エメラルドは難しい顔をして、きのみを採取するルビーとサファイアをじっと見つめた。
彼等はエメラルドの視線に気付かずにせっせと持って帰れるきのみを集めている。

『個人的な事情でね…。海に入りたくないんだ』

『あああああたしもルビーに賛成ったい!』

先程あった事を思い出してエメラルドは眉を寄せた。
ダイヤモンドの立候補を断った事に対するその理由も、ルビーの反応に慌てて庇うような行動を取ったサファイアも、不自然過ぎる。

ー…前の事といい、さっきの事といい、こいつら絶対に何か隠してる。

それは出会った当初から感じていたものだった。
けれど、エメラルドは訝しく思いながらもルビーとサファイアの隠し事を追求しようとは思わない。
自分だって誰にも知られたくない事の一つや二つぐらいある。
無理矢理暴いたって後は空しさが残るだけだ。
憤りを感じるのは隠し事をされているからじゃない。
ただ、寂しいのだと思う。
出会ってから数年が経っていて。
その間色々な事を乗り越えてきた。
特にエメラルドにとってバトルトーナメントの制覇を目標とし、ジラーチ確保の任務を言い渡されていたあの事件は特別だった。
ずっと胸に秘めていた、ずっとずっと欲しかったあの願いが叶ったあの事件だけは。
あれから自分は少しだけ変わったと思う。
それはあの戦いで変わったともいえるけれど、でもやっぱり一番の要因はかけがえのない仲間と大切な友達ー…ポケモンが傍に居るからだとエメラルドはそう思うのだ。
だからこそ今の二人との距離感がもどかしい。
決してエメラルドには入る事の出来ない二人だけの空間。
それが悪い訳ではない。
けれど、自分だってホウエントリオなのだ。
相談くらいして欲しい。
困っているのなら頼って欲しいのだ。
そしたら絶対に助けるのに。


「エメラルドっ!」

サファイアの大きな声で思考の淵から戻ってきたエメラルドは反射的に声のする方へ顔を上げた。

「さっきから何度も呼んでたんだよ。気付かなかったかい?」

ルビーが屈んでエメラルドと視線を合わせる。

「あ、ごめん」

素直に謝罪するエメラルドを見てルビーとサファイアがお互いの顔を見て視線を交差させる。
こくりと頷いてサファイアはリュックからモモンの実を取り出してエメラルドに差し出した。

「元気がない時はモモンの実でも食べり!甘かよ!」

「モモンの実よりナナシの実の方がいいんじゃない?エメラルド、こっちの方が美味しいよ?」

「なんね!ケチつけるつもりと!?」

「別にそんなんじゃないさ。被害妄想は止めてくれないかい?」

きらりと光る八重歯を剥き出しにしてサファイアはルビーを睨む。
対するルビーはやれやれといった様子で両腕を広げた。
ルビーとサファイアの喧嘩を目の前で繰り広げられてエメラルドはぱちぱちと瞬きをする。

ー…何こいつら。オレに気を使ってんの?

様子のおかしい自分に対していつも通り振る舞って。

馬鹿じゃないの?

俯いてエメラルドは微笑した。

オレはこいつらの隠し事を暴くつもりなんて毛頭なくて。
こいつらがオレに話さないのはこいつらの判断によるものだから、オレはいつか話してくれるのを待っていれば良い。
色々と思う所はあるけれど、とりあえず今はオレの為にいつも通り振る舞おうとするこいつらに合わせて、オレもいつも通り叫ぼう。

「いちゃつくなーっ!!」



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -