3月3日。
この日は一年に一回、必ず訪れる女の子の日。
つまりは、雛祭り。
どこの家でも雛人形や雛壇が飾られ、ひなあられを購入する家庭が増加している。
道を歩けば桃が咲いていて後何ヶ月もすれば、美味しそうなモモンの実が成る事が期待されるだろう。


そんな晴れやかな日の午後。
ルビーとサファイアは森の中にある洞窟ー…彼等の秘密基地に居た。
当然彼等の手持ちポケモン達もその洞窟に居て、皆、自由に自分のやりたい事をしながら過ごしている。

「せっかくの雛祭りやのに、来れなくて残念たい」

「仕方ないじゃないか。エメラルドだって急な用事があったんだから」

「そうやけど…」

楽しみにしとったのに…と眉を下げるサファイアは誰がどう見ても落ち込んでいた。
サファイアがここまで落ち込むのも仕方の無い事で、その理由を知っているルビーは腰に手を当てて溜息を吐いた。

雛祭りとは女の子の日な訳で。
ボク等、男にとっては何の有り難みも無い普通の日でも、野性的な彼女(その実、内面は驚く程に女性的)にとっては特別な日なのだ。

口には出さずとも、サファイアがその日を楽しみにしているのを知っているボクは、エメラルドにその事を教えてあげた。
すると彼は長い眉毛を寄せて一分間沈黙するとなぁ…と口を開く。

「オレ等三人で、雛祭り、やらないか?」

彼の口から飛び出した言葉にボクは驚きながらも了承して、割と多忙なエメラルドの代わりにサファイアにその事を伝えた。

その時の彼女の顔ときたら!
ぽかんと口を開けて間抜けな表情。
アレには笑ったよ。
心の中でだけど。
だって、笑ったら彼女は顔を真っ赤にして怒るだろうから。
次の瞬間、ボクは心底笑うのを我慢して良かったと思った。
何故かって?
彼女の表情が間抜けな顔から満面の笑顔に変わったからだよ!
その笑顔の理由がどんなものであれ、今はとびっきりの彼女の笑顔が見れたから良しとしよう。


まぁ、そういう訳で彼女はこの日をとても楽しみにしていた訳さ。
それがこの雛祭りパーティーの企画者、エメラルドが突然オーキド博士の頼み事で出掛けなければならなくなった為、本日のパーティーはエメラルド欠席のボク等二人で行う事になった。
久しぶりに三人で会って遊ぶ事を人一倍、楽しみにしていた彼女はひどく落胆していたけれど、エメラルドからの申し訳なさそうな電話には精一杯明るく、気にせんで欲しか!と首を振っていた。


「ほら、落ち込まないでよ。キミがいつまでも落ち込んでるとポケモン達だって心配するよ」

ルビーの言葉に顔を上げるとちゃも達がサファイアを心配そうに見つめていた。

「すまんち…心配してくれてありがとう」

サファイアがお礼を言うとちゃも達は安心したように笑った。

「それじゃあ気を取り直してLet's Party!」


パーティーと言ってもいつもと変わらない様な時間をルビーとサファイアは過ごした。
喧嘩して直ぐに仲直りをしたり、エネコ型のテレビに映っているポケモン番組を見て盛り上がったり、ルビーが作ったケーキやお菓子を仲良く食べたり、たわいもない話をしたりそうこうしてるうちに時間は流れ、夜になっていた。

「もうこんな時間か…。思ったより遅くまで長居しちゃったみたいだね。博士もママも心配してるだろうから帰ろう?サファイア」

「そうたいね。こげん遅くなったらって…ああーっ!!」

突然叫び出したサファイアに自分の耳を押さえていた手を離しながら聞く。

「何、急に叫んでどうしたの?」

サファイアはわたわたと焦りながら青ざめた表情でルビーに顔を向けた。
どうしたのだろうかとサファイアを見ていると、彼女は顔を歪めて目に涙を溜める。
ルビーはぎょっとして目を見張った。

「なな、な、何!急にどうしたのさ!?」

慌ててサファイアの傍に行くと彼女は小さくだって…と呟いた。
あまりにもその声が小さくて聞き取れない。
え?何?もう一回言ってとルビーが耳を傾けると、サファイアは先程よりも大きな声で叫んだ。

「やけっ…雛壇と雛人形片付け忘れたと…もう間に合わんち!」

ルビーはサファイアの予想外な言葉に呆気に取られる。
…彼女は何を言っているのだろうか?
その疑問はサファイアの次の台詞で払拭される。

「あたしはお嫁にいき遅れるったいっ!!」

悲愴な声でさめざめと泣くサファイアに、納得のいったルビーは笑い出した。

「何が可笑しいと!?」

涙で潤む瞳をキッとルビーに向けて彼を睨みつけると、ルビーは笑った為に出た涙を眦から拭い取りながらごめん、ごめんと謝った。

「いや、キミがあんまりcuteだから思わず、ね。だって、迷信を信じてるんだもの!」

いつものサファイアならルビーの可愛い発言に挙動不審になったり、頬を朱に染めてあーだのうーだの唸ってしどろもどろになるのだが、今回の彼女はそんな事よりも気になる事があるのか、それには触れずに眉を顰めた。

「迷信…?なして迷信ち分かると?」

「え、だって何の根拠も無いじゃないか」

「根拠がなかやからってあたしがお嫁にいけるとは限らんち」

サファイアの屁理屈にやきもきし始めたルビーは、ふとあることを思い付く。

「いけるよ」

「なしてそげなこつが言えると?」

「だって、サファイアがボクの所に嫁にくればいき遅れる事なんてないでしょ?」

「なっ…!」

にこりとルビーが笑うと、サファイアはマトマの実にも負けないくらい真っ赤になって俯いた。


(それで返事はyes or noどっち?)
(そげなこつ、聞かんで欲しか!)
(まぁ、聞かなくても答えは解るけどね)
(ルビー!!)

**************
桃の節句、雛祭りの迷信を耳にしまして思い付いた話。
3月3日の夜までに雛祭りの為の道具一式を片付けなければ、嫁に行き遅れるとかなんとか。
サファイアならルビーが貰ってくれるから結婚についての心配はないと思います。^∀^



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