ずっとー…不安に思ってた。




おかしいわ…。
ブルーは雑巾を片手に思案していた。
ブルーの身に付けているのはボロボロに使い古した洋服だった。
ほつれた衣服を別の布で補うように縫い付けられたその服はお世辞にもドレスとは言い難い。
ブルーの頭には灰や埃を被るのを配慮してなのだろう。
バンダナを頭巾のように結んで少しでも埃を被らないようにという工夫があった。
床を綺麗に磨いたブルーは立ち上がるとバケツを持って外へと向かう。
溜息をつきたくなるのを我慢したブルーは声を掛けられて上を見上げた。

「シンデレラ!掃除が終わったら体を綺麗にしてあたしの部屋に来て頂戴。髪を結って欲しいのよ」

「分かりましたわ、お義姉様。掃除用具を片付けましたら直ぐにそちらに参ります」

「ちゃんと体を綺麗にしてからね。あんたの灰だらけの手で触られちゃ、あたしが汚れちゃうもの」

ブルーに穢らわしいという目付きで視線を向けた義姉は言いたい事を言うとさっさと自分の部屋へと戻って行った。
始終笑顔で義姉を見ていたブルーは彼女がいなくなったのを確認すると途端に苦々しい顔付きになった。
歩みを早めて庭へと向かうとブルーは乱暴にバケツを置き、雑巾を地面に叩き付けた。

「なーにが髪を結って欲しい、よ!そんなの自分でやれっての!体を綺麗にしてから?だったら掃除なんかさせんなっての!」

地面に叩き付けた雑巾を拾うとブルーはバケツに突っ込み、荒々しく擦った。
雑巾同士が擦れ合い、徐々に埃や灰が取れていく。

ああ、まったく。
何もかもが気に入らない。
先ず第一に何でこのアタシがこの家でこきを使われているのか。
第二にアタシの身に付けてる物がどうしてこんなに古びていてボロボロなのか。
アタシは身奇麗を心掛けていた筈なのに。
第三はアタシがアタシを分からない事よ!
朝、目覚めてみたら見知らぬ天井が目の前にあって。
驚いて飛び起きたらその部屋はまさかの屋根裏部屋で。
何よこれ!と叫ばなかったアタシを褒めてあげたいくらいだったわ。
取り合えず状況確認する為に下に降りてみたら、やせ細った中年の女の人がアタシを出迎えてくれた。
アタシとしてはそりゃまあ、ぎくりとするわよね。
向こうからしてみたらアタシは不法侵入している人間ですもの。
責められたりするのは当然よ。
一瞬でこの状況をどう切り抜けるか考え始めたアタシにその女の人は思いも寄らない言葉を掛けたわ。

「いつもより少し早いじゃないか。あんたにしては上出来だ。あたしはもう一眠りするから精々頑張るんだよ。分かったね?シンデレラ」

矢継ぎ早にそう言ってアタシをシンデレラと呼んだ女の人は階段を上がって行った。
アタシは呆然として過ぎ去った女の人の背中を見送ったわ。

「シンデレラ…?」

たった一つ取り残された疑問を口にして。
それから数日。
アタシの名前がシンデレラという事とこの家の家庭内事情ってやつが分かったわ。
アタシが目覚めてから初めて会ったあの人がアタシのお義母さん。
亡くなったみたいだけどアタシの父さんと再婚したらしい。
そのお義母さんには二人の娘が居て。
つまりは連れ子よね。
その娘さん達がアタシの義理のお義姉さん。
長女のマナは体型がふくよかで少しだけくすんだ金色の長い髪をしているわ。
次女のラキは母親に似たのかしら。
長身なのに細くて不健康そうな印象を受けたわ。
綺麗なブラウンの髪は無造作に下ろされていて肩口で切り揃えられた髪が少しだけ勿体なく感じた。
シンデレラの家族はこの三人だけで血が繋がった身寄りっていうのはいないみたい。
それからここが一番大事なところなんだけど、アタシは自分の事を何一つ覚えてないの。
覚えているのは「アタシ」が「シンデレラ」じゃないって事実だけよ。
だからと言って自分の名前を問われても困るのよね。
自分が誰なのか分からないから。
一人で居る時は普通のアタシの口調なのに、誰かと会話をする時には別の口調になるのも不快だわ。
まるで誰かを演じてるみたい。
この不明瞭感が気に入らない。

雑巾に付いた埃や灰を綺麗に取り除いたブルーは手を洗うとバンダナを取って首を振った。
ブルーの首に従って彼女の長いブロンドプラチナが揺れた。
ブルーは自分の髪を眺めて溜息をついた。

ー…アタシの髪ってこんな色だったかしら?

痺れを切らした義姉がブルーを呼ぶ前にブルーは急いで家に戻った。


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