一月に一度、必ずボクとサファイアは同じ口論をする。
エメラルドからすれば、痴話喧嘩のように思えるみたいだけど、ボクはあえて否定しよう。
断じて違う。
アレは痴話喧嘩じゃない。
と、まぁ、そんなことは置いといて。
今日も毎月恒例の口論をボク等は行っていた。

「あんた、やっぱりあん時のこつ、覚えてんやろ!?」

「いや、だから何のことだかさっぱり分からないんだけど」

「まーた、しらばっくれると!?」

「だから何が?」

「〜っ…もうよか!!」

そう叫んで彼女がこのやり取りを強制終了させるのも、やはり毎回の事で。
いつも必ずあるこのやり取りは、もはや日常(月常?)と化していて。
だからその日常が突然無くなるなんて、ボクは思ってもいなかったんだ。


その事に違和感を感じたのは、それが無くなってから半年のこと。
最初は小さな疑問だったけれど、ポケモン達の毛づくろいや、バトルフロンティア以降知り合った他の図鑑所有者と連絡を取って集まったり、彼女は彼女でいつもの態度でボクに接してくれたから、そんな小さな疑問を頭の隅に置いやってしまって忘れていた。


そして今、ボクは人知れず頭を抱えている。
それは何でかって?
サファイアがボクに¨あの時の事¨について聞いてこなくなったからさ!
はっきり言うと、ボクはあの時の事を全て覚えている。
サファイアには覚えていないと言ったけれど、それは嘘だ。
彼女には申し訳ないと思うけれど、それでもボクは自分の感情に決着をつけられない。
彼女の事は好きだ。
大切で守りたいと思う。
でも、それはサファイアが思い出の女の子だからなのか、それともサファイアがサファイアだからなのかがボクには分からない。
だから彼女が聞いてくる度に、惚けてのらりくらりとかわしていく。
そして彼女は毎回怒って、この鼬ごっこを終了させるのだ。

なのに。

もう半年も経つというのに、彼女はボクに何も聞いてこない。
いや、ボクとしては聞かれない方が都合が良いんだけど…でも、毎月あった事が無くなっているこの違和感が気持ち悪い。
何より彼女がどうして聞いてこなくなったのか理由が分からない。
もう、どうでもいいのだろうか?
彼女の中でボクに対する気持ちは無くなってしまったのだろうか?
ボクがずっと惚けているから?
何でだろう。
彼女の気持ちがボクから離れていくのは耐えられない。嫌だ。
でも、こうなってしまうのは当たり前のこと。
ああ!
でも、ボクは…ボクは…っ!
自分の部屋で悶々と自責の念に悩まされていると、突然後ろから声を掛けられた。

「あんた、こん真っ昼間っから布団ば被って何やっとっと?」

その声の持ち主は現在、ボクをここまで悩ませている原因な訳で。
その原因は部屋の扉をしめると、ボクが被っていた布団を剥ぎ取った。

「まぁ、よか。そげんこつより、あたし、あんたに言いたいことがあるけん」

「サファイア?」

サファイアはボクの隣に腰掛けるとあたしな…決めたことがあると、と話し始めた。
ボクは不思議に思いながらも彼女の言葉に耳を傾ける。

「何回聞いてもあんたははぐらかしてばかりで答えてくれんと。なしてなのかずっと考えとった。」

いきなりボクが悩んでいた核心に触れられて、内心動揺をする。
ギクリと反応したのを彼女に悟られない様に必死でポーカーフェースを保つ。

「ばってん、何度考えても分からんち。やけん、決めたと。あたしはもうあんたに¨あん時のこつ¨について聞かん。待つ事にしたとよ」

静かに強い意志を宿す瞳をボクに向けて、彼女は明るく笑った。
待ってるよ、と言って笑う彼女が眩しくて、ボクは目を細めた。
こんなボクに変わらず気持ちを向けてくれるその暖かさに泣きたくなる。
小さくありがとうと言うと、サファイアははにかむと照れ隠しなのだろうか、立ち上がって窓へと向かった。

「ルビー!あたしはもう帰るけん。また明日!」

青空をバックにしてサファイアは爽やかに笑うと、窓から飛び降りた。
サファイアを見送りながら、ボクは思う。

ボクはいつまで彼女のその笑顔に許されるのだろうかー…



**************
ルビーくんの懺悔話。
サファイアは、ルビーが言いたくないことは無理に聞かないよ。待ってるよって言いたかったんです。
彼女はルビーがどうしてはぐらかすのか理由が分かっていません。
けれど、ルビーの傍に居ようと覚悟を決めた訳です。



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