「過去か未来、どっちに行きたい?」 微睡みの中を掻い潜って耳に入ってきた声 重い瞼を開かせた声の主は 好奇心に溢れかえったキラキラとした瞳を向けている 「くだらねぇ質問で起こすな」 言って、その瞳を隠す様に腕の中に抱き寄せれば 不満気な呻き声が素肌に響く 知ったこっちゃないと更に強く抱き締めてやった 腕の中で負けじとばかりに声がする 「私は未来に行きたいな。未来の私とリヴァイを見てみたい」 「……早く寝ろ」 そんなものを見てどうすると 思った心は胸の奥に閉じ込めた 「ひどいなぁ。だって私、不安なんだよ」 「調査兵団(ここ)に居る限り常に死と隣合わせだろぅが。不安がってる暇はねぇぞ」 「えっ違う。死ぬ事が不安じゃないよ。それはいつか訪れるだろうし。不安なのはね、リヴァイの気持ちが離れないかって事だよ」 「ますますくだらねぇな」 「リヴァイ、そういう時は『安心しろよ、ハニー』とか言うもんなんだよ」 「……俺がそんなクソ気味悪ぃ台詞を吐くのが見たいか」 「あ……いや、絵面的に見たくない」 女という生き物は 面倒で くだらなくて 煩わしい ずっとそう思っていた過去の自分が 今の自分を見たら驚くだろうか 薄暗い地下でナイフを抱いて眠っていた俺が 今は大切な存在を抱いて眠っているなど どうして想像出来ただろうか 狂っている……異常者だと……言われ続け それで結構だと突っ撥ね続けた俺を 大切な宝物だと言ってくれた存在 今更手放す気も 再びナイフに持ち替える気も あるはずがない “過去か未来、どっちに行きたい?” くだらない質問 それでも選択を迫られるなら 俺は間違いなく過去に行く ナイフを抱いて眠る孤独なガキに言ってやる 『安心しろ。お前の未来は悪くない』 仲間と部下と愛すべき存在 今の俺は過去よりも強く けれどもう孤独には耐えれないほどに脆いだろう だから手放さない 皆が居る現在をずっと…… [ *前 ]|[ 次# ] [ main ]|[ TOP ] |