最近、お嬢さんに見られている気がする。
いや、気がするじゃなくて見られている。
例えば朝ご飯を食べている時。
例えばダイヤと一緒に漫才をしている時。
例えば、例えば。
今、とか。
現在の状況。
野原でピクニック。
お嬢さんがコンテストで優勝したから小さなお祝いかもしれないけど、野原でピクニックという名の小さなパーティーを開いた。
生憎、オレ達はお嬢さんみたいな金持ちではないので、こんなささやかな事しか出来なかった。
ダイヤが料理を作って、オレがネタ作りをする。
食事が終わったら、オレとダイヤで新作の漫才をお嬢さんの為に披露する手筈だった。
なのに。

(どうしてお前は食べ終わって直ぐに爆睡してんだよおおぉっ!!?)

桜の木に寄り掛かり、幸せそうに涎を垂らす幼なじみを横目で睨み付けたパールは冷汗をかいていた。
至近距離で自分をじっと見つめるプラチナが離れる事を願いながら、パールは必死に顔を逸らしてプラチナの視線から逃れる。
時折、ダイヤモンドの口から「桜餅美味しいなー、もぐもぐ」なんて聞こえるものだから本気で頭部を殴りたくなった。

(オレが窮地に陥っているというのに、お前は幸せそうだな!っていうかまた食い物の夢見てんのかよ!さっき、腹一杯食べただろーが!)

心の中で激しくツッコミを入れるパールは心臓の動悸を抑える為に深く息を吸った。
ひゅうと新鮮な空気が肺へと入る。
一瞬落ち着いた心臓はまたドキドキと早鐘を打ち始めた。

(てか何だってお嬢さんはオレを凝視してんだ!穴が開くほど見てたって特に面白い事もないだろうに!)

ちらりとプラチナに視線を向けると彼女の大きく、目力のある瞳とかちあった。

(う…)

赤面したパールは思い切ってプラチナに尋ねる事にした。

「あの、お嬢さん…?何だってそんなにオレを見ているんでしょーか…?」

決心とは真逆に弱々しい問い掛けにパールは頭を抱えた。

「…分かりません」

「…分からないって…」

理由もなく食い入る程に他人を見つめる人が居るだろうか。
パールが眉根を寄せるとプラチナは首を振った。

「本当に分からないのです。いつからか胸が苦しく感じるようになって…パールと一緒に居る時だけに起こる症状なので、どうしてなのか理由が分からないのです。ですから、こうして観察していれば何か解るのではないかと思ったのですが…」

「オレと居る時だけ…?」

「はい」

プラチナの返答にぽかんと口を開けたパールは真剣な表情で頷くプラチナを見て、再度呆けた。

(…何だ、それ。それってつまりは…つまりは、)

「……っ!?」

瞬間、真っ赤になったパールは袖で自分の顔を隠した。

「パール?」

きょとん、としてプラチナがパールを見つめる。
パールは立ち上がると桜の木に寄り掛かるダイヤモンドの肩を掴み、激しく揺さ振った。

「ダイヤ!いい加減起きろおぉっ!お嬢さんに漫才見せるんだろ!?主役放って寝るな!」

「んー、ふわぁ…。あれー?大きい桜餅が二つあるー。いただきまぁす!」

「目を覚ませー!」

バシンと勢い良く頭部を叩かれ、ダイヤモンドはぱちくりと瞬いた。

「あれー?お嬢様どうして笑ってるのー?」

寝転ぶダイヤモンドと息を巻くパールを交互に眺め、プラチナはくすくすと小さな笑い声をあげていた。

「ふふ、すみません。二人が可笑しくって…」

楽しそうに笑うプラチナをぼーっと見つめたダイヤモンドはにっこりと笑顔を浮かべた。
のほほんと笑顔を浮かべるダイヤモンドと声を上げて笑うプラチナを見つめたパールは小さく息をついた。

(…きっと気のせいだ。…まさか、な…)

視線

(追いかけて絡まる先に)

見えてしまった一瞬の激情。

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純情パールと無自覚天然嬢のお話。


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