この白い雪みたいに溶けて消える事が出来たなら。
「…寒い」
マフラーを巻き直してヒカリはぼそりと呟いた。
「スカート穿いて足出してっから寒くなるんだろー?」
「僕の上着を貸してあげる。それで暖をとりなよ」
誰に話し掛けた訳でもなく呟いただけのつもりだったのに。
当然の様に返ってきた言葉に少しだけ、驚いた。
「あ、雪……」
小さい頃に父さんは家を出て行った。
記憶に残るのは大きな背中の父さんだけ。
どんな声でどんな顔をしていたのかなんて覚えてない。
ただ、今も少しだけ淋しいと思う。
この雪の中で手を繋いでみたかった。
親子三人で影を伸ばして。
そんな淡い気持ちはこの寒さに凍えて氷の様になってしまった。
「あ、本当だ」
「珍しい事じゃないけどね」
三人で空を仰いで白い息を吐く。
「あー、寒ー」
「確かに寒いね。ね、ヒカリ。手を繋ごうよ」
「あっ!ずりーぞ!俺も繋ぐ!」
当然の様にするりと両手を取られて絡められる。
右にジュン。左にコウキ。真ん中に私で。
夕焼け空の下では地面に私達三人の影が繋がって伸びてた。
「…あったかい」
「そうだね」
「そうだなー」
この温もりに溶かされて、この氷の様な気持ちも消えてしまえば良い。
じわじわと侵食していく温もりにそう願わずにはいられなかった。
いつか、きっと。
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ポケモンバトルを極める為に旅に出た父を朧げに覚えてるヒカリとそんな彼女の傍に当たり前の様に居るジュンとコウキ。