ああ、何て憂鬱なんだろう。
「おじいちゃん、私達に何の用なんだろーね」
ファイアのベッドに寄り掛かって問い掛けると、ベッドに胡座をかいて座るファイアが空のモンスターボールを磨く手を休めて私に視線を向けた。
「そりゃ、やっぱ兄さん達みたいに俺達にポケモンと図鑑くれるんじゃない?」
うきうきとした声は弾んでいて嬉しそうだ。
そうだよね。
ファイアは嬉しいよね。
レッド兄の後を追い掛けられるもんね。
先に旅に出た兄さん達を思い浮かべて私は溜息をついた。
「何だよ。溜息なんかついて。リーフは嬉しくないの?旅に出られるんだぜ?」
「乙女心は複雑なの。鈍感なファイアには分かんないだろうけど」
立ち上がってファイアの帽子の鍔を前に引っ張る。
「私、もう帰るね」
わっと小さく驚くファイアの声を背に、私はドアノブに手を掛けた。
「待ってよ、リーフ!俺、お前の言う通り鈍感だからお前が何に悩んでんのか分かんないけど、でも…一緒に笑う事が出来るから!」
突然何を言い出すの?
予想外な言葉に驚いて振り返る。
「一緒に旅に出たら、悩み事なんて吹っ飛ぶよ!これからもっと楽しい事を一杯体験していくんだ。だからきっと楽しいよ!」
悩み事なんて笑って吹き飛ばせ?
何て無茶苦茶な事を言い切るのだろうか。
「ファイアの理屈は目茶苦茶だよ」
小さく吹き出して笑うとファイアはそうかな?と眉を寄せている。
そんな彼にありがと、と小さくお礼を言って私は今度こそファイアの部屋を出た。
旅に出るのは相変わらず憂鬱だけど、少しだけ、重苦しかった心が軽くなった気がした。
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「変わらないもの」のリーフとファイアです。
時間軸は「変わらないもの」より少し前。