「ルビーのアホ!もう知らんたいっ!」

サファイアはそう叫ぶと、ガラリと窓を開けてそこから飛び降りた。

「サファイア!待っ…」

ルビーは窓へと駆け寄ってサファイアを呼び止めたが、サファイアは走り去って行ったのか、彼女の姿はもう何処にも見えなかった。


ルビーの家(正確にはルビーの部屋の窓)から出て行ったサファイアは秘密基地に居た。
ルビーの模様変えによって快適に過ごしやすくなったこの洞窟は、部屋と呼んでも良い様な場所になっていた。
サファイアは横になると、近くにあったルリリドールを抱きしめる。

「ルビーのアホ…」

なして、はぐらかすのか。
はぐらかす程、あたしの気持ちは迷惑なんやろか…?
それとも、本当に忘れてしまったと?
あん時のこつ、記憶に残らない程にあんたにとってはどーでも良かこつやったの…?

ぐるぐると渦巻く感情に肺が潰されそうな錯覚に陥って、サファイアは酸素を求める様に口を開いた。
自分が落ち着くまでゆっくりと酸素を吸って息を吐くと、ぎゅううぅっと音が鳴るくらいに強くルリリドールを抱きしめたサファイアは、やがてすやすやと小さな寝息をたてはじめた。


呆然と窓から見える景色を眺めていたルビーは、咄嗟に放り出してしまったサファイアに送る為の洋服を拾うと、小さく溜息を吐いた。
空中ではPOPOが心配そうに、足元ではNANAとCOCOが気遣わし気にルビーを見上げていた。

「…サファイア、君は」

ルビーは小さく呟くと自分の手を握りしめて外へと走り出した。


何故、こんなことになったのか。
最初の始まりはサファイアの一言からだった。

「なぁ、ルビー」

「何?サファイア」

あるお昼下がり、ルビーは自室で裁縫を、突然やって来たサファイアはNANAとCOCOとPOPOと戯れていた。
八割、完成に近付いた洋服になる予定の布から針を抜くと、ルビーは彼女に向き合う。
向き合ったサファイアの顔は真剣そのもので、ルビーは驚いてぱちぱちと瞬きをした。

「急にこげなこつ、聞くのも変やとは思うんやけど」

そう言って言葉を切るサファイアの顔はいつもの彼女の表情とは異なっていて、ルビーは当惑した。

「あんた、本当にあん時のこつ覚えてなかとやの…?」

「え…?」

「やけんっ…マボロシ島で起きたこつ全部、忘れてしまったと!?あん時にあたしがあんたに言ったこつも、あんたの返事も、全部…全部忘れてしまったとかぁ!」

真剣だった表情は次第に不安そうに、固く結ばれていた拳は震えていて、最後にはその声は興奮の為にか大きくなった。
サファイアの変化にルビーは戸惑いながらも口を開いた。

「ちょっと待ってよ!サファイア、君が一体何を言っているのかボクには「また、あんたはそうやってはぐらかすと!?あたしは…あたしは…っ」

ぐっと言葉を詰まらせると、サファイアはキッとルビーを睨みつけて叫んだ。
そして冒頭に戻る。


ルビーは荒い息を吐きながら森の中を疾走していた。
サファイアを探している途中で降ってきた雪に足をとられて思うように進めない。
舌打ちをすると、ルビーは走る速度を速めた。


漸く、サファイアが居るであろう秘密基地に到着すると、ルビーは中に入って行った。
呼吸を整えながら歩みを進める。

「サファイア?」

基地の中に横たわる少女を見つけるとルビーはサファイアに近寄った。
膝をついて屈むと、サファイアの顔を覗き込む。
すぅすぅと規則的な寝息をたてながら眠る彼女の眦にそっと手を伸ばすと、僅かに残る涙を指で拭い取った。

「…ごめん。サファイア、ごめんね」

ルビーは立ち上がると、家から持ち込んであった毛布を取り出してサファイアに掛けた。
未だにすやすやと眠り続ける少女の傍に腰掛けると、少女の頭を撫でて彼女が起きるのを待つ為に、置いてあった編み物一式に手を伸ばして編み物を始めた。


くしゅんっ。
サファイアは自分のくしゃみで目覚めると、眠気の残る頭でぼーっと辺りを見回した。

「あ、起きた?」

直ぐ側で聞こえた声に驚いて、声のする方を振り向くと目の前には紅い瞳があった。

「…っ!ル、ルビー!?」

「良く眠れた?随分ぐっすり寝てたみたいだけど」

仰天するサファイアに笑いかけると、ルビーはサファイアの首に毛糸製の物を巻いた。
どうしてルビーが此処に居るのかを問い質す前に自分の首に巻かれた物の名前を口にする。

「…まふらー?」

「そう、マフラー。君が寒そうにしてたから。」

君が起きるのを待ってる間に作っちゃった、と言いながらルビーは自分が来ていた上着をサファイアに掛ける。
そろそろと顔を上げて、サファイアは疑問と後悔がない交ぜになった眼差しをルビーに向ける。
どうして彼と彼女の間にだけあった事を忘れてしまったのか。
どうして一方的に怒って行ったサファイアを追いかけて来てくれるのか。
ルビーからしてみれば理不尽な事で理由も分からずに詰め寄られた様なものなのに。
サファイアが黙っていると、ルビーは彼女の手を握って歩き出した。

「サファイア、帰ろう」

「ルビー?」

「時間が経ってるから博士も心配してると思う。雪も降ってきて危ないし」

ずんずんと進んで行くルビーに引っ張られて、サファイアも早足になる。

「急に降ってきたからマフラーくらいしか用意出来なかったけど、手を繋いでいたら多少はマシだと思うよ」

苦笑してサファイアに笑いかけるルビーの手をぎゅうっと握り返すと、サファイアはルビーと再会してから初めての笑顔を彼に向けた。

「十分あったかいとよ!それにルビーが編んでくれたマフラーもあるけん。大丈夫ったい!」

それからマフラーを編んでくれたのと迎えに来てくれてありがとう、と少し恥ずかしそうに左右に目線を動かしながらお礼を言うと、ルビーはどう致しましてと微笑した。

ルビーの微笑を横目でちらりと見てから空から降ってくる雪を仰ぎ見る。
目を閉じて雪の冷たさを自分の肌で感じて、その冷たさと自分の手を温める熱を比べてサファイアは思った。

今はこん手のぬくもりがあれば、それだけで良かよ。

しんしんと降り続ける雪はまるで、お互いの存在を感じさせるかの様に夜が明けるまで降り続いていた。


**************
THA ☆ 駄文 (^O^)/
書きたい事は詰め込んだというのに…おかしいなぁ?
今度、別のキャラで雪ネタ書きたい。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -