オレはずっと知らなかった。
誕生日という物がどんな物か、なんて。
誕生日会なんて物の意味も。
姉さんがオレの誕生日が分からないって知った時に「それじゃあ、本当の誕生日が分かる日までアタシと同じ誕生日ね」と言ってくれて、初めて誕生日を手にして、誕生日を祝って貰って。
それで知ったつもりだった。
分かっているつもりだった。
でも、それはあくまでつもりだったんだな。




ナナシマとバトルフロンティアの事件が終了して、シルバーの誕生日が発覚した。
それはデオキシスを利用する為にナナシマを舞台に選んだサカキから得られた情報だった。
当の本人、サカキは今は居ない。
シルバーがリングマに指示を出して、隠れ家で療養していた筈のサカキはバトルフロンティアの事件を経て石化が解けたシルバーとグリーンが向かった頃には既にその場から姿を消していた。
それからは隠れ家を転々として己が父、サカキを探しているのだが、この半年間、サカキの手掛かりとなる情報は得られなかった。
そして今日。
シルバーは初めて自分の誕生日を迎える。




深夜0時前。
後少しで23日が終わる頃、シルバーは就寝していた。
当然といえば当然。
規則正しい生活を送っている者ならばこの時間はとっくに夢の世界へと旅立っていておかしくはない時間帯。
その時間帯に、静寂なる空間に、不意にその場に相応しくはない音が鳴り響いた。
ガタガタ。
ガタガタガタガタッ。
決して静かであるとはいえないその音にシルバーとその幼なじみー…ニューラは即座に反応した。
先程まで寝入っていた筈のポケモンと人間とは思えない程に一匹のポケモンと一人の人間は俊敏に動いた。
ニューラはその鈍く輝く爪を光らせ、シルバーはモンスターボールを構えながら、いつでも応戦出来る様に息を潜める。
カチャリ。
窓の鍵が開けられ、開く。
その瞬間を見逃さずにニューラが鋭い爪を、シルバーが小回りの効くヤミカラスを繰り出し、先手を出そうとしてー…動きを止めた。

「メリークリスマース!サンタが一日早くいい子の代表シルバーちゃんにクリスマスプレゼントを持ってきたぜぇ!」

「し、シルバー。起こしてごめんね?」

開け放たれた窓から入って来たのはサンタの恰好をしたゴールドとクリスタルだった。
にしし、と笑うゴールドは無駄に大きく、それでいて何もプレゼントが入っていないような空の袋を担いで、両手を広げた。
後から続いて入ってきたクリスタルはミニスカートにロングブーツの姿だったが、シルバーの部屋に入る前にお行儀良く、ロングブーツを脱いで、両手に持ち、申し訳なさそうにシルバーを見つめた。
いい加減でゴーイングマイウェイなゴールドとどこまでも常識に則り、礼儀正しくあろうとするクリスタル。
正反対な反応、正反対な行動。
クリスタルの持つブーツを目にしたシルバーは自慢げに笑うゴールドの爆発頭を隠す帽子を奪い、頭部を思い切り叩いた。

「いってぇ!何すんだよ!」

「靴を脱げ。此処が誰の部屋だと思ってる」

「今のはゴールドが悪いわ。土足はいけないわよ」

キッとシルバーを睨みつけるとシルバーとクリスタルから叱責を受ける。
誰がどう見てもゴールドが悪い。

「…悪ぃ…」

自覚のあるゴールドはしぶしぶと項垂れて、素直に自分の非を認めると胡座をかいて靴を脱いだ。

「…それで、こんな夜遅くに何の用だ」

クリスタルとゴールドを交互に見てからシルバーは質問を投げる。
サンタのコスプレをしたゴールドとクリスタル。
ゴールドはその場のノリだとか何だとかでそういう恰好をする事もあるだろう。
だが、基本が真面目な才女クリスタルが何の理由もなくサンタの恰好をするとは思えない。
彼女がそうするという事は何らかの理由がある筈だ。
それも恐らくこんな非常識な時間帯に訪れた用事に関わる事であるとも推測が付いたシルバーは二人からの解答を待った。

「それだよ!それ!良いとこつくじゃねーか、と言いたいところだが…」

にやりと悪戯を思い付いた子供の顔で笑うゴールドに不安を覚える。
こいつがこういう顔をする時は大半がろくでもない事ばかりだ。
眉を顰めてクリスタルを見れば、クリスタルはにこにこと笑っていた。
どういう事だ?
いよいよシルバーの顔に困惑の文字が浮かぶとゴールドとクリスタルが同時に深く息を吸った。

「「せーのっ!」」

「「シルバー、誕生日おめでとう!」」

二人同時に掛け声と祝いの言葉、それからクラッカーを放つ。
パァン。
シルバーの頭上に紙吹雪が舞い、リボンが髪の毛や肩に引っ掛かる。
火薬の匂いが鼻孔を擽り、僅かな煙たさすら感じる。
突然の出来事にシルバーは瞠目した。
声を上げる事もなく、目を丸くさせるシルバーの反応にゴールドとクリスタルは満足感に満ち溢れた笑みを零している。

「……な…」

「っつー訳で早速プレゼントだ!ほらよ!」

空だと思われた袋の中から一枚の封筒を取り出す。
渡された封筒に入っているのは一枚の紙の様で、感触から判断したシルバーはその紙が食品券である事を予想した。
生活するのには困らないな。
僅かな期待を胸に封筒を丁寧に開く。

「ー…これは、」

中には手書きのカードが入っていた。
これは何だ?
そうシルバーが聞く前にゴールドの弾んだ声が説明する。

「オレとクリスとのデート券!今日はダチ公の初めての誕生日だからな!」

「ブルー先輩を始めとしたカントーの先輩方も、ホウエンのエメラルド君達も皆、シルバーの誕生日を祝うもの。明日は図鑑所有者でクリスマス会をやるだろうから、だから私達は26日に改めて祝おうと思って」

交互に説明されたシルバーは視線をカードへと移し、まじまじと見つめる。
手書きのカードには汚い字でオレ様ゴールドと綺麗で丁寧な字でクリスタルとのデート券と書いてあった。
そのカードの日付には確かに26日とも記されてあり、小さな紙一面にシルバーの誕生日を祝う気持ちが篭ったメッセージや装飾がぎっしりと詰まっていた。

「遅くなっちまうけど、オレ達だけでもっかい祝いてーんだよ」

「だってシルバーの初めての誕生日だもの。その日ではなくなってしまうけど、何回でもお祝いしたいのよ。貴方に生まれてきてくれてありがとうって」

心から笑うゴールドとクリスタル。
その暖かく優しい微笑みはシルバーの誕生日を祝う事を心底喜んでいた。

「……………」

「シルバー?」

俯き、黙り続けるシルバーに不安を覚えてクリスタルが覗き込む。
もしかしたら迷惑だったのかもしれない。
覗き込もうとすると勢い良くシルバーが顔を背けた。

「…え、え?」

目を白黒させるクリスタルの背後でゴールドの笑い声が響く。

「ちょっ、マジで?マジでシルバー?顔がすっげー赤ぇ!」

爆笑して床を叩くゴールドはひぃひぃ笑って腹を抱える。

「煩い!」

ゴールドから奪ったままの帽子で顔面を叩く。
サンタ用の帽子に付いていたボンボンがゴールドの口にすっぽりと入り、笑い声の変わりにむがもごと呻き声の様な唸りが鈍く室内に反響した。
シルバーから帽子を奪還し、口からボンボンを取り出すと乱れた前髪を掻き上げ、別の手で口周りを拭う。

「何だよ。そんなにオレとクリスとのデートが嬉しかったのかよ?」

「黙れ、ゴールド。クリスはともかく、お前とのデートなぞ気色悪くて敵わん」

「言ってくれるじゃねーか。安心しろよ。そのカードはオレとクリスとお前とでのデート券だからな。三人一緒じゃなきゃ有効になんねー」

ばちばちと火花が舞う中、互いを睨みつけるゴールドとシルバー。
一触即発。
触れたら火傷をしそうな二人の間合いにクリスタルが飛び込んだ。

「ちょっと待ちなさい!今日はシルバーの誕生日なのよ?なのにどうしてそう喧嘩をするの!」

「だってよぉ」

「喧嘩を売ってきたのはこいつだ」

お互いを指差すゴールドとシルバーを呆れた目で見るクリスタルは深い溜息をついた。

「もう…どうしていつもそうなのよ…。今日はシルバーの誕生日で、でも皆で誕生日会をやるから、誰よりも早くおめでとうって祝おうって言い出したのはゴールドじゃない…」

「ばっ…、クリス!何でばらすんだよ!」

頬に手を当ててあっさりと秘密を暴露するクリスタルを慌ててゴールドが止めようとする。
しかし、ゴールドの制止よりも早くクリスタルは秘密を暴露し終え、その秘密はしっかりとシルバーの耳に届いてしまった。

「良いじゃない。貴方だって散々シルバーの事を笑ったんだし、おあいこよ」

にこりと笑ってゴールドの講義を流せば、ゴールドはあああああ…と情けない声を上げてしゃがみ込んだ。
しゃがみ込む直前に見えたゴールドの顔は真っ赤だ。
それこそ先程のシルバーに負けないくらいに。

「…ゴールド…」

呆然とした様子でシルバーが声を掛ける。

「………何だよ」

罰の悪そうな顔でしかめっつらのゴールドはぶっきらぼうに返事を返す。

「それから、クリス」

「うん?」

「…その、………が、とう」

俯いたシルバーが小さく何かを言った様だが、余りにも小さ過ぎて聞き取れない。
シルバーに向き直って耳を澄ませると、シルバーは僅かに顔を上げた。
赤面した顔で、ゴールドとクリスタルから視線を外しながら「ありがとう」と礼を言う。

「「シルバー!」」

「っ!」

感極まったゴールドとクリスタルがシルバーに抱き着く。
勢い良く抱き着いてきた二人を受け止めきれずにシルバーはゴールドとクリスタルと共にベッドへと倒れこんだ。
押し倒された様な形でゴールドとクリスタルに抱きしめられる。

「はっ、離せっ!」

シルバーにしては珍しく焦った声で講義をするが、クリスタルとゴールドは嬉しそうに微笑んで離さない。

「誰が離すかよ」

「私達三人一緒だもの!」

「少なくとも今日と明日、明後日は離れねーからな」

「めいいっぱい楽しんで最高の誕生日にしましょう!」

「………勝手にしろ」

じたばたと左右からの抱擁から逃れるべく抵抗していたシルバーは諦めたのか、大人しくなって諦観の声音で呟いた。




知ったつもりでいた誕生日は、誕生日を祝われるという事は、こんなにも胸を熱くさせる物だった。
姉さんに祝われた時は蝋燭が灯る様な暖かさを感じた。
こいつらからは…その先は言いたくないな。
違う。
上手く言葉で表現出来ないんだ。
ただ、一つ言える事があるとすれば。
オレは、こいつらのおかげで言葉では言い表せない程の感情があるって事を知ったんだ。
多分、今日の出来事を、あの名前の分からない感情をオレはずっと忘れないと思う。

**************
シルバーは自分の本当の誕生日を知ってから、初めて本当の意味での誕生日を迎えるから何回でも祝われば良い^^*
それこそ今まで逃していた分、誕生日が過ぎても暫く祝われまくれば良いと思う(^O^)/

ちなみにヤミカラスは自分でボールに戻り、ニューラはクリスとゴールドがシルバーに抱き着いた時点で勝手にしなさい、と夢の中に旅立ちます。



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