久しぶりにオーキド博士の居るマサラに帰って来たので研究所に顔を出してみた。

「こーんにーちはー」

チャイムを一回鳴らして暫く待つ。

「…はい」

慌ただしい足音がしてドアが開くと重力に逆らった二つ縛りが目立つ藍色の髪のクリスタルが出て来た。

「はぁい。久しぶりー!マサラに帰って来たから寄ってみたの」

これ、お土産ね。
そう言って差し出す紙袋をぼんやりと眺めたクリスタルは視線を紙袋からブルーへと移すと僅かに口元を震わせ、ブルーに抱き着いた。

「ブルーさぁん!」

わんわんとクリスタルが泣き出すと研究室から出て来たオーキドが駆け寄って来る。

「何じゃ!?どうしたんじゃ!?」

クリスタルに抱き着かれたブルーは目を丸くしていたが、突然響いた泣き声を聞き付け、駆け付けたオーキドを見ると困った笑顔でオーキドに頼んだ。

「…忙しい所悪いんだけど、半日くらいクリスを借りても良いかしら?」

「あ、ああ。何なら一日借りてても構わん。…クリスタルくん、今日はゆっくり体を休めなさい」

状況が飲み込めないオーキドはクリスタルの身に何か起こったのだろうと推測して暇を出した。

「ありがとう。それじゃあ行くわね。あ、これお土産」

オーキドに土産物を渡すとブルーはクリスタルの手を引いて歩き出した。




「…取り乱してご迷惑お掛けしてすみませんでした」

ぐずぐずと鼻を鳴らしてクリスタルは頭を下げた。
冷たい水で濡らしたハンカチをクリスタルへと差し出すとブルーは自室のソファーに腰掛ける。
ブルーから受け取ったハンカチを赤く腫れる目元に当てて、隣に座ったブルーを見ると彼女は眉を下げて苦笑していた。

「後輩が泣いてんのにそれを迷惑と受け取る先輩がどこに居んのよ。変な事を気にしないで胸に溜まったモヤモヤを頼りになる先輩に吐き出しちゃいなさい」

ぺしりとクリスタルの額を軽く叩く。
叩かれた額を撫でてクリスタルは小さく笑った。

「それじゃあお言葉に甘えさせて頂きます」




事の発端はゴールドだった。
ジョウトの第二研究所でポケモンの生態について、資料を纏めていたクリスタルの元に突然ゴールドが訪れた。
ゴールドは何をするでもなく、土産物だといういかり饅頭を貪り、忙しなく働くクリスタルを眺めていた。
その日を境にゴールドは毎日、研究所に訪れてはクリスタルの仕事を邪魔する様になった。
ゴールドが仕事を増やすおかげで仕事を片付ける為にクリスタルの睡眠時間が減る。
睡眠不足により、仕事を失敗する。
悪循環。
極限までに神経の擦り減ったクリスタルはオーキドのマサラへ来いという呼出し要請に喜んで応えた。
そして、クリスタルがマサラに到着した直後にブルーが彼女の元に訪れた。
同じ図鑑所有者で同性で頼りになる先輩。
緊張の糸が切れたのか、クリスタルは泣き出した。

「ー…つまり、忙しいのにゴールドの馬鹿が邪魔ばかりして仕事を増やして、それでその後始末もしなくちゃいけなくて。全部片付ける為に睡眠時間を削りざるを得なくて、睡眠不足によって仕事のミスが増えて、仕事が増える、の悪循環だった訳よね?」

「…そうです」

確認するとクリスタルは悄然とした様子で頷いた。

「ゴールドには迷惑だって言った?」

「いえ、ただ邪魔しないで!と怒鳴ったりはしましたけど」

「……じゃあさ、ゴールドが毎日来る前に何か言われた事とかない?」

「……えーと、確か…「お前、そんな仕事ばっかしてて疲れねぇ?たまには息抜きすれば?」って言っていました」

首を傾げてクリスタルが答えるとブルーは額を手で押さえて、溜息をついた。
それだ。
おそらくゴールドはクリスタルに仕事を中断させて休ませたかったのだろう。
自分の予想を確実な物にする為に確認を取ってみる。

「もしかして、ゴールドは「外に行こうぜ!」なんて言ってクリスを外に連れ出そうとしたりしたんじゃない?」

「何で分かるんですか!?」

仰天するクリスタルを見つめて再度ブルーは溜息をつきたくなった。
…やっぱり。
ゴールドの性格から考えてクリスタルに労りの言葉をかけてやり、息抜きをしろなんて言えないだろうから強引に外に連れ出そうとしたのだろう。
そしてクリスタルは真面目で勤勉だからそのゴールドの誘いを断っていたのだろう。
ゴールドの意図に気付かずに。
…何というすれ違いだろうか。
全てを把握したブルーは落ち着きを取り戻しているクリスタルに向けて苦笑した。

「…まぁ、あれよ。好きな子程虐めちゃうっていう子供の心理みたいなもんよ」

「何ですかそれ!冗談言わないで下さい!」

間髪いれずに反論されたブルーはごめんと一言謝ると憤るクリスタルをじっと見つめた。
そして、柔らかい微笑みを浮かべる。

「…多分だけど、きっとゴールドはクリスに体を休めて欲しかったのよ。あんた、働き者だからね」

最後に苦笑してクリスタルの頭を撫でると彼女は沈黙した後に口を開いた。

「……そうなんでしょうか…?」

納得いかない。
そんな表情をするクリスタル。
彼女にそうよ、と返してブルーは笑った。

こーいう事に関しては意地っ張りで素直じゃないゴールドらしいけど。

それはつまりなのよ


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不器用ゴールド。
鈍感クリス。
大人な姉さん、ブルー。
な仕様でやってみた。

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