サファイアに新しい洋服を持って来たルビーは洋服が入っている紙袋を手に持ち、固まっていた。
「…?なしてそげんとこ突っ立っとるん?入るなら入れば良か」
ルビーの来訪に気付いたサファイアは団扇を片手にちらりとルビーに視線を向けた。
あー、暑かー。
扇風機もクーラーもないサファイアの部屋は窓が全開に開けられているだけで決して涼しいとは言えない。
唯一の暑さを凌ぐ道具と言えば団扇だけだがその団扇でさえ、どれ程扇いでも生温い風を送るだけで役にたたない。
暑い、暑いと言いながらサファイアは一生懸命に団扇で扇いでいた。
玉の様な汗がサファイアの肌を滑る。
しばらく固まっていたルビーはサファイアに声をかけられ、ハッと我に返った。
無言でサファイアの部屋の中に入り、扉を閉める。
新作の洋服を着て欲しくてサファイアの部屋に訪れたルビーは扉を閉めて、サファイアの部屋に入るとゆっくりと瞳を閉じた。
落ち着けボク。
これは夢だ。
悪い夢に違いない。
なんだか物凄く現実じみていて、嫌な予感というかそんなものがひしめきあっているけれど。
次に目を開けたらきっといつもの光景が広がってるんだ。
瞼を開けてもう一度サファイアを見ると何も変わらない現実が目の前に広がっていた。
夢じゃなかった、と落胆するルビーの目の前にはキャミソールを着た短パン姿のサファイアが居た。
「そういえばあたしに何の用と?」
首だけを動かして聞くサファイアの質問に答えずにルビーは沈黙する。
「…サファイア」
揚々口を開いてサファイアを呼ぶルビー。
せやから何ね?
サファイアがルビーに振り向いた瞬間、ルビーはかっと目を見開き、サファイアの肩をがしりと掴んだ。
ルビーの迫力のある剣幕に驚いたサファイアは後ろに後退りする。
「あのね、サファイア。君、今自分がどんな格好をしているか分かってる?」
「どうって…普通の格好しとるよ?」
ぱちぱちと瞬きをするサファイアを真剣に見つめていたルビーは、はあぁっと大きな溜息をついた。
駄目だ。
彼女は全然分かってない。
分かってないとなれば、自分が理解させるしかないではないか。
サファイアに説得兼説教を施そうとルビーは深呼吸をした。
「確かに今は夏だ。暑いのも物凄く分かる。涼みたい気持ちも分かる。だけどね、節度ってあると思うんだ」
節度?風紀みたいなもんやろか?
首を傾げて確認するサファイアにそんな感じだよと肯定してルビーは続けた。
「いくら暑くても必要最低限の洋服は着るべきだ。キャミソールに短パンなんて薄着はいけない。それに君は女の子だろう?女の子が身体を冷やすのは良くないよ」
「…女の子?」
ルビーに反論しようと口を開いたサファイアは女の子という単語が引っ掛かったのか繰り返し呟いた。
「そうだよ!君は女の子なんだからもっと自分の身体を大事にして!」
大きく頷いてサファイアに分かった?と確認するとサファイアはルビーの本当に伝えたい事を理解したかの様に頷いた。
「分かったったい!これからは葉っぱの服ば着るけん。心配なか!」
……。
にっこりと明るく笑うサファイアとは反対にルビーは沈黙して地に膝をついた。
るびー?
自分の名前を呼ぶサファイアの声が酷く遠くに聞こえる。
ああ、まったく。
全然分かってない!
お願いだからそんな薄着しないで服を着てくれ!
君の身体も大事だけど、そんな格好をして君に寄ってくる虫が居るっていう事実もボクは心配なんだ!
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あまりの猛暑に思わず書いた作品。
グラードンさん頑張り過ぎです。
そんなに日照らなくて大丈夫ですから!
皆さん熱中症になって倒れちゃいますから、適度に手を抜いて下さい!