例えば、もしも。
ダイヤモンドとパールにもっと早く出逢っていたならば。
そしたら私も幼なじみという存在になれたでしょうか?
お二人と沢山の思い出を共有する事が出来たでしょうか?
でもそれは、仮定の話。
現実は違う事を存じております。
「プラチナ、今日はナナカマド博士の手伝いは要らないそうだ。久しぶりの休日だからゆっくりしなさい」
発端は父の一言からだった。
シンオウ地方でポケモンの研究を行っているナナカマド博士の元でプラチナとプラチナの父は手伝いをしている。
助手としての日常を過ごす中、その言葉はとても急なものだったとプラチナは思う。
突然空いた休日をどう過ごそうか。
考えればいくつか案が出た。
まず第一案が本を読む事。
しかし、今日はそういう気分ではないので却下。
次に第二案。
思い出すのは過去の旅。
自分と同い年の少年二人との冒険の旅。
第二案はダイヤモンドとパールに会いに行く事。
二人とは暫く会っていないから顔が見たい。
二人の顔を見て、他愛もないお喋りをして、それから二人の漫才が見たい。
思い立ったが吉日という言葉もあるのだ。
この第二案を採用しない筈がないとプラチナは家を飛び出した。
まずはダイヤモンドの家を訪ねた。
プラチナの訪問に対応したのはダイヤモンドではなく、彼の母親だった。
「あら、ごめんなさいね。ダイヤは出掛けていて居ないのよ。パール君の所へ遊びに行ったと思うから、今頃どこかで漫才の練習をしているかもね」
「いえ、こちらこそ突然お尋ねして申し訳ありませんでした」
申し訳なさそうに謝る彼女にプラチナも深々と御辞儀をして謝り、踵を返した。
「プラチナちゃん!」
呼び止められて振り返るとダイヤモンドの母親は柔らかな微笑を湛えて言った。
「また、いつでもいらっしゃい」
朗らかな微笑みはプラチナの良く知る微笑みと酷似していて彼女はダイヤモンドの母親なのだと改めて思った。
ダイヤモンドの母親から得た二人の情報。
漫才というならどこででもやっていそうなものだが、一つ心当たりがあった。
コトブキタウンの会場。
あそこで特賞を取った事がある二人ならもしかしたらコトブキタウンで練習しているかもしれない。
ギャロップに乗ってプラチナはコトブキタウンへと駆け出した。
コトブキタウンに到着後、ギャロップを労ってからモンスターボールに戻し、コトブキタウンの会場を目指した。
目的地に到着後、周辺を探し回ってみたが、ダイヤモンドとパールは一向に見付からない。
……当てが外れましたね。
溜息をついて周辺を見渡すと離れた場所に木陰があった。
体を休めるのに丁度良いです。
木陰を目指してゆっくりと歩くと誰かが横になっているのが見えた。
先客が居る様ですね。
どうしましょうか?
どこか別の所を探した方が良いかもしれません。
考えながら木陰を目指していたプラチナは立ち止まると目を丸くした。
「…ダイヤモンド?」
木陰で横になっていたのは探し回っても見付からなかったダイヤモンドだった。すやすやと健やかな寝息をたてている。
とても気持ち良さそうな寝顔だ。
起こすのは忍びない。
隣に腰掛けたプラチナはそよそよと流れる風に髪を靡かせて、瞳を閉じた。
ぽかぽかと暖かい陽射しにそよ風が合わさるととても気持ちが良い。
ダイヤモンドが気持ち良さそうに眠ってしまうのも分かります。
うとうとと舟を漕いでいたプラチナはぱたりとダイヤモンドの上に倒れた。
慌ててダイヤモンドの上から退いたものの、ダイヤモンドは眉を寄せて目を覚ましてしまった。
「ううーん…?」
「申し訳ありません。ダイヤモンド。起こしてしまいました」
「んんー…あ、れ?おじょうさま…?」
まだはっきりとは覚醒していないのか舌足らずにプラチナを呼ぶダイヤモンドを幼く感じてくすりと微笑する。
「お嬢様、笑ってる…?何か良いことあったの〜?」
段々と意識がはっきりしてきたのか、むくりと起き上がるとダイヤモンドはプラチナの隣に座った。
「いいえ。そういえばパールはどこにいるのでしょうか?」
ダイヤモンドの傍に居ないという事は彼が寝ている間に出掛けたのだろうか。
「パールはクロツグさんのとこだよ〜。たまには親子水入らずの方が良いと思って〜」
パールが幼い頃に出て行ったクロツグとパールが再会したのはつい最近の事だ。
「パールはねー、クロツグさんと二人きりになるのが照れ臭いんだってー。親子なんだから照れなくても良いのにねぇ〜?」
親子として過ごした時間が短いが故に距離感が掴めないのだろう。
それも分かっていてダイヤモンドは思う。
さっさと開き直っちゃえば良いのに。
細かい事なんて考えずに、自分が何をしたいのか、その気持ちに素直になって行動してしまえば良いのだ。
後は時間が何とかしてくれる。
朗らかに笑うダイヤモンドをプラチナは見つめた。
羨ましいです。
こんな風にパールを想えるのも、パールを理解しているのも。
二人が長い間一緒にいた証なのだと、二人の傍に居れば居る程、強く思います。
「…羨ましいです」
無意識にぽつりと呟いた。
「何が?」
「な、何でもないです」
聞き返されて自分が羨ましいと口に出してしまった事に気付いた。
慌ててごまかすけれど、ダイヤモンドのシンジ湖の様に澄んだ瞳に見つめられていると取り繕っている自分等とうに見透かされている様な気がした。
「………お二人が羨ましくて」
観念してぽつぽつと語り出した。
プラチナがパールとダイヤモンドに出会ったのは最近の事だ。
一方、パールとダイヤモンドは幼い頃からずっと一緒に居た幼なじみでお互いにお互いを理解している。
二人の間には二人にしかない絆がある。
その絆の中にプラチナは居ない。
当然の事だ。
プラチナが彼等に出会ったのはつい最近の事なのだから。
けれど、それが寂しい。
自分ももっと前から二人と知り合いたかった。
同じ思い出を共有したかった。
それが叶わぬ願いと分かってはいるけれど。
「パールとダイヤモンドの間には絆があります。幼なじみの絆だと私は思います」
「……、もっと早く、お二人と出会いたかったです。そしたら、私も…」
幼なじみになれたかもしれないのに。
なんて、何を言おうとしているのでしょう。
そんな事は不可能だと、過ぎ去った過去はどうにも出来ないのだと分かりきっているではありませんか。
それでも。
それでもと望む気持ちはどうしたら良いのでしょう。
「お嬢様」
ふつりと沈黙して思い詰めていたプラチナはそれまで黙ってプラチナの話を聞いていたダイヤモンドに名前を呼ばれて顔を上げた。
「お嬢様にもあるよ」
「…え?」
「オイラとパールの絆とは違うかもしれない。だけど、お嬢様とオイラとパールは絆で結ばれてるでしょ?」
「お嬢様も言ってたじゃない。すでに結ばれた絆ならものがなくなったからといって失われはしないって」
「お嬢様は幼なじみじゃないけど、お嬢様とオイラとパールでシンオウトリオなんだよ」
「それに、これからもーっと作っていけば良いんだ。オイラとパールとお嬢様で沢山遊んで思い出を重ねようよ」
過去には戻れないけれど、現在を生きる事は出来るから、今を精一杯に楽しもうと仰るのですか。
そうして現在を重ねていけば、いつかの未来では私の望みも叶うとそう思っても良いのですか。
「思い出…」
「うん。いつか思い出した時、そんな事もあったねって笑えると思うんだ」
嬉しさで胸が高鳴った。
自然と頬が綻び、花が咲いた様な笑みを浮かべる。
「とても、良いですね」
「でしょ〜?今だったら…うーん…」
胡坐をかいて腕組みをし、頭を悩ませるダイヤモンド。
やりたい事が多過ぎると逆に思い付かない事もあるとダイヤモンドはこの時に学んだ。
「…お昼寝」
「えー?」
「お昼寝が良いです」
「…お昼寝が良いの?」
「はい」
「じゃあ、お昼寝しようか」
二人並んで横になる。
ふわりと風がダイヤモンドとプラチナの身体を撫でた。
急激な睡魔に襲われてダイヤモンドとプラチナは夢の世界へと旅立った。
その日の夕方、パールに起こされるまでに見ていた夢をプラチナは覚えていない。
けれどひどく幸せに満ちた夢だった事だけは覚えているのだった。
(ダイヤ!お嬢さん!何でこんな所で眠ってるんだよ!危ないだろ!)
(あ〜パールだ。おはよう〜)
(おはようございます。パール)
(今、夕方!!おはようじゃなくてこんばんはだろってそうじゃなくてもおおおお!!!)
(どうしたの〜?)
(パールは元気ですね)
(二人とも警戒心なさすぎ!ポケモンも出さないでこんな道端で寝るなーっ!)
(大丈夫だよ〜)
(パールは心配性すぎます)
(あああああ!もおおお!!何だってんだよー!!!)
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一周年企画にて応募して下さいましたネコバスさんに捧げます。
ダイ嬢でほのぼのお昼寝との事でしたが、ご希望に沿えていない気がします。
ごめんなさい!
書き直して欲しい所がありましたら書き直しを致します。
それから本当に遅くなって申し訳ありませんでした!
何年時間をかけてるんだよ!って話ですよね。
沢山お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした!