グリーンとブルーの場合。
「はぁい!グリーン、おっひさー!」
バーンと効果音をつけてグリーンの部屋に登場したブルーを見て、グリーンは眉間の皺を一層深く刻んだ。
「……何の用だ」
「あら、ひっどーい!あんたの愛しのブルーちゃんが遊びにやって来てあげたってのにその態度はないんじゃないの?」
パソコンの前に座るグリーンにずかずかと詰め寄るとグリーンは深い溜息をついた。
「五月蝿い女だ」
「もー、本当にグリーンはつれないんだからー。やんなっちゃうわ。いくら美人で気立ての良くて我慢強いアタシでもグリーンの冷たさには心がくじけちゃいそー」
「慰めて、ピッピ人形ちゃーん」とピッピ人形を抱きしめてブルーはグリーンのベッドでゴロゴロと転がった。
「…………それで、何か用なのか?」
「ブルー愛してるって言ってくれないと嫌」
「………めんどくさい」
「ちょっと!めんどくさいって何よ!えーん、グリーンはアタシの事を愛してないのねー。えーん、えーん」
「………ブルー」
ピッピ人形を放り投げて両手で顔を覆い、さめざめと泣くブルーを冷ややかに見詰めたグリーンは長い沈黙の末に口を開いた。
「嘘泣きは止めろ。邪魔をするなら帰れ」
「…………はぁ。つまんないのー。少しは構ってくれたって良いじゃないのよ。せっかくの休日で、グリーンの久しぶりの休みだったんだからー」
「それでブルー。何かあったんだろう?何があった」
くるりと椅子を回転させてブルーを見据える。
キリッとしたグリーンの吊り目はブルーを心配している様な感情が見え隠れしていた。
グリーン…。
グリーンがアタシの事を考えてくれてる。
そう思ったらグリーンに待たされていてもまだ待てる。
それにグリーンは何だかんだ言っていつもアタシに付き合ってくれてるのよね。
ニコリと笑ってブルーは自分で始めた茶番を終わらせると、自分がグリーンの家に訪れた本当の目的をグリーンに示す。
「グリーンの好きなタイプって何?」
「…ルビーとサファイア」
瞬間、ブルーは脳に必死に命令を下した。
変な顔をしない様に全神経を走らせて、引き攣った顔やにやけた顔にならない様に努力する。
ルビーとサファイアって…あの子達、アタシ達より五つも下よね…?
え…、ちょっと待って。
つまり、もしかしてグリーンってそういう趣味だったの…!?
そういう事なの!?
怪しまれない様にいつもの表情を顔に張り付けて、内心でそれはそれで面白いと考えるブルーの不埒な思考を否定するかの様にグリーンは続けた。
「のインタビューを見たんだろう?」
「そうよ?グリーンも見てたのね」
さらりとブルーはいつもの調子で返答を返す。
先程までのブルーの失礼な思考がばれてしまわぬ様にポーカーフェースを装った。
しかし、長年付き合ってきた同郷の恋人にそれは通じない様で。
「ブルー。今、失礼な事を考えただろう?」
ブルーの思考はグリーンへと漏れていたらしい。
「やぁね。そんな事ないわよ」
「どうでも良いが、心の内に留めて置くだけにしとけ」
「…分かったわよ。それより、さっきの質問。答えて貰ってないわ」
「育成、という面に関しては「グリーン!」
「真面目に答えてってば!アタシはポケモンのタイプなんか聞いてないわよ!」
グリーンの言葉を遮り、ベッドから下りたブルーは頬を膨らませてグリーンを睨む。
睨まれたグリーンはブルーを見上げて瞳を細め、僅かに首を傾げた。
「…好きなタイプなんて聞いてどうするんだ?」
「…それは、」
「オレの好きな女はブルーだ。それさえ分かれば良いだろう?」
細めた瞳を和らげて薄い唇を弧に描く。
じっとブルーを見上げて微笑を湛えるグリーンを直視したブルーはぼっと顔を赤らめた。
「………負けたわ」
「勝負してたのか?」
「してないけど、負けた気分になったのよ」
「そうか」
視線をブルーからパソコンへと戻し、カタカタとキーボードを指で叩く。
冷静なグリーンの様子にブルーはそっと息をついて、ベッドへと戻り、腰掛ける。
ああ、また失敗だわ。
せっかく、グリーンのポーカーフェースを崩すチャンスだったのに。
ルビーとサファイアのインタビューを見た時にこれは使えると思った。
上手くやればグリーンのムカつくくらいの鉄仮面を崩す事が出来るかもしれない。
ついでに彼の好みというやつを知る事も出来るだろう。
そう目論んでテレビに便乗してみたのに。
結果はブルーのポーカーフェースが崩れるという何とも情けない終結となってしまった。
しかし。
「ブルー。後10分で終わるからそれまで待っていてくれ。終わったら、二人で出掛けよう」
「どこに出掛けるの?」
「お前の行きたい所」
しかし、それ以上に自分が思っていた以上の収穫があるから、こんな情けない結果も悪くないと思える。
「じゃあ、タマムシシティね!」
「了解」
それでもまだ、ポーカーフェースを崩す事を諦めてはいないのだけど。
今はグリーンとのデートを楽しむ事だけを考えよう。