上機嫌でサファイアが家に帰ると珍しく家の鍵が開いていた。

「…………」

30秒沈黙すると勢い良く扉を開いて閉める。
駆け出してリビングに行くとそこには。

「父ちゃん!」

父の姿があった。

「おお、サファイア。お帰り〜」

「なして父ちゃんがこげん早う家に居るん!?」

「仕事が早く終わったんだよ。だから今日は晩御飯を作ろうと思って…」

にこにこと笑う父のエプロン姿と言葉、それから異臭にサファイアはざあっと血の気が引くのを感じた。
慌ててキッチンに向かえばそこには謎の物体と化した液体がぼこぼこと沸騰している。

「ーっ!」

五感が人より鋭いサファイアは一瞬の目眩を覚えるがぐっと堪えて、鍋を流しへと持っていく。

「ああっ!」

後ろでオダマキの悲鳴が聞こえたが黙殺する。
換気扇を付けて窓を全開にしたサファイアはオダマキへと向き合った。

「父ちゃん!気持ちは嬉しかよ。ばってん、レシピば見んで適当に料理ば作らんで!晩御飯はあたしが作るったい!」

大雑把に調味料と野菜その他を鍋にぶち込み、掻き回して紫色の液体(スープ?)を作り出したオダマキは申し訳なさそうに眉を下げた。

「…すまないね、サファイア。いつもサファイアに任せてばかりだからたまには美味しい料理を作って労ろうと思ったんだが…」

「大丈夫ったい!そげん気持ちだけであたしは嬉しかもん。それに父ちゃんはお仕事頑張っとるったい。あたしはお仕事に一生懸命な父ちゃんが好き!」

にっこりと笑ってサファイアはくるりと半回転すると、異臭を放つ鍋を処理する為に格闘し始めた。
がしがしとタワシで水洗いをするサファイアの背中にオダマキの困ったような声が掛けられる。

「サファイア。頼み事があるんだが…」

「何とー?」

「明日は学校を休んで欲しい」

「……なして急に」

タワシでこする手を止めて振り返ると心底困った様子でオダマキが口を開いた。

「明日の研究に、サファイアの力が必要なんだ」

「…仕方なかね。先生とパール達に電話しとくったい」

そっと息をつくと心中で今日仲良くなったばかりの生徒会長へと謝罪をする。
申し訳なかやけど、行けそうにないったい。
すまんち…。

「サファイア、すまん…」

「父ちゃん、そげに謝らんで。あたしの力で植物ば助けられるんならこげんに良い事はなかよー」

父の罪悪感を取り払うべく、サファイアは気にしてないと笑って研究学者であり、植物専門の医者でもある父のスイッチを意図的に押した。

「それで、あたしはどの樹木の息遣いを聞けば良かやの?」

「ああ、ここから電車で5駅行った所なんだが…」

真剣な表情で詳細を語る父の姿をサファイアは満足げに眺める。
父や母に影響されて自然が好きになったサファイアは医学者の父の話を真剣に聞いて、自分が成すべき事を脳へと叩き込む。
まだ、助手にもなれんくらい未熟なあたしやけど、いつか父ちゃんや母ちゃんみたいな植物学者になれたら良い。
サファイアはそう願って、鍋を新品の綺麗な状態に戻し終えたのだった。


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