「ルビー」

「サファイア」

白い息を吐いてルビーの名前を呼ぶのは、青いバンダナを巻いたサファイア。
ちらりとサファイアを一瞥して、屋根によじ登ってくる彼女に自分が羽織っていた厚手の上着を渡す。
ルビーの隣に腰掛けたサファイアは「必要なかよ」と断るが、ルビーが強引にサファイアに上着を羽織らせた。

「要らんっち言うとるのに…」

「だーめ。女の子が身体を冷やすのは良くないよ」

マフラーに手袋、薄手のカーディガンを羽織った軽装備のサファイアをじろりと睨む。
睨まれたサファイアは慌ててルビーから顔を背け、ごまかす為に手を擦り合わせて息を吹き掛ける。

「そ、そうと!あんた、なしてこげな所におると?あんたらしくなかよ」

年越しをセンリ家とオダマキ家で過ごしているのは、センリ一家がミシロタウンに引っ越してきてからというもの、毎年恒例の行事となる予定である。
その予定を確実な物にする為にサファイアとオダマキはセンリ一家にお邪魔していたのだが、大人達が酒でほろ酔い状態になる頃にはルビーの姿はどこにも無かった。
そんな彼を探してサファイアはルビーの部屋へ赴き、開け放たれていた窓から屋根へと登った。
そうしてルビーは屋根の上に居て、彼を探す目的を果たしたサファイアは次に何故こんな場所に居るのか、その理由を知る為に質問を投げた。

「ちょっと、ね。夜風に当たりたかったんだよ」

「ふぅん…」

真っ直ぐに外の景色を見つめるルビーをサファイアは納得がいかない様子で眉を顰めながら相槌を打つ。
足を抱えてサファイアは夜空を見上げた。
雄大な土地、豊かな土地であるホウエンは自然が美しい。
都会には無いであろう新鮮な空気。
肌を刺す様な冷たさが夜の闇を包むが、その空に輝くのは数多の星達。
キラキラと瞬く星の輝きはまるで歌を奏でている様にも見える。
綺麗かねー。
自然の美しさに見惚れていると唐突にくしゅんという音が。
音のする方へ顔を向ければ、ルビーがティッシュで鼻をかんでいた。

「返すったい」

上着を脱いでルビーへと渡そうとするが、ルビーは頑なに首を左右に振って受け取らない。

「あー!もうっ!頑固な男とね!」

勢い良く立ち上がったサファイアはルビーの後ろへと周り、背後から彼を抱きしめた。

「ちょっ!サファイア!?」

ルビーが慌てた声を上げるがそんな事は気にしない。

「あんたが受け取らんからったい。こうしとればちょっとはあったかいけんね」

「…サファイア、ちょっと離れて」

「嫌とー。離れたらまーたくしゃみするんやろー?あんたがこの上着ば受け取るまでは離れんったい」

「じゃあ、受け取るから離れて」

「…分かったち」

そろそろとルビーに回していた手を離して彼から離れる。
すると突然ルビーが振り向いて、サファイアの腕を掴んで力強く引っ張った。

「な、何ばしよっとか!?」

構えていなかったサファイアはルビーに引っ張られるがままに彼の腕の中へと倒れ込む。
上から倒れてくるサファイアを受け止めて、その身体を抱きしめるとルビーはにっこりと微笑んだ。

「抱きしめられるのも良いけど、今のボクの気分的に抱きしめたいんだよね」

「嘘つきー!上着ば受け取るっち言ったとやろ!?」

「あははー」

「笑ってごまかすんじゃなか!」

先程とは逆の立場になってサファイアはルビーの抱擁から逃げ出そうと足掻く。

「寒いんだから離れないでよー」

「だったら上着ば着れば良か!!」

「嫌だ」

「ルビー!」




一頻り暴れたサファイアはやがて諦めたのか、大人しくなった。
自分の腕の中で大人しくなったサファイアを抱きしめて、ルビーはぽつりと呟く。

「…思い出してたんだ。この一年の事」

「思い出す?」

首だけ動かしてルビーを見るとルビーは微笑した。

「ミシロタウンに引っ越して、家出して、君と出会った」

「あたしはグラエナから襲われとるあんたば助けて、喧嘩して、賭けばしたったい」

「その後、ミツル君と友達になって、道中で君と再会した」

「二つ目のジムバッジば手に入れる為にムロに来たらあんたに会って、それからマグマ団と闘う為に共闘したったい」

「コンテストでリボンを貰って、師匠に弟子入りして、ヒワマキでまた君と再会して」

「あんたが強かこつ、初めて知ったと。そんであんたと喧嘩して」

「今度は戦地で君と再会した。マグマ団とアクア団からホウエンを守る為に、君と共に闘う為に」

「マツブサとアオギリから宝珠ば取り返してマボロシ島で修業ばしたったい」

ルビーとサファイアで交互にこの一年間の事を言い合う。
穏やかに紡がれていく言葉とは裏腹にサファイアの心は期待と緊張で満たされている。
もしかしたら覚えとるんやなか?
こん調子で言ったら、ルビーはあん時マボロシ島であった事ば言葉にしてくれるんやなかと違か?
ゴクリと生唾を知らず知らずの内に飲み込む。

「それからもう一度闘って、ボク達はホウエンを守る事が出来た」

そうきたか。

「……そうやね」

ぐっと唇を噛んで、詰問してしまいたい衝動を堪える。
どうしても、今この瞬間を、穏やかな雰囲気を壊したくないのだ。

「この一年間は色々な事があったんだ」

「うん」

「だから改めて一年間を振り返ってみて、君に言いたい事が一つあるんだけどさ」

ゴーン、ゴーンと除夜の鐘が鳴る。
ルビーはポケギアで時間を確認すると「…three、two、one…」カンウントダウンを始めた。

「明けましておめでとう。今年もよろしく、サファイア」

それは今年もミシロタウンに居る。
そういう意味に取れる事をルビーは解っているのだろうか?
例えばもしもそうじゃなくても。

『一緒にミシロへ帰ろう?』

あの時の言葉の返事なのだと思い込む事にしよう。
あんたやってはぐらかしてばっかりやし、こんくらい良かとでしょう?

「明けましておめでとうったい!今年もよろしくとよ!」

満面の笑顔を咲かせてサファイアが笑うから、ルビーの微笑みも一層優しく、嬉しさが混じって。
またクスクスと笑い出す少年と少女の本当の願いを知っているのは夜空に輝く星達だけであった。





願わくば。
ずっとずっと君の、あんたの傍に。



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これからもルサは喧嘩しながらナチュラルにいちゃつけば良い(^O^)/
ちなみにフリー小説なので良かったらどうぞ。


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