子供の頃から読書が好きだった。
本を読めば自分の知らない事が知れたから。
知識を蓄えれば蓄える程、自分の存在が高尚な物に思えて。
だから、本を読む事が好きだったんだ。
幼い頃から本を読み続けた僕は肝心な事に気付いていなかった。
知識を蓄える事、その行為に妄執した僕は体験しなくては経験にならない事を失念していた。
そして現在。
気付いた頃には既に手遅れ。
積極的に全ての事象に対して体験する事をしなかった僕は著しくコミュニケーション力が低下していた。
低下というよりも皆無に等しくコミュニケーション力を持っていないと言った方が正しいのかもしれない。
頭の中を知識で埋める事に拘った僕の頭脳は理論で凝り固まって、僕を堅物にさせた。
そんな事を今更理解しても、僕は僕の生き方を変える事は出来ない。
何年も掛かって築き上げた自分を今更崩すなんてそんな真似は出来ないんだ。
人から見ればそれは意固地なんじゃないかと言うだろう。
僕もそう思う。
けれどそれでも、僕は下らなくも思えるその意地を貫き通そう。
そんな堅物の僕を周りはこう評価する。
ー…チェレン?ああ、あいつね。悪い奴じゃないけど、ちょっと付き合いづらい奴だよな。あいつももう少し肩の力を抜けば良いのにな。
似たような評価は何度も聞いてきた。
その度に心臓辺りが痛む。
何故かは分からない。
もしかしたら病気なのかもしれないな。
後で病院に行こう。
それから医学の本も買っておこうか。
瞬時に「自分」から「本」へと思考を切り替える。
事前に調べておこうか。
どんな本が一番良いのか。
値段が張り過ぎる物は控えよう。
なるべく良心的でそれでいて詳細が詳しく書かれている解りやすい本が良い。
頭の中を本で一杯にしていたチェレンは周囲に気を配るのを忘れていた。
故に彼は電柱に頭をぶつける羽目になるのだが、それはチェレンの不注意によるものだろう。
「チェレンー!!」
ゴンッ!
かくしてチェレンは背後に迫っていたベルの突撃に気付かずに、額に赤いタンコブを生産した。
「ごっ!ごめんねぇっ!チェレンごめんねー!おでこ大丈夫!?」
わぁわぁとベルがチェレンの肩を揺さ振り、喚く。
謝罪の言葉を繰り返すベルにズキズキと痛む額を押さえてチェレンは宥める。
「大丈夫だから。それよりどうしたの?何か用だった?」
「え?用なんて特にないよ?」
きょとり、と小首を傾げてベルが言うものだからチェレンは半眼になって彼女を見返した。
「用があったから突撃してきたんじゃないの?」
「違うよー!歩いてたらチェレンが見えたから嬉しくなって突撃しちゃったの!」
けらけらと笑うベルの発言にチェレンは呆然とする。
「……はぁ」
一瞬の間を置いて溜息をつく。
諦観混じりの溜息をついた顔はそれでもどこか嬉しげだ。
苦笑にも見える破綻した笑顔を向けてチェレンはベルの額にデコピンを繰り出した。
「いったぁ!チェレン酷いー!」
「お相子だよ。僕だって痛かったんだから」
唇を尖らせるベルは変わらない。
昔っから彼女だけはチェレンが読書に浸っていようが構わずにチェレンを振り回し続けた。
「チェレン遊ぼうよぉ!ご本ばっかり読んでちゃ駄目だよー!ほら、お日様に会いに行こー?」
いつも決まってその台詞でチェレンを外に、皆の輪の中に連れ出して、ベルは向日葵の様に笑うのだ。
最初は煩わしく思っていたそれが楽しみに変わっていたのはいつ頃からだろうか。
今では幼なじみとなった彼女はチェレンにとって想定外の存在だ。
彼女の奇天烈な行動は長年幼なじみをやっていても中々予測出来ない。
「ベルってさ、本当にドジだよね」
「ひっどぉい!チェレンはもやしっこじゃない!」
「その分頭は良いけどね」
「屁理屈!」
君だけはいつも僕の予想の上を行く。
そんな君にいつも驚かされてばかりだけど、案外そんな日常も悪くないんだ。
ベルと口喧嘩をしているチェレンは気付いているのだろうか?
先程まで本で埋めつくされていた思考が幼なじみのベルの事で一杯になっている事に。
I think of you night and day.
(君の事で頭がいっぱい)
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幼なじみなチェレンとベルの現代パロ。
ゲームのチェレンの性格を考えるとチェレンは人と上手く付き合えない子だなと思いまして。
そんなチェレンを天真爛漫なベルは引っ張り回せば良い。
周りも一人の時のチェレンは近付きたがい存在だとか思ってるけど、ベルと一緒のチェレンを見て、あれ、案外こいつって普通なんじゃね?って興味を持てば良い。
そんな願望。