恋する俺の一発勝負 4


時間をもて余した俺は、シャワーを浴びて包帯を巻き直し……ベッドに横になっていた。

俺はどうしたいんだろうか……

どうにもならないだろうから、見ている事を選んだ。客に対する笑顔だろうが、見られればそれで良かった。
だが、助けに行くのを止めた時に見た顔は……悲しそうだった。

頭の中はナマエの事ばかりだと気付いて、これは流石にまずいと思った。
時計を見れば、終業時間はとっくに過ぎていた。

身支度を整えていると、ドアをノックする音が響いた。

「リヴァイ、支度は出来てる?」
「珍しいな、ノックするなんて……」
「そう? いつもしてると……」
「してねぇだろうが。まぁいい、もう行けるのか?」
「もちろんさっ! さぁ、ナマエちゃんに会いに行こう! って、あっぶないなぁ……」

咄嗟の蹴りも避けて、ハンジは楽しそうに歩き出した 。

「何で知ってやがる」
「え? 名前の事?」
「あぁ……」
「救護室で魘されながら呼んでたから、そうなんだろうと思って……」

魘されて……呼んだ?

怪訝な顔をした俺には構わず、先を歩くハンジを追った。

表通りから一歩入っただけの場所にあるドアの前に立つと、ハンジが驚いた顔をした。

「どうした、何かあるのか?」
「こんなところに店があるなんて知らなかった……」
「あぁ、俺もたまたま見つけただけだ」

あの時、偶然……見つけたんだったな。
俺は……祈る気持ちでドアを開けた。

「いらっしゃいませ」

ベルの音に続いて聞こえたのは、昨日助けた女の声だった。
店内を見回したが、ナマエの姿は無かった。

「今日は連れが居るが、奥の席で構わないか?」
「はい。いつものお席へどうぞ」
「酒と日替わりを二人分頼む」
「かしこまりました」

さっさと注文を済ませ、俺はいつもの席に座り、向かい側にハンジが座った。

「思ったより広いんだねぇ……」

店内を見回しながら、席も余るくらいだと満足そうにしている。

「先に話すのか?」
「料理も頼んでくれたんでしょう? それなら、食べてからにしようかな」
「そうか」

出された酒を飲みながら、俺は溜め息をついた。
運んで来たのは、先程の女で……ナマエじゃなかった。

(やはり、俺が怖いか……)

そんな俺を見たハンジが顔を寄せた。

「リヴァイ、どっちがナマエちゃん? 意外と派手な感じの娘が好きなんだね」
「……あいつらじゃねぇよ」
「え? だって他に……」
「俺はどうやら嫌われたらしいな」

フッと笑った俺を見て、流石に少し困った顔をしたが、料理が運ばれて来て表情が変わった。魚と野菜のソテーは、やはりボリュームがあって、味も悪くない。

実は魚があまり好きじゃない俺も、スパイスを効かせてあるせいか、魚の臭みも無く、普通に食べられる。

俺もハンジも食べるのは早い方だからか、あっという間に綺麗に無くなった。

「美味しかった〜! あれ? リヴァイって、魚嫌いじゃなかったっけ?」
「魚臭さが苦手なだけだ。嫌いなわけじゃねぇよ」

俺が来た時よりも、店内は客も増えて賑わっていた。

「カウンターに移動する?」
「あぁ、その方が話もし易いだろう」

グラスだけ持って、カウンターへ向かう時、奥からナマエが出て来たが、俺を見る事も無く、接客をしに行ってしまった。

「今の娘……?」

小声で言ったハンジに軽く頷いて、俺はナマエに背を向ける様に座った。
マスターに担当者だと紹介して、後は黙って聞いていたが、話は頭に入らなかった。

(やはり、来るべきではなかったか)

ナマエの姿を見れば、いつもの笑顔は横顔で、俺には向かない。
腹が立つとか、苛つく訳ではなく、胸が苦しくなった。が、同時に違う痛みも自己主張し始めた。医者も気付かなかったみてぇだが、これは多分……肋骨が折れていやがる。

やる事も無く、気分も下降するばかりで、俺は何故此処に居なきゃならねぇんだと思えば、一刻も早く店を出たくなった。

「……先に帰って構わねぇか?」
「リヴァイ……?」

そんな事を言った事は今まで無かったからか、ハンジは驚いた顔で俺を見た。

俺は席を立ち、ポケットから金を出してハンジの前に置いた。

その時、入口のドアが派手な音を立てて開いた。

「リヴァイはいるか?」

見るからにガラの悪い男達の来店に、店は一瞬にして静まり返った。
俺はハンジに憲兵を呼んで貰えと小声で伝えると、ハンジは見えない位置で親指を立てた。

「何か用か?」

一歩前へ出た俺に、一番ガタイのいい男がニヤリと笑う。

「弟が世話になったようだな。お礼に来てやったぞ」

数名の仲間が大袈裟に笑うなか、一人が近くにいたナマエの腕を掴み外へ出た。人質に取られたのだ。
それを合図にぞろぞろと外へ出ていく。

「5分経ったらドアを開けてくれ。ナマエを取り返したら中から鍵を閉めろ」

顎をしゃくり、外へ出ろと言った男に付いて、外へ出た。




「誰か、憲兵を呼んできて貰えないかな?」

リヴァイが外へ出てすぐに私はマスターに言った。

「ナマエは……」
「大丈夫、彼が必ず守ります」

そう言えば、カウンターに居たうちの一人が……

「私が行ってきます……」

と、裏口へ走った。

「あの……5分って……」
「その間彼は手を出さずに、相手を油断させて、ドアを開けたのを合図にナマエさんを取り返して、反撃する作戦です」

あと、2分 。

「でも、それでは……」
「やるしかないですから」

5分経って、私はドアを開けた。
その直後にナマエがこちらに向かって投げられた。
なんとか受け止めて、急いで言われた通りにドアも鍵も閉めた。

「怪我は無いかい? 怖かったね……」

私はそっと抱き締めて頭を撫でた。

「あ、あの人が……」
「大丈夫だから、落ち着いて」
「でもっ!」

そうしている間に、外が静かになった。

トントントン……と、三度叩いて、また三度叩く音が聞こえて、私はドアを開けた。


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