「先輩達も自分の役割を果たす為に森の中に入って行ったし、オレ達も頑張るとするか!」

軽く伸びをしてパールがダイヤモンドとプラチナに笑いかけた。

「うん!頑張ろう〜」

「…ところで、どうやって漁をするつもりなのですか?」

プラチナが首を傾げてパールとダイヤモンドに質問する。

「そりゃ、どうやってって…釣りとか手掴みとか」

「銛を使う方法もあるよね〜」

「道具はどこにあるのですか?」

「「あ」」

プラチナが齎した根本的問題にパールとダイヤモンドは顔を見合わせた。

「…ないなら作れば良いんだっ!」

一分間の沈黙を破ってパールが叫んだ。

「でも、どうやって作るのですか?」

「蔦を使えば良いんだよ〜」

「蔦?」

「ね。パール」

「あっ、そうか!ナイスだ。ダイヤ!早速作ろう」

モンスターボールを放り投げ、パールはダイヤモンドとプラチナを振り返った。

「お嬢さんとダイヤは蔦で網を作ってくれ!オレはトラヒコ、サルヒコ、ゼルヒコ、ペラヒコと蔦を取ってくる!」

「じゃあオイラのるーを連れてくと良いよ〜」

「それではわたしのエンペルトとミミロップを連れていって下さい」

ダイヤモンドとプラチナがモンスターボールからポケモンを出すとパールは明るい笑顔で礼を言った。

「ありがとな!良し、行くぞ!」

ずんずんと森に向かうパールを見送り、ダイヤモンドとプラチナは顔を見合わせた。

「…それで、どうやって網を作るのでしょうか?」

「お嬢様作った事ないの?」

ちょっと待ってね、と言ってダイヤモンドはそこら辺に生えている草を毟ると編み込み始めた。
プラチナはしげしげと器用に草を編み込むダイヤモンドの手元を注視した。

「はい、出来た」

「凄いです。流石ですね、ダイヤモンド!」

ぱちぱちと拍手をしてプラチナが喜ぶ。

「持ってきたぞー!」

パールがトラヒコを始めとする総勢七匹のポケモンを連れて、大量の蔦を持って帰って来た。

「お帰りー」

「お疲れ様です」

「じゃあ作るか!」

パールの合図により、三人は黙々と蔦を編み込み始めた。
蔦が足りないと感じたらパールが補充し、ダイヤモンドとプラチナが編み込んでいく。
地道な作業を繰り返した結果、頑丈な網と篭が完成した。

「やっと終わったぁ〜」

「もうお昼過ぎてるぞ…」

汗をかいてパールとダイヤモンドがぼやく。

「では早速始めましょうか!」

意気揚々とプラチナが提案するとパールとダイヤモンドが頷いた。

「そうだね」

「じゃあ、水着に着替えるか!」
岩影でパールとダイヤモンドが着替えると反対側の岩影で着替えていたプラチナが声をかけた。

「二人とも着替え終わりました?」

「着替え終わったよー」

「お嬢さんは?」

「私もです」

「じゃー、早速罠を張るか!」

着替えをリュックに詰めてパール、ダイヤモンド、プラチナは海へと入った。

「ゼルヒコ、頼む」

「エンペルト、お願いするねー」

ブイゼルとエンペルトに沖まで連れて行って貰い、パールとダイヤモンドは海藻に蔦で出来た網を絡めた。
外れない様にしっかりと縛ってプラチナの待つ浅瀬まで戻る。

「後は夕方近くになるまでにどれだけ罠にかかっているか、だな」

パールが沖を眺めるとプラチナが首を傾げた。

「他には何かしないのですか?」

「うーん…」

「海藻とか集めようよ〜。塩分って大事だし〜」

ダイヤモンドがのんびりと言うとプラチナとパールはダイヤモンドの考えに賛同して海藻を探し始めた。
海の中を潜って海藻を探す。
きょろきょろと首を巡らせて海藻を探しているとダイヤモンドとプラチナが両側からパールの腕を引っ張った。
驚いてダイヤモンドの顔を見れば、ダイヤモンドは右の方向を指差した。

「……!」

ダイヤモンドが示した方向にはサニーゴの群れが列をなし、海を渡っていた。
きらきらとサニーゴのピンク色が太陽の光を浴びて煌めく。
海の波がピンク色を揺らし、グラデーションを作っていた。
その色使いはまさに神秘的で言葉に表す事の出来ない美しさを見た者全ての網膜に焼き付けた。
液泡を吐いたパールは慌てて海上に顔を出した。

「ぷはっ…!」

ぜーぜーと荒い息で呼吸を整えるパールの左右に上がってきたダイヤモンドとプラチナが顔を出した。

「パール大丈夫?」

「大丈夫ですか?」

「…何とか」

息をついてパールが答えるとダイヤモンドとプラチナはほっと胸を撫で下ろした。

「それにしても綺麗だったよね〜」

あはは、とダイヤモンドが笑うとパールは苦笑して同意した。

「まーな」

「ところで、罠の方はどうなったのでしょう?」

沖に張った罠を見つめてプラチナが問い掛けるとパールはもうそろそろ良いんじゃないか?と答えた。

「大漁ですね!」

パールとダイヤモンドが持ち帰った網には沢山の魚が掛かっていた。
篭に移し替えていっぱいになった魚を見てプラチナは目を輝かせる。

「後は先輩達が帰って来るのを待つだけだなー」

「じゃあ、それまでに着替えてようよ〜」

「では、そうしましょうか」

迅速に何をするかを決めた三人はてきぱきと動き始めた。
着替え終って元の砂浜に戻った三人は目を見開いた。
苦労して作った篭は無惨にも引きちぎられ、魚達の姿は跡形もなく消えていた。

「何で…!」

自分達がこの場所から離れて戻って来るまでに数分しか経っていない。
一体この数分間に何があったのか。

「あっ!」

突然声を上げたプラチナにダイヤモンドが不思議そうにプラチナを見た。

「どうしたの?お嬢様」

「向こうの森に何か居ました!」

「本当か!?」

プラチナが指差す先を目指してパールは駆け出した。

「一人で行ってしまうのは危険です。ダイヤモンド、追いかけましょう!」

「待って」

パールを追い掛けようとするプラチナの腕をダイヤモンドが取った。

「ダイヤモンド何を…」

するのです。そう言いかけたプラチナにダイヤモンドは言った。

「何か、変だよ」

「……え?」

ダイヤモンドはしゃがみ込んで残骸となってしまった蔦を拾い上げた。

「何がおかしいのですか?」

ダイヤモンドに倣い、プラチナもしゃがみ込んで蔦を拾う。

「トラヒコ?」

ダイヤモンドとプラチナの側に寄ってきたレントラーがぴかりと目を光らせた。

「これは…!?」

プラチナが見たものを追い掛けたパールは息を切らして森の入口を睨んだ。
苦労して作った篭をボロボロにした犯人(と思われる)が逃げ込んだ先を鋭い目で睨んだパールは溜息をつくと踵を返した。
一人で行くのは危険だ。
仮にプラチナとダイヤモンドと共に追い掛けたとして、降り懸かる災厄を全て振り払う事が出来るとは言い切れない。
ここは先輩達に話して決断を委ねた方が良いだろう。
戻って来るとプラチナとダイヤモンドが険しい顔つきで残骸を睨んでいた。

「…?どうしたんだよ、二人共」

「パール。これを見て下さい」

レントラーの目が光って蔦を照らす。
ぼやりと映った影にパールは驚愕した。
人間の手だ。
全体像は黒い影に覆われていてぼやけて見えるのに手だけが嫌にはっきりと映っていた。
その手が篭を持って海に魚を還し、引きちぎった。
修復不可能になるまで引きちぎると影は森へと歩いて行った。
レントラーの透視能力によって現された映像を見終わったパールは青ざめて呟いた。

「…何だよ、これ…」

「分かりません。ただこの影は確かに私が目撃した影に似ています」

プラチナが首を振って瞳を閉じた。
彼女の顔色も青ざめている。

「ポケモンじゃないのは確かだよー。でも…」

ダイヤモンドは俯いて言葉を閉ざした。

ポケモンでも人でもないものがこの島に居る。

その事実を口にするのは幅かられて誰も言葉に出す者は居なかった。


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