに掛けてやると優しく微笑んだ。

「お帰りなさい、ゴールド」

返事の代わりに返ってくる寝息に余程疲れているのだろうと見当をつけて、クリスタルは行き損ねていた給湯室へと向かった。




あいつはいつも何も言わないで、勝手に何処かに行って、そうして勝手に帰って来る。
何故かは分からないけれど、帰ってきて早々に自分の所にやって来ている(らしい)あいつに一番にこの一言を。






(ただいま)


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初ゴークリ。
ゴークリというかゴー+クリスかもしれない。
放浪癖のあるゴールドをクリスが出迎えてると良い。


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