五月。
梅雨の時期。
じめっとした空気が嫌になるのはきっと万国共通で人間が嫌がる筈のものだろう。
少なくとも自分は余り好きではない。
チェレンは溜息をついて教室へと向かっていた。
今日は何かと忙しくて日直の仕事を忘れていた。
自分の失態に苛立ったチェレンは教室へと向かう足を速めた。
放課後の教室には人気はなく、皆真面目に部活に行っているか、家に帰って勉強しているのだろう。
実際にはゲームセンターやデパート等で遊んでいる生徒の方が多いのだが、そんな事はチェレンには想像出来る筈もなく。
勤勉かつ生真面目なチェレンは自分の持つ常識範囲内で見当をつけた。
教室の引き戸に手を掛けて開くと、中には知った顔の少女が居た。
黄色い髪のボブヘアー。
丸い頭部が可愛くも見える彼女はチェレンの幼なじみである。

「…何してるのさ、ベル」

窓際に椅子を持ってきて外を眺めていたベルは声を掛けられ、振り向いた。

「雨が降ってるから外を見てたの」

ほら、と窓の向こうを指差してベルは朗らかに笑った。
ベルの近くにある机に日誌を置くと、椅子に腰掛けたチェレンはベルが指差す方向を一瞥した。
そして視線を日誌へと戻すとペンを取って日付を綴る。

「…何か、珍しい物でもあった?」

「うーん。珍しいというか…蛙がね、鳴いてるの」

首を傾けて考えるように間延びしてからベルは答えた。

「…普通じゃないか」

「そうなんだけど…ほら、アレ見てよ」

ベルに促され、チェレンは窓枠に手を付いて下を覗き込む。
そこには大、中、少と大きさの違う蛙が横に一列に並んでいた。
それぞれ順を追う様にぐわぁぐわぁと鳴いている。

「何だか童謡みたいじゃない?かーえーるーのーうーたーがーきーこーえーてーくーるーよーって」

「…ぷっ」

「むっ、なぁに!笑うなんて失礼よ!?」

吹き出したチェレンの反応にむぅと頬を膨らませてベルは眦を吊り上げた。

「蛙の歌って…幼稚過ぎだよ」

「そんなことないもん!」

いや、幼いよ。
花の女子高生が発想するのが蛙の歌って…幼稚園生じゃないんだからさ。

「…それよりも、本当は雨宿りしてたんじゃないの?」

さっき、質問した時にベルが本当の事を隠して答えていたのは分かってるんだよ?
そういう含みを持たせて彼女に微笑を向けるとベルはぎくりと肩を強張らせた。

「…え、何でそう思うの?」

「君の幼なじみを16年もやってるんだ。隠し事なんてしてもすぐに分かるよ」

「…チェレンには敵わないなぁ…」

あっさり隠していた事を認めるとベルは困った笑顔をチェレンに向けた。

「傘を忘れちゃったの。…だから雨足が弱まるまで待ってようと思って」

「折り畳み傘は?」

「今日に限って忘れてきちゃって…」

あはは、と笑うベルをじっと見る。
ひたすらに無言でじーっと。
やがてチェレンとの間に流れる静寂に耐えられなくなったベルはしおしおと項垂れた。

「……嘘です。本当は持ってきてました」

「そう。…誰かに貸したの?」

「うん。アイリスちゃんが傘を忘れて困ってたから…」

アイリス。
確か言動、行動共に幼さが際立つクラスメイト。
明るく天真爛漫な彼女がこのクラスのマスコット的な存在である事は誰もが認めている。

「ああ、あの娘か」

元気いっぱいなアイリスを思い浮かべながらチェレンは頷いた。
きっと困って右往左往する彼女の姿を見かねて傘を渡したのだろう。
ベルはそういう子だ。
後で自分が困る事になっても目の前で困っている人を優先する。
三つ子の魂百までも、とはいうけれど本当に変わらない。
日誌を書き終えたチェレンは立ち上がって苦笑した。

「日誌を職員室に届けたら一緒に帰ろうか」

「…!うんっ!」

呆れながらも何だかんだと優しい幼なじみにベルは嬉しそうに微笑んだ。

(ちょっとそんなにくっつかないでよ)
(仕方ないじゃない!濡れちゃうもの)








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幼なじみなチェレンとベルが一緒に相合い傘してたら可愛い^^



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