「そろそろ旅を止めようかと思うの」

ホットココアを口にしてベルは静かに言った。

「…何で」

ブラック珈琲を店員に頼んでチェレンはベルを見た。
ベルに呼び出され、カフェにやって来たチェレンは既にカフェに到着していたベルの隣に腰掛ける。
ベルは自分よりも身長の高くなったチェレンを見上げて静かに笑った。

「だって、もう19よ?もう、充分だと思うの」

生まれた頃から共に育ってきたが、彼女のこんな笑顔は初めて見た。
いつも能天気で、旅に出てからもマイペースで、自由奔放で天真爛漫な彼女は何処に行ったのだろうか。
イッシュ地方を震撼させたプラズマ団が起こした事件を境にそれぞれが目標を持ってばらばらに旅をするようになってから会わなくなって数年経つ。
その数年で彼女は変わってしまったのか。
妙な気持ちに襲われ、チェレンは目を細めた。

「…チェレンはいつまで旅を続けるの?」

「僕は…まだ旅を続けたい。もっと強くなって人の役に立てる様になりたいんだ」

絞り出す様な声にベルはそっか…と呟いてココアを飲み干すとチェレンの頭を撫でてテーブルにお金を置いた。
ココアの料金を置かれたテーブルをじっと見つめてされるがままのチェレンはベルの柔らかい声に顔を上げた。

「チェレン、頑張ってね。応援してるよぉ」

昔からの記憶に残るベルの口調に振り返って彼女を見ると既に歩き出したベルの後ろ姿が見えた。
久々に見るベルの背中は思い出の中の彼女より逞しく、しなやかだった。


歩き出した先に。

彼女は何を見てきたのだろう。

**************
夢を追い掛ける子供から諦観と満足と限界を知る大人へと変わっていくベルの話が書きたかった。


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