「なー、寒川ー。一個聞いて良い?」

それはある昼下がり。
西校番長達との喧嘩が終わり、己の本能に従うままに昼食を取っていた時の事。
のんびりとマイペースに口を開き、先程の発言をしたのは舞苑誘人だ。
自分より年上の先輩、舞苑誘人を寒川は面倒臭そうに一瞥した。

「何スか…。また面倒臭い事でも考えてるんじゃないでしょーね…」


我が道を行くこの超ゴーイングマイウェイな舞苑誘人はろくな事しかした覚えがない。
厄介事じゃなければ良いと懸念する寒川に舞苑は「嫌だなー。人を厄介事発生機みたいに言うのはー」と棒読みの台詞を口にし、寒川をぺしぺしと叩く。

「いや、真面目な質問なんだけど。寒川は何で真冬さんを追い掛けないの?」

「何でって…」

「だってほら、君のお友達のアッキーは真冬さんの居る緑ヶ丘に入学したでしょ?俺はてっきり寒川も真冬さんを追い掛けて緑ヶ丘に入学すると思ってたんだよねー」

「………」

パンをもごもごと咀嚼する寒川に構わずに舞苑は続ける。

「だって寒川が南からウチに来たのだって真冬さんの強さに憧れたからでしょ?そんなお前だからこそ追い掛けると思ってたんだけど」

もさもさと焼きそばパンを食べながら舞苑は過去を思い出す。
しかし、過去を思い出していたのは舞苑だけではなかった。

「てめーがトップか?」

東校の番長を見かけたから声をかけた。
振り返った東校番長は何年か前の髪型をした女で、セミロングの金髪を翻して寒川を見据えた。
鋭い視線と思いの外、強い目力に目を見張る。

「そうだけど、あんた、誰?」

一瞬見惚れたかの様に動きを止めた寒川は東校番長、黒崎真冬が言った言葉に衝撃を受けて、我に返る。
ギンっと真冬を睨みつけて凄みを利かす。

「南中の寒川を知らねぇとはよ」

チッと舌打ちをし、ガンを飛ばすと真冬は呆れた様に寒川を見返した。
開いた口が塞がらないといった顔で呆ける真冬の阿呆みたいな表情に寒川の頬が引き攣った。

「ナメてんじゃねぇよ!俺はてめーを倒して東と南の番長になる!」

殴りかかろうと真冬に迫る。
しかし、寒川よりも早く真冬が寒川の懐に入り、寒川を殴り飛ばした。
空高く飛び上がる寒川と彼を見上げる真冬。
青空をバックに途切れかけた意識の中、寒川は自分を殴り飛ばした真冬の涼しげで真っ直ぐな瞳を最後に意識を手放した。
その翌日、寒川は真冬が通っている東中に転入した。

「今日から東中です!貴方の強さに惚れました!一生ついていきます!」

後にきらきらと輝く瞳で真冬を見つめる寒川の姿は主人に懐いた子犬の様だったと子分達の間では語り継がれたというが、それはまた別の話である。


「…真冬さんがいなくなってから俺は東校の番長になったんスよ。子分達置いていくなんて無責任な真似なんか出来ないし、やりたくもないッスよ」

もしゃり、とパンを貪って寒川は澄ました顔で言うと「じゃー、お先に失礼します」と言って立ち上がった。

「おー、また明日なー」

舞苑が片手を上げてひらひらと振る。
その手に応える様に寒川も手を振ると歩き出した。

『何で真冬さんを追い掛けないの?』

帰路に着く間、舞苑の質問が寒川の脳裏を過ぎる。

「そんなの…」

番長だから。
子分がいるから。
色んな理由はあれども、そのどれもに優劣等付けられないけれど。

真冬さんがまたいつか、ここに帰って来れる様に。
戻って来た真冬さんを迎える為に。

「お帰りなさい」と言う為に。

That's what I'm here for.
(だから俺はここにいる)

真冬さん。いつでも帰って来て良いんですからね。

**************
俺様ティーチャーの寒川と舞苑。
寒川がどうして真冬を追い掛けて緑ヶ丘に入学しなかったのか、その理由を考えてみた。
真冬を迎える以上に寒川は番長だから、トップとしてあるべき姿とか考えて東校に居ると思う。
真冬と子分の大切の度合いなんて測れないし、どっちも同じくらい大切だと思ってると良いな^^
等色々考えて出した結論が番長として在り続ける事だと私が嬉しい(笑)



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -