「サファイアってさー、あんま女らしくねぇよな?」
始まりはゴールドのこの一言だった。
図鑑所有者で久しぶりに集まったのは良いものの、どういう訳かブルーを始めとする女の図鑑所有者達は買い物に行ってくると言ってトキワジムから出て行った。
後に残された男共はこのむさ苦しい部屋で、それぞれ思い思いに過ごしている。
そんな自由空間の中でこの一言。
図鑑所有者の中で比較的常識人の枠に入るであろう、エメラルドとパールはその言葉を聞いて額に冷汗を流した。
ちなみにグリーンやシルバーも常識人の枠に入るのだが、この二人は興味がないのか無関心を貫いている。
「…喧嘩売ってるんですか?ゴールド先輩?」
裁縫をしていた手を止めると、ルビーはにこりと微笑した。
「別にそんなんじゃねぇよ。ただ、あの野生児ギャルがいくらあのブルー先輩が言ったからって大人しく買物に行くとは思ってなかったからよ。普段はポケモンバトルだなんだって飛んだり跳ねたりしてる奴がだぜ?」
「…まぁ、一理ありますけど」
ゴールドの弁明に納得するとルビーは裁縫用具一式を片付け始めた。
その様子を見て、察しの良いエメラルドとパールがダイヤモンドとレッドを連れて安全圏へと避難する。
グリーンはというと付き合っていられないとでも言うかの様に、さっさとこの部屋から退室していた。
「……ゴールド」
「あ?何だよ、シル公。構って欲しいの「黙れ」
ドガシャアアン!と盛大な音をたててゴールドが椅子ごと窓のある方へと吹き飛んだ。
「いってぇな…いきなり何すんだよ!?オレが何かしたか!?」
「ああ、したな。姉さんに対して悪態をついた」
起き上がってぶつけた箇所を手で押さえながらゴールドが怒鳴ると、シルバーは聞いているこちらの方が震え上がる様な凍てついた声音できっぱりと言い放った。
「ありゃ、悪口じゃねぇよ!」
「例え、悪口でなかったとしてもお前が姉さんの名前を口にするのが非常に不愉快だ」
「何だそりゃ!ふざけんな!」
絶対零度のオーラを纏って理不尽な事を言ってのけるシルバーに、喧嘩腰で応戦していたゴールドは自分の背後に注意を向けるのを忘れていた。
気付いた時には既に手遅れ。
「後ろ、がら空きですよ?」
というルビーの声と共に後ろから羽交い締めにされる。
「ルビー!?」
「さぁ!シルバーさん。ボクがこの爆発頭…もとい、ゴールド先輩を抑えておくんで、思う存分サンドバックにしてあげて下さい!あ、勿論ボクまで一緒に殴らないで下さいね」
「ああ、任せろ。こう見えて自信はある」
驚くゴールドを無視して爽やかにルビーが笑うと、冷酷な笑顔を浮かべたシルバーが、殺意をぎらつかせた瞳でゴールドを見据えた。シルバーが殺る気だと悟ったゴールドは往生際悪く、ルビーの腕から逃れようと暴れ出す。
「無駄ですよ。ゴールド先輩。諦めて空の上からボク達を見守ってて下さい」
「ふざけんなあぁっ!それ、要は死ねっつってんだろが!」
「あれっ、分かっちゃいました?流石のゴールド先輩も言語を理解出来る程の頭は持ち合わせてたんですね」
「ルビー、しっかり抑えてろ。このままじゃ、こいつの息の根を確実に仕留められない」
「はーい。分かりました!」
シルバーの要求に元気良く答えるとルビーはゴールドを取り押さえるべく力を込める。
「待て待て待て!そもそもルビー!お前何でシルバーに手を貸してんだよっ。お前関係ねぇだろがっ!」
「嫌だなぁ、そんなの普通にいらついているからに決まってるじゃないですか」
「八つ当たりか!」
「は?違いますよ」
「エメラルドさん、アレ止めなくても良いんでしょうか?」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ先輩達を安全圏からハラハラと見守っていたパールが口を開く。
「じゃあ、お前アレ、止めに行けるのか?オレだったら絶対にイヤだね。てゆーかムリ」
「…オレも嫌です」
「シルバーもゴールドもルビーも仲が良いなぁ。オレも混ざろうかな?」
「ケンカする程仲が良いって言いますしね〜。あ、おにぎりありますよ。食べますかー?」
常識人の隣で間の抜けた会話を繰り広げているのは天然とマイペースのコンビ。
芸人魂を持ったパールはこの状況にツッコミを入れる余裕も無く、出掛けて行った女性達が帰って来るのと、このカオスな事態の収集がつくのをただひたすら願うのだった。
(グリーンさん、一人だけ逃げるなんて狡いです!)
(諦めろ。パール)
(…部屋の修理代はあいつらに払わせるか)
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図鑑所有者男のみでぎゃーぎゃーと騒ぐ話です。
一番の被害者は精神面でパール、実害が酷いのはトキワジムを管理していらっしゃるグリーンさん。
エメラルドは慣れたのか割と落ち着いてます。
というか関わったら録な事がないと悟っています。
この話の中でゴールドが一番不憫になりました。
ゴールドごめん。
愛故にこうなった。
本当にごめん。