「あ!ライバルくんみっけ!」

聞き覚えのある声にちらりと視線を向けると少年は眉間に皺を寄せて自分が歩いてきた道を戻り始めた。

「なんで無視するのーっ?」

「ぐっ…」

ダダダダダと走って少年の背中に飛び付く。
出会って早々タックルをかましてくる少女をギロリと睨んで少年は低く唸った。

「お前に会いたくなかったんだよ…!」

「でもコトネは会いたかったもん!」

ぷくりと頬を膨らませて少年の背中にしがみつく。

「そんなもん、俺の知った事か。とりあえず暑苦しいから離れろ」

そう言えばコトネはいーやーっ!と駄々をこねて自分を引きはがそうとする少年に抵抗した。

「だってライバルくんに会うの久しぶりなんだもん!もっとお話したりポケモンバトルもしたいのにっ!」

耳元で叫ぶな。
鼓膜が破れる。

そう怒鳴ってしまいたいのをぐっと我慢して少年は苦労して背中の上に乗っかるコトネを説き伏せる。
苦労のかいがあったのか、納得したコトネはこくりと頷いて少年の上から下りた。

「じゃあ、ポケモンバトルしようよぅ…」

「ちょっと待ってろ。待てたらポケモンバトルをしてやる」

上目遣いで見上げてくるコトネにそう言うとコトネは嬉しそうに微笑んだ。

「うんっ!」

嬉しそうに笑うコトネから離れると少年はポケギアに登録してある番号を押して電話をかけた。
自分の声がコトネに届かない場所に来たことを確認してから、コール音の後に続いた声に罵声を浴びせる。

『もしもし?ヒビキです』

「お前あいつに何を教えてんだっ!」

『…はい?』

電話に出て突然の罵声。
少年の声は明らかに戸惑っていた。

「知り合いに会えば飛び付く!我が儘ばかり言って困らせる!お前あいつの幼なじみならもっとしっかり見張ってろよ!」

『え…ちょ…』

一息に全て言い終えると少年はぶつりと電話を切った。

「ライバルくーん!まーだぁ?」

大声で自分を呼ぶコトネに少年は怒鳴り返す様に叫んだ。

「今すぐそっち行くから黙ってろ!動くなよ!」

「はーい!」

天真爛漫、自由奔放な少女に振り回されるこの事実を不快に思いながらも少年は少女が自分を構ってくるのが嫌いではないのだろう。
それとも面倒見が良いだけか。
どちらかは分からないが少年は今か今かと自分を待ち続ける少女の元へと走り出した。

(…いきなり電話してきて何言ってるんだ?あいつ…)

**************
一番不憫なヒビキ君。
あの電話による苦情は思い切りライバルによる八つ当たりです。
いつの時代も保護者は苦労するお話(笑)


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