日が沈む前に海辺に集合した図鑑所有者達は皆それぞれに自分に課せられた役割を果たした(一部の地方の図鑑所有者を除いて)
魚が取れなかった事を申し訳なさそうに謝るパール達にブルーは気にしなくて良いわよと笑顔で返した。

「まずはアタシ達が見つけた洞窟に向かうわよ!」

元気良く先を歩き出し、自ら先頭になったブルーに次いでノリの良いゴールドや姉思いのシルバーが後を歩く。
彼等の後ろには首を傾げたレッドと隣に並ぶイエローが後に続いた。
賑やかに行進して彼女達は住家となる洞窟へと向かった。




持ち合わせていた食べ物とホウエン組が採取してきたきのみをソテーにしたり、サラダにして夕飯を食べ終えたレッド達は息をついた。
一息ついたところを見計らってブルーが箱を取り出した。
レッドから順番に箱の中にある紙を取り出させる。

「6って書いてある…。これに何か意味があるのか?ブルー」

紙を見てレッドがブルーに聞いた。

「それを説明する前に一つ、話があるわ…」

低い声でブルーが蝋燭を模した形のランプを燈した。

「な、何だよ…」

多少驚きつつもレッドは続きを促す。

「ふふふ。これは噂で聞いた事なんだけどー…」

この無人島は呪われている。
いつからかそんな噂がたっていた。
何故、そんな噂がたったのか。
それはある人間がその無人島で倒れているところを発見された事から始まる。

青年は病院のある一室で目覚めた。
ぱちりと目を開けた青年の周りには見知らぬ人間がずらりと囲んで青年を見ていた。

「おぅ。目ぇ覚めたか。お前さん一体どこから来たんだべ?」

村長らしき年寄りの男が杖をついて青年に話し掛ける。
暫く呆然としていた青年は村長に顔を向けー…ガタガタと震え出した。

「どないしたがや?」

「…らない。分からない。分からない!」

頭を抱えて怯える青年の様子は尋常ではない。
村長を始めとする村人はお互いの顔を見合わせた。

そして数年後。

また、見つかったのだ。
無人島で倒れている人間が。
今度は年若い女性だった。
青年の時と同じ様に彼女は漁師に発見された。
病院で目覚めた女性は一言怖いと言った。

そんな事が二度もあれば流石に人々も恐れてしまう。
村長は真剣な表情で集会を開き、あの無人島に近付いてはいけない、とおふれを出した。
そして三日後。
村の子供が消えた。
6歳に満たない男女の子供はいつも仲が良く、一緒に遊んで暮らしていた。
それはまるで兄妹のように。
その子供が消息を絶ち、両親達は発狂する。
泣いて子供を探す両親を憐れに思った村人達は総出で子供を探した。

「おぉーい!居たぞ!」

野太い声の漁師が行方不明になった子供二人を抱えて戻って来た。
血相を変えて自分の子供に駆け寄る両親は漁師に問うた。

「この子は一体どこに…!?」

漁師は俯いて唇を噛み締めた。
語らぬ漁師に子供の両親は目を見開く。

まさか。

「…無人島…?」

そうであって欲しくない。
両親の願いとは裏腹に漁師は頷いた。

翌日、無人島から帰ってきた子供達は高熱を出した。
熱が下がって目覚めた子供達は開口一番にこう言った。

「おいでって言ってたの」

「海の向こうから聞こえてきたの」

「いつのまにか無人島にいたの」

代わる代わる交互に口を開いて喋る子供の話に村人達は耳を傾ける。

「おっきくて真っ黒いのががーってきてね」

男の子が両手を上げる。

「まぁるい穴がね、下に開いちゃったの」

女の子が両手を使って円を作る。

「それでね、落ちちゃったの」

「あのね、「ものがたりをはじめましょう」って言ってたんだよ」

「「おしまい」って言ってたのが聞こえてそれから眠くなって、起きたらここにいたの」

「それじゃあ倒れていた時に傍にあったこの絵本は?」

始めに無人島で発見された青年が絵本を指差し、子供に聞いた。
子供達は「ヘンゼルとグレーテル」と書かれた絵本をじっと見て、眉を顰めた。

「分からない」

首を振る子供を怪訝な表情で見つめた村人達は小さく溜息を吐いた。
身振り手振りで一生懸命伝えた子供は満足したのか、ぱたりと倒れて眠った。




「ー…そんな事があってから、村人達は無人島に行ってはいけない。無人島は呪われていると伝承として村に伝えているの」

ブルーが話し終えるとレッドは大きな声を上げた。

「いきなり怪談かよ!さては肝試しでもしようって魂胆だろ?」

「五月蝿い。レッド」

レッドの眉間にチョップをお見舞いしたブルーはにやりと笑った。

「半分当たりで半分ハズレよ。この噂、実はもう一説あるのよ」



遥か大昔。
一隻の海賊船が無人島に辿り着いた。
船員は死亡しており、生き残っていたのは船長だけ。
だが、その船長も大怪我を負っており、長くはなかった。
最後の力を振り絞り、船長は財宝を無人島の奥まった場所に隠した。
全ての財宝を隠し終えた船長は力尽きてそのまま事切れた。
以来、無人島に訪れる者を船長の亡霊が呪い殺しているらしい。
自分の財宝を守る為に。



「…いやいや、流石に証拠がないですよ。ブルーさん」

エメラルドが片手を振ってブルーの言う一説を否定する。

「それが残念。物的証拠が残っているのよ。これを見なさい!」

「これは…!」

ブルーが勢い良く地面に叩きつけたのは古びた地図だった。
おそらくこの無人島の地図であろうそれの真ん中辺りには髑髏マークが記されている。

「宝の地図よ!」

自信満々にブルーが言うと片手を高く上げたゴールドが輝いた笑顔でブルーに言った。

「つまりは肝試し兼宝探しッスね!?」

「合格よ!ゴールド!」

パアンとハイタッチをしてブルーが親指を立てる。

「さっき皆に引いて貰った紙に番号が書いてあるわ!同じ番号同士がペアになって宝探しをするわよ。ちなみに仮にレッドが宝を見つけたとして財宝の半分はアタシのものね!」

「何でだよ!?」

思わずレッドがツッコミを入れるとブルーは人の悪い笑みを浮かべた。

「好き勝手に行動した挙句、このブルーちゃんに散々探し回せておいて異論も文句も言わせないわよ?」

ブルーの黒い笑顔を目の当たりにしたレッドはうぐ…と低く唸ると押し黙った。

「はい。そういう訳で1番引いたのは誰かしらー?」

ブルーが周囲を見回すと1番を名乗り出る者はいなかった。
ブルーは一つ頷くと「1番はシルバーとグリーンね」と言って二人にランプを渡した。

「…何故分かった?」

グリーンがランプを受け取って尋ねるとブルーは得意気な笑顔でウインクをした。

「グリーンもシルバーも長年一緒に居たのよ?分からない筈ないじゃない」

「…うるさい女だ」

グリーンの照れ隠しである事を知っているブルーは聞こえなかったフリをして視線を巡らす。

「次!2番は?」

ブルーの問い掛けにパール、ダイヤモンド、プラチナが手を挙げた。

「あら、びっくり。まさかこの三人が一緒になるなんてね」

「わたし達はシンオウトリオですから」

プラチナが微笑むとブルーも微笑み返す。

「そうね。あんた達は三人一緒だもんね」

「はい!」

「それから3番目はー…」

「オレッス」

「わたしです」

クリスタルとゴールドが同時に手を挙げた。

「んだよ。クリスかよ。どーせならこんな堅物学級委員長なんかじゃなくてブルー先輩みたいなムチムチの色気がハンパネーギャルが良かったぜ」

「なっ…わたしこそ貴方みたいなちゃらんぽらんな不良はお断りよ!」

「あんだと?」

「何よ!」

口喧嘩が勃発しているゴールドとクリスタルを置いて、ブルーは他の番号が分かっていない人間に対して声をかけた。

「4番はー?」

「あたしとルビーったい!」

元気良くサファイアが手を挙げるとブルーはサファイアにランプを手渡した。

「5番はアタシと…誰かしらね?」

「ブルーさん5番なんですか?」

イエローが小首を傾げてブルーを見る。

「そうよ。イエローはアタシとペアね。…ていう事は6番はレッドとエメラルドか」

余ったエメラルドと最初に6番だと宣言したレッドを眺めて、ブルーはエメラルドにランプを渡した。

「レッドをしっかり見張っておかないと勝手にちょろちょろどっか行っちゃうから手綱引いてあげてね」

「おい!!」

ブルーの冗談に苦笑いして受け取るエメラルド。
レッドはあまりにも酷い自分の扱いにツッコミを入れた。

「あの、ちょっと良いですか?」

パールが控え目に声をかけた。
ダイヤモンドとプラチナ以外の視線がパールに集まる。

「…さっきは場所が場所だったので落ち着ける場所に移動してからと思って言わなかったんですけど…この島、ポケモンでも人でもない何かが居ます」

「!!」

パールの言葉に驚愕の眼差しが注がれる。
彼等の視線を浴びてパールは続けた。

「オレのトラヒコが透視能力で見せてくれたんです。ポケモンでも人でもない何かが映ってました。手だけがはっきりと人の形をしていて、けどその他は黒い靄で覆われて何も見えませんでした。…そいつがオレ達が集めた魚を海に還したんです」

もしかしたら危ない目に遭うかもしれない。
言外にそう告げるパールを安心させる様にブルーは立ち上がった。

「それが何よ?アタシ達は一人でその何かと遭遇する訳じゃないわ。ポケモンだろーが人間だろーが幽霊だろーが、アタシ達図鑑所有者が揃ってれば怖いものなんかないわよ!返り討ちにしてやるわ。今までだってそうだったでしょう?」

強気な笑顔で周囲を巡らして見ると皆一様に頷いた。
唖然としたパールは沈黙すると小さく破綻した笑顔を浮かべた。

「それもそうですね」

「分かったら今から10分置きに出発するわよ!先ずはグリーンとシルバーから!」

ブルーに地図の写しを渡されたグリーンとシルバーは無言で立ち上がると洞窟から出て行った。



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