気に入らない。
あいつの全部が。
「なぁ、トウコ」
「何」
トウヤはベッドに寝転んで本を読んでいる姉に向かって話し掛けた。
「ポケモンバトルしようぜ」
「悪いけど、止めとくわ。また今度ね」
「…あ、そ。俺さぁ、外行ってくるわ。留守番宜しく」
こちらを見向きもせずに断るトウコを嘆息して見るとトウヤはリュックを背負って部屋を出て行った。
「……ポケモンバトルなんて、やる気が起きる訳ないじゃない」
本を見開きの状態で床に置くと、トウコは腕を目に押し付けて呟いた。
トウヤにその声は届かずに、トウコの低く鬱蒼とした言葉を側に居るポケモン達だけが聞いていた。
生まれる前からずっと一緒だった姉のトウコは活発な気性の持ち主だ。
明るくて朗らかで元気が良くて、部屋で本を読むくらいなら外に飛び出して夕方まで泥だらけになる程遊んでいる子供だった。
同じ双子だというのにどちらかといえば内向的なトウヤはよくトウコに引っ張り回されていたものだ。
それが何だ。
今のトウコは家に引きこもって本やテレビをぼーっと眺めているだけだ。
そんなの俺の知ってるトウコじゃない。
トウヤは舌打ちをして上空を見上げた。
華やかかつ賑やかな色に彩られた看板にはライモンシティと書かれている。
ライモンシティへと足を踏み入れたトウヤは有名かつ人気の遊園地へと向かった。
トウコは変わった。
Nと出逢って。
考えが足りない所があり、快楽主義者であるトウコが物事を考える様になったのは良い傾向だったと今でもトウヤは思う。
気に入らないのはその後だ。
プラズマ団の王様と名乗ったNは城でトウコと闘って、負けた後にトウコに全てを託した。
行方を眩ましたNを追ってトウコは必死にNを探した。
ハンサムの目撃情報、七賢人の情報を元にレシラムに乗って何処までも。
二ヶ月後に帰ってきたトウコはやつれていた。
驚いて迎えた自分に対して一言、疲れたと言って熱を出して倒れた。
回復してからもずっとふさぎ込んでいて暗い顔をしている。
時折、心配したポケモン達がモンスターボールから出て来てトウコに擦り寄れば僅かに微笑むくらいだった。
無責任だ、とトウヤは思った。
十代の少女を捕まえて何が英雄だ。
何が夢を叶えろだ。
ふざけるな。
憤りを抑え切れずにトウヤは荒々しく遊園地に入って観覧車を目指した。
夕方の遊園地に人気はなく、時々家に帰っていく家族とすれ違うばかりだった。
観覧車を睨む様に見上げるトウヤの背中に男の声がかけられた。
「…トウコ?」
自分とトウコを間違えるなんて、トウコの知り合いだろうか?
トウヤは振り返った。
綺麗な緑色の長髪の青年。
黒い帽子を被った青年は驚いて目を丸くした。
トウコじゃない…と呟く青年にトウヤは殴り掛かった。
「…な」
何をするんだと講義する青年を遮ってトウヤは青年を睨んだ。
「お前、Nだろ?」
何故知っているのだと言いたげな顔で驚くNの胸倉をトウヤは掴んだ。
「ふざけんなよ。何で今頃のこのこ出てくんだよ。トウコがどれだけお前を探したと思ってんだよ。お前の無責任な言葉にどれだけ振り回されたんだと思ってんだよ!」
激怒したトウヤにNは弱々しく呟いた。
「…すまない」
「俺に謝んじゃねーよ!トウコに謝れ!トウコに会いに行けよ!あいつはお前に会わないと元に戻んねーんだよ!」
Nを突き放してトウヤはNを見下ろした。
地面に手を着くNの顔を見ると苛立ちが更に増す。
「…トウコはカノコの自分の家に居る。泣かしたら、ぶっ飛ばす」
地を這いずり回るような低い声でトウヤは言い捨てると遊園地から出て行った。
風に乗ってNのありがとうという声が聞こえてくる。
「やっぱ、気にいらねぇ」
不機嫌三割増しでトウヤは呟いた。
何でずっと一緒だった大切な姉を攫っていくのがあんなどこの馬の骨とも知れない奴なんだ!
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双子設定。
トウヤはお父さんポジションです。
Nがトウコを嫁に下さいなんて挨拶にきた日にはリアル父親そっちのけでちゃぶ台返しを披露して一昨日きやがれ!姉は貴様に渡さん!とか言い出す。