喧噪と雑踏の中で君の声を聞いた気がした。
「南国の風が吹く町ー…ここが、マサラタウン…」
草原が広がる緑の中を一人の青年が叢を掻き分けて歩みを進める。
新芽色の髪色をした青年は珍しい事に6匹のポケモンを連れていた。
通常ポケモンはモンスターボールに入れて歩き回るのが常識となっている。
そんな世間一般の常識から逸脱している青年は変わり者ともいえるだろう。
南国の風が吹く町と書かれた看板を読み上げ、呟いた青年は自分の視界に広がる景色に瞳を細めた。
活気があるというよりはのどかな町は訪れる者を優しく包み込む暖かさを感じさせる。
それはまるで故郷に帰ってきた時の様な、母親の元へ安心して帰る子供の様な、そんな感慨に浸らせる雰囲気をこの町は放っていた。
ヒウンシティとも違う。
その独特な雰囲気に青年は一言感想を述べる。
「穏やかな場所だ…」
耳を澄ませばポッポの囀りが聞こえる。
ポッポだけではない。
コラッタもオニスズメも、このマサラタウン付近に住家を持つポケモン達はとても楽しそうにお喋りをしている。
人間に対する怯えも憎悪もその声音には一切含まれていない事が分かる。
ー…世界は広い。
それが旅に出てNが一番に抱いた感想だ。
ゼクロムの背に乗り、空を飛び、国境を越え、見知らぬ国へとやって来た。
言葉が通じない等の壁を乗り越え、様々な人とポケモンに出会った。
この国には各地方にポケモン大好きクラブがある事。
イッシュ同様にポケモンリーグやジムがあり、四天王とジムリーダーが待ち構えている事。
一方でポケモンミュージカルはないが、それと類似したポケモンコンテストがある事。
知らなかった事が沢山ある。
どれ程自分が知ろうともしなかったか、無関心であったかを思い知った。
だから自分は知るべきなのだ。
理解するべきなのだ。
今までたった一つの真実と理想を追い求めていたが故に見えていなかった数々の真実を。
世界を見る為に、真実を見る為に、Nは旅を続ける事を改めて決意する。
そして自分を慕い、傍に居る事を望むトモダチを見下ろした。
「お腹は空いてないかい?」
彼の周りにはゼクロムとゾロアーク、ギギギアルにアーケオス、バイバニラとアバゴーラが集まりそれぞれNを見上げたり、見下ろしている。
『ちょっと空いたかも』
アーケオスがお腹を押さえて照れ笑いを浮かべる。
アーケオスに優しい微笑を零したNはアーケオスを抱き上げて辺りをぐるりと見渡した。
「…うん。あっちの方に行こう。あそこでお昼にしようか」
広い草原の丘に座り、サンドイッチを食べるN達。
バイバニラがNを見上げて体を斜めに傾けた。
『どうしてNはここに来ようと思ったの?』
「…ここに来る前はコガネシティに居ただろう?こことは正反対の人で溢れ返った賑やかな町」
『うん。凄く活気があったよね』
「そこで…トウコの声を聞いた気がしたんだ」
『トウコ?』
「何を言っているのかは分からないけれど、声だけは聞こえて。…その声があまりにも悲痛に聞こえるからもっと穏やかな場所なら、ちゃんと言葉が解る気がしたんだ」
『………』
バイバニラは沈黙してNを見上げた。
それはバイバニラだけではない。
アーケオスもギギギアルもアバゴーラもゾロアークもサンドイッチを咀嚼するのを止めてNを見上げた。
ゼクロムただ一匹だけはその体の大きさ故にNを見下ろしていたが。
「マサラタウンは穏やかな場所だと聞いたから来てみたけど、やっぱりトウコの言葉は聞こえないね」
悲しそうに笑ってNは俯いた。
涙を流したりはしないけれど、痛みに耐える顔をしている。
そんなNの表情を見て、バイバニラは違うと思った。
声が聞こえたんじゃない。
声が聞きたいのだ。
言葉が聞き取れないのは当たり前だ。
だってその声はまやかしだから。
幻の声だから。
ああ、まったくどうしてこの人はこうも不器用なのだろう。
会いたくて、逢いたくて堪らないから思い出してしまうのに。
I,m dying to see you
(君に会いたくてたまらない)
トウコ、君の声が聴きたい。
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駄文です。
逢いたいよ、今すぐにリンクする感じでNサイドです。