大変、大変、大変ったい!
窓からやって来たのは一人の野性児。
性別は女。
推定年齢12歳。
いや、推定ではないけれど。

ルビーはおもむろに溜息をつきたくなった。
隣人であるこの少女は未だに玄関からお邪魔する事を覚えない。
突然やって来ては窓から侵入する少女を睨みつけて、ルビーは眼鏡を外す。

「窓から入らないで玄関から入ってきてよね」

形になってきている洋服から針を抜き、溜息混じりに非難すると、突然の闖入者は素直に頭を下げた。
その手には先程まで履いていたと思われる靴が握られている。
以前までは土足で人の部屋に上がっていたのだ。
それから比べると進歩した、と言うべきだろうか。
口がすっぱくなる程注意し続けた甲斐があったという物だ。
一人納得してうんうんと頷いていると、少女が「ルビー!」と大きな声を上げる。
それに動揺する事なく、すらりと伸びた細長い指をぴっと自室のドアへと向ける。

「靴。玄関に置いてきて」

有無を言わさぬ威圧感をにこりとした微笑みに上乗せさせれば、少女はぐっと口をつぐみ、渋々と大人しく玄関へと向かう。
パタリと閉じたドアの音と階段を駆け降りる音を聞きながら、ルビーは思案する。
さて、次はどうやって玄関から家へと上がる事を覚えさせようか。
根気よく付き合っていけば先程の靴然り、悪い癖が直るかもしれない。

「ルビー。あんね!」

靴を玄関に置いてルビーの部屋へと戻ってきた少女がドアを開くと同時に喋り出す。

「何だい?」

制作途中の洋服と裁縫道具一式を片付けて、努めて優しく微笑めば、少女は安心した様に微笑してルビーへと疑問を投げ掛ける。

「もしも明日、隕石が落ちるとしたら隕石が落ちる前にルビーは何がしたか?」

「……what?」

「わ…?何ね、それ」

聞き慣れない英語を耳にしてサファイアが首を傾げる。

「ああ…えーと、いきなり何言ってるのさ?隕石なんて」

「先生の所に行っとったんやけど、そこでフウとランが遊びに来とって、そんで二人から聞いたとよ」

「明日、隕石が落ちるって?」

サファイアの言葉に続けて問うと、サファイアはうんと頷く。

「そんなの出鱈目でしょ?確かな事だったらテレビで放送されてておかしくないし」

呆れて溜息をつくとサファイアが反論する。

「ばってん、ツイッターでは色んな人が言うとるんよ?」

「…君、ツイッターなんて知ってたのか…」

文明の利器であるツイッターを原始人もとい野性児であり、最近といっても二年前だが文明人の仲間入りを果たしたばかりのサファイアが知っている事に驚きだ。

「失礼ったい!あたしかてちょっとは知っとるもん!」

ルビーの失礼な態度と発言にサファイアが憤慨する。

「アハハ。ごめんごめん。それで隕石が落ちるとしたらその前に何がしたいかだっけ?」

「そうとよー」

笑いながら謝るルビーを睨みつけて頬を膨らまし、むくれるサファイアはにやりと意地の悪い顔で笑うと肘でルビーを突いた。

「どーせ、あんたの事ったい。化粧品ば買い漁ったりするんやろ?」

「違うよ」

「…え?」

「もしも、明日隕石が落ちるなら、隕石が落ちて地球が無くなる前にサファイアに会いに行くよ」

からかいを揶揄する笑顔ではなく、真面目な表情でさらりと言うルビー。
ルビーの予想外かつとんでもない発言にサファイアの頬が紅潮する。

「…な、何ば言うとう。ルビーそれ、一体どげん意味で」

「なーんてね」

言うとんの?そう聞こうとしたサファイアを遮り、ルビーがニコリと笑う。

「は、…え?」

「そうだね。多分ボクなら君の言う通り、化粧品買い漁って、MIMI達をbeautifulに着飾るさ。満足いくまでね。そういうサファイアこそ、何をするんだい?」

ニコニコと笑うルビーの笑顔からは先程の言葉の真相は窺い知れない。
真剣であった表情は一転して、笑顔の仮面を被るルビーはいつもと変わらない表情でサファイアをはぐらかす。
こうなったらどんなにサファイアが頑張っても、ルビーは絶対に口を割らない。
サファイアは溜息をついて諦めると、返事をした。

「あたしは隕石が落ちる前にこのホウエンば、地球ば守りたかよ。何とかして隕石ば来ない様にするか、隕石ば砕くったい」

「じゃあ、ボクは君と一緒に隕石から地球を守ろうかな。だって他地方には先輩達とエメラルドが居るし、ホウエンには師匠やミツル君、父さんにママ、オダマキ博士や君が居るからね」

「ルビー…」

変わったと思う。
いつの日だったか、サファイアがホウエンを守ろうとルビーに呼び掛けて、彼はそのサファイアの熱い想いを拒絶した。
引っ越してきたばかりのホウエン地方。
都会で育ったルビーにとって雄大な土地のホウエン地方は田舎過ぎる。
愛着なんて持てない。
コンテストを制覇したらジョウト地方に帰りたいくらいだ。
そう言ったのを覚えている。
結局、紆余曲折の末にルビーはサファイアとホウエンを守ると体を張ってくれたけれど。

「……愛着、湧いたと?」

「ここは住み心地が良いからね」

肯定して笑うルビーはいつもの大人びた微笑でも、サファイアに対する意地の悪い笑顔でもない。
年相応に笑う少年の姿がそこにはあった。

「ルビー。ありがとう…嬉しかよ」

頬を紅く染めて、嬉しそうに微笑むサファイアをルビーは目を細めて眺める。
目の前の少女と過去の少女の笑顔が重なって見えた。

『ー…一緒にミシロへ帰ろう?』

嵐の中で満面の笑顔の少女と現実に目の前で微笑む少女。
思い出して、重ねてはその眩しさに目が眩みそうになる。
きゅうと音を立てるのは体のどこの部分だろうか。
思考を巡らせれば辿り着きそうな答えを振り切る為にルビーは自分自身をごまかす。

「ねぇ、サファイア。今作ってる物は別として次はどんな服が良い?」

「あんたが作ってくれるんなら何でも良かよ」

「じゃあワンピースにしようかな。白を基調にして淡い色合いの奴で、ふんわりした感じの」

「そんなのあたしには似合わんち」

「そんな事ないよ。きっと君に似合うと思う」

「…っ、か、勝手にするったい!」

隕石が落ちるかなんて分からないけれど、例えば本当に隕石が落ちるとしても。
それでも、少年と少女はそんな未来を吹き飛ばして、自分達の望む未来へと突き進むのだろう。
それが少年と少女が選ぶ道なのだから。

**************
ルビーとサファイアの会話を書くのが一番楽しかった!
原作っぽいルサを目指して撃沈しました(笑)
原作っぽく書くのって難しいなー。


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