引っ越した早々、散々な目に遭った。

お父さんがトウカシティのジムリーダーに就任したから都会から田舎へと引っ越してきた。
友達と離れ離れになるのは寂しいけど、でも家族揃って生活出来るのが嬉しかったから不安や寂しさより期待とか希望とかそういったわくわくした気持ちが胸に溢れていた。
引っ越し先はミシロタウン。
お母さんは自然が溢れていて良い所よって言ってたけど、適応出来るかちょっと不安。
デパートとかすぐ近くにあるかな?
お洒落したいし、洋服だって欲しいもん。
生活だって不便なのは嫌。
楽しい毎日を送りたいから憂鬱な日々なんてごめんこうむる。
なんて考えていたらトラックがガタンと揺れて止まった。
着いたのかな?
首を傾げるとバンと音がして扉が開く。
眩しい。
目を細めるとお母さんが顔を出した。

「ハルカ、着いたわよ。外見てみなさい」

促されてトラックから降りる。

「わあ…っ!」

これは何とも想像以上だ。
どこを見渡しても緑、緑、緑。
目に優しい大自然ね、なんて感想と共に生活出来るか早くも不安を感じた。

「空気も美味しくて良い所ねー。ああ、引越しの人達、先に着いてるじゃない。早く行かなくちゃ」

お母さんに続いて私も新たな我が家へと入った。
家の中には引越し作業を行ってくれる人とその手伝いのゴーリキーが居た。
忙しく動き回る彼等にお疲れ様ですと心の中で労ってあげる。

「ハルカ、貴女の部屋は2階よ。見ておきなさい。それから時計も時間を合わせておいてね」

「はーい」

差し示された先にある階段を上って右手にあるドアを開けるとそれなりに広い部屋があたしを出迎えた。

「わっ!意外と広ーい」

前から使っていたパソコンにベッド、机に絨毯、クローゼット。
それらが揃った状態の部屋にあたしは感動した。
ここまで配置してくれるなんて引越しセンターのサービスも中々やるじゃないっ!
高揚した気分であたしは時計の時間を合わせた。
午前10時30分。
朝から出発したからお腹空いた。

「お母さーん」

階下に下りたあたしにお母さんは手招きをした。

「ちょっとハルカ!早く来て!お父さんが映ってるわよ!」

「えー?お父さんがー?」

のんびり歩いてテレビに向かうと活発な女の人の声が聞こえた。

『ー…以上!トウカシティのジムリーダー、センリさんでした!』

「あー…ハルカが遅いから終わっちゃったじゃない」

「別に良いじゃない。今日、顔見るんだし」

残念そうなお母さんにそう言うとそんな冷たい事言わないの!と頬を膨らませて怒られた。
いや、貴女こそ良い歳して何やってんですか。

「そうだ!せっかくだからお隣りさんにご挨拶してきて!お母さんは皆さんと一緒に荷物片付けちゃうから」

「了解しました。何か持ってかなくて良いの?」

「後で改めてご挨拶に行くわ。だからその時に」

二度手間じゃないだろうか。
そう思ったけど口には出さずに家を出た。
だって口にしたらさっきみたいに怒られるのは明白だもんね。

「ごめんくださーい」

インターフォンを鳴らして暫く待つと「はーい」と言う女の人の声が聞こえた。
と同時に扉が開いて二つ結びの綺麗な女の人が顔を表した。

「あら?どなたかしら」

「あのっ…!私、隣に引っ越してきた者でハルカといいます。後ほど改めてご挨拶に伺うと母が言っていました」

あああ、私、何言ってんだろ。
絶対今文章変。
とりあえず伝えたい事だけ伝われば良いんだけど。
緊張して変な事を口走る私に綺麗な女の人はくすりと微笑んだ。

「もしかしてセンリさんの娘さん?私はオダマキの妻です。夫から話は伺ってるわ。そうだ!良かったら息子に会って来て貰えないかしら?あの子、新しい友達が出来るって喜んでたから」

「あ、え、あの…」

目まぐるしく変わる状況に思考が追い付かない。
混乱する私にオダマキさんの奥さんは私の背を軽く押した。
彼女に促され、気まずい思いで私はその息子さんの部屋に訪れた。
ドアノブに手を掛けて大きな音を立てない様にそーっと開く。
ゆっくりと開いた隙間から私と同じ間取りの部屋が見えた。
外から見た時も思ったけど、やっぱり同じ家の造りしてるんだ。
部屋に入った私はパソコンに向かう男の子に目がいった。
私と同い年に見える。
家の中なのに白い帽子被って変なの。
その男の子はぶつぶつと独り言を呟いていた。
気になって耳を澄ますと「…よし、傷薬よし、」なんて声が聞こえてくる。
私に気付かない男の子に近付いて遠慮がちに声を掛けた。

「あのぅ…」

「わっ!何だよ、びっくりした!…お前、誰?」

本気で驚いている男の子は私の存在にまったく気付いていなかったらしい。
何と言うか凄い集中力だ。

「あの、私、今日引っ越してきた…」

そこまで言いかけた私を遮って男の子は私を指差した。

「ああ!もしかしてお前が隣に引っ越してくる家族の子供か?てっきりジムリーダーの子供っていうから男だと思ってたのに…ふぅん。女の子か…」

品定めする目つきで私を爪先の先から頭の先までじっくりと眺める不躾な視線に私はむっときた。

「まあ、いいや。俺、今から出掛けるからまた今度な!」

そう言うとその男の子は私を素通りしてさっさと自分の部屋から出て行った。
残された私は呆然としていたけど、後から怒りがふつふつと沸いて来る。
何よ!あの態度!あの視線!
女の子に対してと言うか人に対して向けて良いものじゃないわ!
失礼よ!
腹は立つけどオダマキさんの奥さんに当たるのは違うと思うから控え目に挨拶をしてオダマキさん宅を後にした。
家に帰ろうとする私に小さな子供が駆け寄ってきた。
推定5歳。

「お姉ちゃん、あっちで人の悲鳴が聞こえるよぅ」

ぎゅうと私の服の裾を握る男の子を安心させる様に頭を撫でる。

「お姉ちゃんをその場所に連れて行ってくれる?」

「うん!」

男の子はほっとしたように笑うと私の手を引いてミシロタウンの叢の入口へと誘った。
そこに到着すると男の子の言う通り、人の悲鳴が聞こえる。

「助けてくれーっ!」

「お姉ちゃんが行くから君はお家に帰ってね」

「でも…」

「良いから」

私が念を押すと男の子はうんと頷いて自分の家へと踵を返した。
その動作を見送って私は悲鳴の聞こえる方へと走り出した。
駆け付けると恰幅の良い男の人が見たこともない生物に追い掛けられている。

「大丈夫ですかーっ!?」

声を掛けると私に気付いた男の人が大声を張り上げる。

「そこに置いてあるリュックにボールが入っているだろう?その中にはポケモンが入っている!そこから一匹選んでポチエナと戦って私を助けてくれ!」

ポケモンバトルなんてした事ない。
けど怖じけ付いてられない。
私は覚悟を決めて直感で選んだモンスターボールを投げた。
出て来たのはオレンジ色のひよこの様なポケモン。
可愛い。
場違いだけどそう思った。

「そのこはひよこポケモンのアチャモ!ひっかくと泣き声を覚えている!」

「アチャモ!泣き声!右から攻撃が来るわ!避けてからひっかく!」

テレビ中継や普段のお父さんを見てたから真似くらいは出来る。
そう信じて私はアチャモに指示を出した。
アチャモのひっかく攻撃をまともにくらったのか犬に思えるポチエナはキャンと鳴いて逃げて行った。

「いやー、助かったよ」

「意外とやるじゃん」

頭をポリポリと掻いて叢から抜け出す男の人の声と聞き覚えのある声が重なった。
木から飛び降りてきたのはさっきの白い帽子の男の子。

「ユウキ!見ていたのなら助けてくれれば良かったのに」

「いや、俺が駆け付けた時はもう戦いが始まってたからさ。…それにしてもお前、やるな。流石ジムリーダーの子供」

「お前じゃなくてハルカよ!それから私とお父さんは関係ないから!」

返します、とアチャモを抱き上げてオダマキさんに渡すとアチャモは抵抗してオダマキさんから離れると私の足に擦り寄ってきた。

「…どうやらアチャモは君にすっかり懐いてしまったようだね。どうだろう?君にアチャモを托そうと思うんだが…受けとってくれるかい?」

「え!?」

突然の申し出に私の目が見開く。
何か今日は驚いてばかりだ。
オダマキ一家は皆突拍子のない人達なのだろうか。
困っているとアチャモがちゃもーと私を見上げる。
そんな瞳で見上げないで。
断りづらくなる。
黙っているといつの間にかユウキ君が私の隣に立っていて、アチャモに腕を伸ばしていた。
アチャモを抱き上げると私に押し付ける。

「アチャモはお前…じゃなかった、ハルカと一緒に居たがってんだから一緒に居てやれよ。アチャモの事、嫌いじゃないんだろ?」

「そうだけど…」

「なら決まりだな。良かったなアチャモ!お前のマスターだ」

勝手に決めないで欲しい。
そう言いたかったけど、アチャモに向ける笑顔が物凄く優しくて私は口をつぐんだ。
成り行きでアチャモを手に入れた私が家に帰るとお母さんがアチャモの入ったモンスターボールを見て明るい声を上げた。

「ハルカ!貴女、旅に出なさい!貴女も世間的にはもう大人なんだし、ポケモンも手に入れたんだから!」

「はあ?」

私は思わず素っ頓狂な声を上げてお母さんを見つめる。
突拍子のない人がここにも居た。
私の言いたげな視線に気付かずにお母さんは一人でどんどん話を進める。

「となれば明日から出発ね!お小遣は三千円あげるから、何か必要な物を買っておきなさい。それからはい!」

「…何これ」

お母さんから強引に押し付けられた物をじっと見る。

「ランニングシューズよ。旅に出るんだからこれくらい歩きやすい靴を履かないとね」

つまりは最初から旅に出すつもりだったんじゃないか。
食えないお母さんを意味ありげにじとっと見つめるけど、お母さんは私の無言の講義なんてどこ吹く風の様に受け流している。
……………………。
たーっぷりと長い沈黙を作った後に私は深い溜息をついた。
それを了承と受け取ったお母さんはにこりと微笑んで、昼食作りに取り掛かった。
自分の部屋に戻った私は体をベッドに投げ出した。
引っ越し早々散々な目に合ったから疲れた。
うとうとと眠くなる。
ボールに入ったアチャモに微笑むと私は夢の中へと旅出った。

「これからよろしくね、あーちゃん」

**************
冒険が始まるよ!なお話を書いてみたかった。
要望とか気分が乗ったらとかで続きを書くかもしれない。
出来る限り原作沿いにしていきたいな^^


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