それは、勘違いから始まった旅から得てきたものでした。




ー…お嬢様〜。
ー…お嬢さん!

私を呼んでいるのは大切な友人達の声。
私の名前を間延びさせて呼ぶのはダイヤモンド。
優しくて、穏やかな心を持つ料理作りの上手な人。
はっきりとした口調で私を呼ぶのはパール。
せっかちで意志が強くて、面倒見が良い人。
彼等にどれだけ助けられた事でしょう。
彼等にどれ程支えて貰った事でしょう。
彼等のおかげで私は沢山の世界を見る事が出来ました。
彼等なくして、私の挑戦は有り得無かった筈です。
ですから、私は彼等に感謝しているのです。
数え切れない程のありがとうをいつか彼等に伝えたい。




ふるりと睫毛を震わせて、プラチナはゆるゆると瞳を開いた。
目の前には天蓋があり、天井が透けて見える。

いつの間に眠ってしまったのでしょうか…?
確か、私は机で書物を読んでいた筈ですのに。

ベッドに入った覚えが無い事に首を傾げたプラチナは緩慢な動きで机のある右方向へと顔を向けた。

ボトリ。

生温いタオルがプラチナの額から滑り落ちた。

ー…?
何故こんな所にタオルがあるのでしょうか?

不思議に思ってゆっくりと上体を起こすと視界がぐらりと揺れる。
そのまま崩れ落ちてプラチナの体は前のめりになって倒れ込んだ。

「お嬢さん!」

プラチナが倒れ込むのと同時にプラチナの部屋のドアが開き、酷く焦った声がプラチナを呼んだ。

「パー…ル…?」

金髪の少年がせかせかとプラチナが横たわるベッドへと近付く。
持っていた水の入った桶をサイドテーブルへと置くと、プラチナを起こして仰向けになる様に寝かせた。
枕元に落ちていたタオルを拾うとそのタオルを桶に入れて水を含ませ、力を入れてぎゅっと絞る。

「どうして、ここに」

パールの動作を眺めていたプラチナが問うと、パールはぺちりと絞ったタオルをプラチナの額に押し付けた。

「お嬢さん、覚えてないだろ?」

プラチナの質問に答えずにパールはむすりと仏頂面で詰問した。

「…何を、ですか?」

覚えてない、とは何の事でしょう?

分からずに質問を質問で返せばパールは「やっぱりな」と溜息をついた。

「食事も睡眠も取るのを忘れて読書に明け暮れた結果で倒れたんだってよ」

「…あ」

「お嬢さんは昔っから没頭すると周りが見えなくなるよな」

プラチナが思い当たって声を上げるとパールは苦笑してプラチナの頬に張り付いた髪を払った。

「心配するから自分の体は大事にしてくれ。分かったら返事」

「…はい」

素直に答えるプラチナに満足したパールはベッドに腰掛けると首を傾けた。

「ところで具合は?」

「具合、ですか?」

「そう、具合」

おうむ返しに聞き返すと首肯が返ってくる。
プラチナは少し考えるそぶりをすると漸う口を開いた。

「そういえば、何だか体が暑い気がします」

「そういえばって…」

熱が出て倒れるまで全く気付かない…いや、聞かれるまで自分の体調が悪い事に気付かないなんて鈍感にも程があるだろう。
がっくしと肩を落としたパールはそれでもそういう事をやってのけるプラチナの彼女らしさに苦笑を零した。

「お嬢さんらしいよな」

先程、身体を大切にする事は伝えたから、とパールはプラチナを責める一言は発しなかった。
プラチナは同じ失敗を繰り返さない。
彼女は一度失敗をすれば、そこから何がいけなかったのか、どうしなければいけなかったのか、改善点は何かを探し出し、学ぶのだ。
学習能力に優れているとも言える。
一緒に旅をしてきた中で彼女の事を理解しているからこそ、パールはプラチナには「彼女らしい」の言葉しかかけないのだ。
そうしてパールの注意が終わる頃を見計らってなのかー…タイミング良くダイヤモンドがプラチナの部屋に表れた。

「あ、お嬢様起きてたんだ〜。良かったー。具合はどお〜?」

にっこりと誰もが安心する笑顔でダイヤモンドが土鍋を持って入ってくる。
パールが桶を床に置いて空きを作ると、入れ替わる様にサイドテーブルに土鍋を置く。
鍋ぶたを取るとふわりと甘く、香ばしい匂いがプラチナの鼻孔を擽った。
ぐう。
返事よりも早くプラチナの腹の虫が鳴る。
羞恥にプラチナが布団で顔を隠そうとするが、それよりも早くプラチナの目の前にお粥の入った茶碗が差し出された。

「どうぞ、召し上がれ」

さあ、どうぞと差し出された野菜がたっぷり入ったお粥をちらりと一瞥したプラチナはおずおずと受け取るとスプーンでお粥を掬って冷ました後に小さく口を開けた。
お粥を口に運んだプラチナはもぐもぐと咀嚼を繰り返すとこくりと飲み込んだ。

「…美味しいです」

感想を述べてプラチナはそっと微笑む。
その一連の動作を見守っていたダイヤモンドとパールは肩の力が抜けた様な安堵の表情を浮かべた。

「良かった〜。お嬢様、お粥が食べられるくらいには元気なんだねー。オイラ、ほっとしたよ〜。セバスチャンさんから連絡貰った時には二人して真っ青になったもんね〜」

「ね、パール」と同意を求められ、パールは「そうだなー」と頷く。
当時の事を思い出しているパールとダイヤモンドを食事をしながら眺めていたプラチナは最後のお粥を食べ終えるとお行儀良くスプーンを置いた。

「パール、ダイヤモンド」

貴方達に出会うまで、私はひとりぼっちでした。
同年代の親しい友人は無く、周りはナナカマド博士やお父様、研究所の皆様といった大人達に囲まれて育ってきました。
貴方達に出逢わなければ私は外で様々な経験を積む事は出来なかったでしょう。
貴方達が支えてくれなければ、ポケモンジムやコンテストへの挑戦も勝利も得られなかったに違いありません。
貴方達が居てくれなければこの旅はこんなにも楽しい物にはならなかったでしょう。
貴方達と共に旅をした事、貴方達と出逢えた事全てが私の財産です。
私が感じている感謝の気持ちを上手く伝えられる自信は無いけれど、それでも一つ一つ伝えていきたい。

「心配して下さってありがとうございます」

にこりと微笑むと二人からは照れた様な微笑みが返ってきました。

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おまけ

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一周年企画に応募して下さいましたLirinさんに捧げます。
Lirinさんリクエストのシンオウ組で誰かが倒れる話(CP要素薄め)ですが、ご希望に添えているでしょうか…?
ダイヤの出番が少ないので、料理中のダイヤはおまけにて公開という形にしました^^*
書き直して欲しい箇所がありましたら、お申しつけ下さい。
書き直しを致します。

それではリクエストをして下さり、ありがとうございました!
遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんm(__)m

※こちらの小説はLirinさん以外お持ち帰り禁止となっておりますので、あらかじめご了承下さい。


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