今日は雛祭り。
女の子の為の日。
といってもボクにとってはそんなに特別な日な訳でも無い。
あまり意識した事が無いからだろうか。
特に何の期待をする訳でも無く、朝を迎えたボクは欠伸をしながら窓を開けた。
朝の日差しが眩しくて思わず瞼を閉じる。
暖かな風は春一番を告げているようで、心が和んだ。
風に乗って桃の花が部屋に舞い落ちて、ふわりと桃の香りが鼻孔を擽る。
その香りに改めて桃の節句を感じて。
トキワの森も今頃は綺麗な桃の花や可憐な花達が太陽の光をめいいっぱいに浴びながら、その花を咲かせているのだろう。
そう想像するとイエローは自分の欲望に素直に従う為に出掛ける用意を始めた。
外出の準備を整え、いざ出発!という時に家のインターフォンが鳴る。
誰だろう?と訝し気にドアを開けるとそこには赤色の瞳をした少年が立っていた。
「レッドさん!」
思いもしなかった登場人物にイエローは驚くと、どうしたんですか?とりあえず中に入ってお茶でも…とレッドを促した。
「いや、今日はイエローに用事があって…イエロー、今日出掛けるのか?」
レッドは自分の用件を言おうとしたが、イエローの服装を見て彼女に尋ねた。
「ちょっと散歩にでも行こうと思っただけなので、お気になさらず。レッドさんはボクに何の用ですか?」
「イエロー。今日は何の日だか知ってるか?」
「えぇ、勿論。雛祭り、ですよね?」
レッドの真剣過ぎる眼差しにたじろぎながらもイエローは律儀に答えた。
その返答を聞いてレッドはくわっと目を見開く。
イエローは何が何だか分からずにレッドを見つめた。
ボク、良く分からないんですが…何かしました?
とりあえずレッドさん、怖いです。
そんな事がレッドに言える筈もなく、イエローは冷や汗をかきながら尊敬する先輩の名を呼ぶ。
「れ、レッドさん?」
「それだよ!イエロー!!」
イエローとレッドが口を開いたのはほぼ同時。
イエローがますます訳が分からなくて当惑していると、レッドは彼女の肩をつかんで喋り始めた。
「今日は雛祭りで女の子の日なんだからさ!イエローも一人称をわたしに変えようぜ!」
イエローはレッドにそう言われて心に衝撃を受けた。
それと同時に口を開く。
「…レッドさんは、やっぱり女の子じゃないボクは嫌なんですか?」
「え?」
「自分の事をボクって呼んでるボクより、やっぱり可愛らしい女の子の方がレッドさんは…っ」
「違う!違うって!オレが言いたいのはそういう事じゃなくてっ!」
じゃあどういう事ですか、という意味を込めてじとー、と見上げると彼は困った様子でしまった、と呟く。
少しの間沈黙が二人を包むとレッドは観念したかの様に頭をかいた。
「イエローがボクって言い始めたのは元はと言えばオレのせいだろ?」
「そんなことありま「それに、イエローがわたしって言うの、ちょっと聞いてみたかったんだ…」
最後の方は照れた為にか、もごもごと言いながらレッドは明後日の方向に顔を向ける。
イエローは驚いてレッドを見つめたが彼は勢い良くイエローから顔を背けてしまった為、その表情は窺えなかった。
ただ分かった事はレッドの耳が物凄く赤く色付いていることだけ。
イエローはくすりと笑うと朗らかにレッドを呼んだ。
レッドが自分の方に顔を向けた事を確認すると、イエローは愛らしい微笑みを浮かべる。
「わたし、これから、ラッちゃんやチュチュ達とトキワの森に行くんですけど、レッドさんも一緒に行きませんか?」
レッドは嬉しそうに頷くとイエローの手を取って、トキワの森へと走り出した。
(ねぇ、レッドさん。ボク、雛祭りに興味なんて無かったんですけど、貴方のおかげで今日は楽しく過ごせそうです)
(?なんか言ったか?イエロー)
(いいえ?何も)
(あ、そー?)
(はい)
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初レイエ。
イエローは雛祭りに興味無かったんだけど、レッドが会いに来てくれたので、たまにはこんな雛祭りも良いかなぁって思う話。
レッドが変です。
ヘタレッド目指したんですが変人さんになりました。
次こそはレイエっぽいレイエを…っ!