ー…レッドさん、レッドさん。レッドさん!
夢現の中、イエローの焦った様な声が響いた。
「ー…ん。あ、れ?イエロー?」
目覚めてみたら目の前にイエローが居て、今にも泣きそうな顔でオレを見つめていた。
当然オレはぎょっとする訳で。
ぼーっとしていた頭が急速に覚醒していく。
「な、何だ!?どうしたんだ!イエロー、何かあったのか!?」
仰天してイエローの肩を掴めばイエローはぽろりと溜めていた涙を零す。
「わっ!ごめん!痛かったよな。本当ごめん!」
慌てて手を離すと今度はイエローがオレに飛び付いてきた。
「レッドさーんっ!良かったですぅっ…。レッドさんに会えましたぁっ!」
わーんと泣いて叫ぶイエロー。
ごめん、イエロー。
オレ、頭悪いからイエローが言いたい事とか何があったのかとか全然分かんないんだ。
出来れば状況説明とかして欲しいんだけど、それって贅沢かな?
言いたい事は山ほどあったけど、イエローが泣く理由が分からないオレはとりあえず、イエローを落ち着かせる事を優先させた。
「…つまり、17日に隕石が落ちるかもしれないから落ちる前にオレに会いに来たって訳?」
「はいぃっ…。レッドさんに会えないまま、死ぬなんて嫌なんですもん…っ」
ひぐひぐと鼻を鳴らすイエロー。
言ってる事が可愛い。
けど、イエローがそう思うのもオレが修業だとか言ってシロガネ山に山篭もりしたり、他地方にふらふら出掛けてしばらく戻って来ないでイエローに心配ばかり掛けるからという理由があるから、何というか物凄く申し訳なくなる。
居た堪れなさを粉砕するべくオレは泣き止んだイエローに質問を投げ掛けた。
「あー、何だ。…その、イエローは一人でここまで来たのか?」
「え?」
きょとりとするイエロー。
「いや、だから一人でシロガネ山の頂上まで登って来たのかって聞きたいんだけど。だってほら、ここら辺の野生ポケモンって凶暴っつーか、手強いからさ」
「ああ!はい!レッドさんに会いたくて、夢中で走ってたらここに着いてました!」
合点がいったイエローはニコリと笑った。
つまり、一人で来た、と。
そっと寝袋から抜け出して、洞窟から外を眺める。
そこには死屍累々と化した野生ポケモン達が倒れている。
…いや、屍じゃない。
全部、マヒして動けないだけだ。
全滅状態の光景にオレの背筋がぶるりと震えた。
恐るべし、トキワの森のイエロー。
オレはトキワの森の力の片鱗を肌で感じて身震いする。
「…レッドさん?どうかしたんですか?寒いんですか?」
「ああ、何でもないよ。それよりさぁ、イエロー。隕石の話だけど、嘘だと思うよ」
「…え?何でですか?」
「だって今日18日だし」
「えっ、あ、あれ…?」
「ほら、図鑑にも書いてある」
「う、うわ…!本当だ!」
図鑑を見せると顔を真っ赤にして恥ずかしい…!と両手で覆う。
穴があったら入りたいと小さくなるイエローは可愛くて人畜無害な言葉が良く似合う。
こんな人畜無害な女の子が闘ったら物凄く強いなんて誰も信じないだろうな。
「まぁ、嘘だった訳だし?明日も地球は存続してて、オレはイエローとまたこうして会えるんだから、良いんじゃないか?」
実のところ、オレを想って無我夢中で駆け付けちゃうイエローが見れた事だし、オレとしては得をした訳だから、満足なんだ。
「〜っ…はい」
恥ずかしがって、でも、花が咲いた様に笑うから、オレもつられて笑顔になった。
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テーマは触らぬ神に祟り無しです(笑)
トキワの森を荒らしたり、イエローの怒りを買うと百万ボルトを喰らいます(笑)
イエロー、ごめんね。
こんな話しか浮かんでこなかった。