静かな部屋に流れるのは緩やかなクラシック。
鼻腔を擽るのは香ばしい薫りの珈琲。
落ち着いた色合いの緑のソファーに座るグリーンはパラパラと本を捲っている。
「ねー、グリーン」
長年付き合いのある彼を観察するのにも飽きたブルーはソファーを乗り越えて背後からグリーンにのしかかった。
「重い。離れろ」
ブルーを振り返る事もなく、グリーンは本の頁を捲る事を止めない。
グリーンのつれない態度にブルーはむぅと頬を膨らませるとグリーンの首に腕を回し、力強く抱きしめる。
「何よ、もー。ここは普通『何だい?オレのマイスウィートハニー』とかあっまい声で優しくアタシを抱き寄せてくれる所でしょー」
「そんなのは最早オレじゃない」
「ひっどー!乙女の夢を叩き壊す事ないじゃない!夢も浪漫もない男ねー!」
鎖骨をポカポカと叩くとグリーンは眉間に皺を寄せてブルーの手を掴む。
「地味に痛い所を叩くな」
今まで読んでいた本を栞を挟んで閉じてブルーに向き直る。
本から自分へとグリーンの意識を向けさせる事に成功したブルーは満足そうににんまりと笑った。
「構ってくれないグリーンが悪いのよ」
「……………はぁ」
胸中に渦巻く感情を深く重い溜息を吐いて昇華するとグリーンは楽しげに笑うブルーを恨めしげに見詰める。
「…で、何か用か?」
「ツイッターで17日に隕石が落ちてくるって噂話が流れてたんだけど、知ってる?」
「噂話だろう?」
「噂話だけど」
暗に知っているという意味を込めて聞き返すグリーンに頷いてブルーは続けた。
「もしも、もしもよ?隕石が落ちて地球がなくなっちゃうとしたらグリーンは何がしたい?」
「……、そうだな」
一分間沈黙を続けたグリーンはブルーの戯れに付き合う事を決意した様で、ゆっくりと口を開いた。
「オレだったら片付け終わっていないジムの仕事と、おじいちゃんの研究の手伝いをするな」
「もー!夢がないわねー」
はあっと溜息を深くついたブルーは口を尖らせる。
実用的過ぎてつまんないわよー!と文句を言うので逆に聞き返す。
「なら、お前ならどうするんだ?」
「アタシー?アタシだったらタマムシデパートの化粧品とか洋服とか買いまくるわよー。それからジョウトのコガネでも買物しまくってー、ホウエンのフエンの温泉に行ってエステ行くのも良いわね。あ、後シンオウの花屋も行きたいわー」
指を一本二本と折り曲げてやりたい事を挙げていくブルーにグリーンは苦笑する。
「オレが夢がないならお前は欲望の塊だな」
「あら、失礼しちゃう。女の子は誰だって自分が綺麗である為に必死なのよー?」
「はいはい」
適当に受け流して珈琲を口にする。
受け流されたブルーは「ちぇー」と口を尖らせた。
「実際の所、17日は既に過ぎてるけどな」
壁に掛かっているカレンダーの日付を見てから肩を竦めて、珈琲を目の前のテーブルへと置く。
静かに笑うグリーンを解放するとブルーはぼすりとグリーンの膝に頭を乗せた。
手近にあったクッションを抱きしめてグリーンを見上げる。
「……多分、本当に隕石が落ちてくるのなら、アタシはグリーンの所へ真っ先に駆け付けるわ」
ぼそりと呟くとグリーンは目を丸くしてブルーを見つめた。
虚をつかれた顔をするグリーンを珍しく思い、くすくすと笑うとグリーンの手が伸びてブルーの頭をゆっくりと撫でる。
小さく息をついて微笑するグリーンの笑みと仕種を先程のブルーの呟きに対する返答と受け取り、ブルーはゆっくりと瞳を閉じた。
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この後、ブルーさんは夢の中に旅立って、グリーンさんは動けなくて微妙に困ると良い(^O^)/