さぁさぁと雨が降っている。

オーキド博士の元で助手をしているクリスタルの傍に居たいという理由で、オーキド博士の手伝いをしているエメラルドは忙しい日々を送っていた。
各地方に旅に出て地方の土を持ち帰るのも、エメラルドにとっては日課に近しいものである。
そんなエメラルドは久しぶりの休みに何をしようか、等と考えを巡らせていたのだが。

「何で久しぶりの休みが雨なんだよ…」

生憎、本日の天気模様は雨だった。
土砂降りでなく小雨であるのがせめてもの救いである。

「まぁ、いいけどさ…」

溜め息を吐きながら本当はジュカイン達と散歩したりするつもりだったのに…と愚痴を零しつつ、寝巻から私服へと着替えていく。
せっかくだけど散歩はまた今度な、とボールから出てきたジュカインに声を掛けると、ジュカインは哀しそうに鳴いた。

「そんな顔すんなよ…また別の晴れた日に思いっきり遊べば良いじゃないか」

そう励ますと、ジュカインは本当なのかと言いたげな表情でエメラルドを見つめた。
それに本当だよ、と小さく笑って返すと朝食を取るためにエメラルドは台所へと入って行った。


朝食を済ませて食器を洗い終えると、エメラルドは紅茶を飲みながらさぁさぁと降り続ける雨の景色を窓越しに眺めていた。
ジュカイン達は別の部屋で談笑でもしているのか、時折楽しそうな笑い声がエメラルドが居る部屋まで届いていた。


さぁさぁ、さぁさぁ。
雨が降る。
雨の日はいつもの騒がしい音が聞こえない。
ぴちょりと雨の雫が葉を伝って地面に落ちる。
静か、だ。
雨の日特有の静けさにふと、いつもの騒がしい声を思い出す。
ガタリと音をたてて立ち上がると、エメラルドは傘を持って自分の家を出た。


何故だかは分からない。
けど、声が聞こえた気がしたんだ。
誰かの声。
呼ばれた気がした。
何処に居るのか、誰が呼んでいるのか分からない。
ただ、がむしゃらに走った。


そうして着いたのは藍色の瞳を持つ少女と、紅い瞳を持つ少年の秘密基地だった。
洞窟の中に入ると、そこには藍色の瞳を持つ少女ー…サファイアが居た。
体育座りをしてこちらに背を向けているから、どんな表情をしているのか分からない。
洞窟に入った時にジャリ…と音が鳴ったから、人が入って来たのは分かっている筈。
それでも少女は振り向かない。
サファイアの様子がおかしい事に気付いたエメラルドは、気遣わしげに声を掛けた。

「おい…ルビーは」一緒じゃないのか、と言いかけてサファイアに遮られて口をつぐむ。

「来んといて」

一言。
たった一言だがその声音で気付いた。
いつもの朗らかな声でなく、感情の無い声。
自分の感情を抑えた、声。
ー…泣いている。
唐突にエメラルドは悟った。
サファイアが泣いている理由は恐らくルビーに関する事だ。
その証拠に先程ルビーの名前を出した時にサファイアが反応したのを、エメラルドは見逃していない。
何も言わないが、寒さの為に震えているように見える背中は、恐らく泣いているのを我慢しているからだろう。
そう思わせるには充分だ。
エメラルドはサファイアに手を伸ばしたが、自分の手が少女に届く前にその手を元に戻した。
抱きしめたり頭を撫でて慰めようとか、思ったけれど。
でも、それは自分がやって良い事では無い。
それをやって良いのは唯一少女の心を射止めた少年、ルビーだけだ。
自分では、ない。
ならば、自分が出来る事は何だろう。

どさり。

伸ばした手の代わりに、サファイアの背中に自分の背中を預ける。
サファイアが息を飲む気配がした。

「え…エメラルド…?」

「別におれは何も見てないし、聞いてもいない。今日は雨が降っているから家に居る。よって、此処にお前が居る事実なんて知らない」

おれはお前を抱きしめて慰めたりは出来ないけど。
背中ぐらいなら貸せるから。
そしたら温もりだって伝わるだろう。
今、自分は独りじゃないと感じるだろう。
だから泣いてもいい。
泣いてしまえ。
お前が泣いた事実なんておれは知らないから。
忘れるから。
だから、めいいっぱい泣けばいい。

エメラルドの言いたい事が伝わったのかは分からないが、サファイアが泣き出したのはお互いの温もりが感じられる様になってから。


わんわんと泣いて嗚咽を漏らすサファイアの声を聞きながら、エメラルドは(サファイアが自分の事で泣いているなんて露ほども思っていないであろう)ルビーに会ったら問答無用で一発殴ろうと心に決めたのだった。



(やぁ、エメラルド。久しぶりじゃないか)
(久しぶりだな。それはそうと、ちょっと一発殴らせろ)
(!?)
(嫌だよ!何だよ急に!)
(煩いな。良いから黙って殴られろ)
(ちょっ…何でそんな機嫌悪いのさ!)
(お前が悪いからだろ)
(支離滅裂だよ!)

**************
やたら長い後書きになってしまったので分けました。
長いのでスルーされても構いません。
後書きも読んでやるよ、な方はこちらへどうぞ。→アトガキ




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