時間をもて余した俺は、シャワーを浴びて包帯を巻き直し……ベッドに横になっていた。 俺はどうしたいんだろうか…… どうにもならないだろうから、見ている事を選んだ。客に対する笑顔だろうが、見られればそれで良かった。 だが、助けに行くのを止めた時に見た顔は……悲しそうだった。 頭の中はナマエの事ばかりだと気付いて、これは流石にまずいと思った。 時計を見れば、終業時間はとっくに過ぎていた。 身支度を整えていると、ドアをノックする音が響いた。 「リヴァイ、支度は出来てる?」 「珍しいな、ノックするなんて……」 「そう? いつもしてると……」 「してねぇだろうが。まぁいい、もう行けるのか?」 「もちろんさっ! さぁ、ナマエちゃんに会いに行こう! って、あっぶないなぁ……」 咄嗟の蹴りも避けて、ハンジは楽しそうに歩き出した 。 「何で知ってやがる」 「え? 名前の事?」 「あぁ……」 「救護室で魘されながら呼んでたから、そうなんだろうと思って……」 魘されて……呼んだ? 怪訝な顔をした俺には構わず、先を歩くハンジを追った。 表通りから一歩入っただけの場所にあるドアの前に立つと、ハンジが驚いた顔をした。 「どうした、何かあるのか?」 「こんなところに店があるなんて知らなかった……」 「あぁ、俺もたまたま見つけただけだ」 あの時、偶然……見つけたんだったな。 俺は……祈る気持ちでドアを開けた。 「いらっしゃいませ」 ベルの音に続いて聞こえたのは、昨日助けた女の声だった。 店内を見回したが、ナマエの姿は無かった。 「今日は連れが居るが、奥の席で構わないか?」 「はい。いつものお席へどうぞ」 「酒と日替わりを二人分頼む」 「かしこまりました」 さっさと注文を済ませ、俺はいつもの席に座り、向かい側にハンジが座った。 「思ったより広いんだねぇ……」 店内を見回しながら、席も余るくらいだと満足そうにしている。 「先に話すのか?」 「料理も頼んでくれたんでしょう? それなら、食べてからにしようかな」 「そうか」 出された酒を飲みながら、俺は溜め息をついた。 運んで来たのは、先程の女で……ナマエじゃなかった。 (やはり、俺が怖いか……) そんな俺を見たハンジが顔を寄せた。 「リヴァイ、どっちがナマエちゃん? 意外と派手な感じの娘が好きなんだね」 「……あいつらじゃねぇよ」 「え? だって他に……」 「俺はどうやら嫌われたらしいな」 フッと笑った俺を見て、流石に少し困った顔をしたが、料理が運ばれて来て表情が変わった。魚と野菜のソテーは、やはりボリュームがあって、味も悪くない。 実は魚があまり好きじゃない俺も、スパイスを効かせてあるせいか、魚の臭みも無く、普通に食べられる。 俺もハンジも食べるのは早い方だからか、あっという間に綺麗に無くなった。 「美味しかった〜! あれ? リヴァイって、魚嫌いじゃなかったっけ?」 「魚臭さが苦手なだけだ。嫌いなわけじゃねぇよ」 俺が来た時よりも、店内は客も増えて賑わっていた。 「カウンターに移動する?」 「あぁ、その方が話もし易いだろう」 グラスだけ持って、カウンターへ向かう時、奥からナマエが出て来たが、俺を見る事も無く、接客をしに行ってしまった。 「今の娘……?」 小声で言ったハンジに軽く頷いて、俺はナマエに背を向ける様に座った。 マスターに担当者だと紹介して、後は黙って聞いていたが、話は頭に入らなかった。 (やはり、来るべきではなかったか) ナマエの姿を見れば、いつもの笑顔は横顔で、俺には向かない。 腹が立つとか、苛つく訳ではなく、胸が苦しくなった。が、同時に違う痛みも自己主張し始めた。医者も気付かなかったみてぇだが、これは多分……肋骨が折れていやがる。 やる事も無く、気分も下降するばかりで、俺は何故此処に居なきゃならねぇんだと思えば、一刻も早く店を出たくなった。 「……先に帰って構わねぇか?」 「リヴァイ……?」 そんな事を言った事は今まで無かったからか、ハンジは驚いた顔で俺を見た。 俺は席を立ち、ポケットから金を出してハンジの前に置いた。 その時、入口のドアが派手な音を立てて開いた。 「リヴァイはいるか?」 見るからにガラの悪い男達の来店に、店は一瞬にして静まり返った。 俺はハンジに憲兵を呼んで貰えと小声で伝えると、ハンジは見えない位置で親指を立てた。 「何か用か?」 一歩前へ出た俺に、一番ガタイのいい男がニヤリと笑う。 「弟が世話になったようだな。お礼に来てやったぞ」 数名の仲間が大袈裟に笑うなか、一人が近くにいたナマエの腕を掴み外へ出た。人質に取られたのだ。 それを合図にぞろぞろと外へ出ていく。 「5分経ったらドアを開けてくれ。ナマエを取り返したら中から鍵を閉めろ」 顎をしゃくり、外へ出ろと言った男に付いて、外へ出た。 「誰か、憲兵を呼んできて貰えないかな?」 リヴァイが外へ出てすぐに私はマスターに言った。 「ナマエは……」 「大丈夫、彼が必ず守ります」 そう言えば、カウンターに居たうちの一人が…… 「私が行ってきます……」 と、裏口へ走った。 「あの……5分って……」 「その間彼は手を出さずに、相手を油断させて、ドアを開けたのを合図にナマエさんを取り返して、反撃する作戦です」 あと、2分 。 「でも、それでは……」 「やるしかないですから」 5分経って、私はドアを開けた。 その直後にナマエがこちらに向かって投げられた。 なんとか受け止めて、急いで言われた通りにドアも鍵も閉めた。 「怪我は無いかい? 怖かったね……」 私はそっと抱き締めて頭を撫でた。 「あ、あの人が……」 「大丈夫だから、落ち着いて」 「でもっ!」 そうしている間に、外が静かになった。 トントントン……と、三度叩いて、また三度叩く音が聞こえて、私はドアを開けた。 [ *前 ]|[ 次# ] [ main ]|[ TOP ] |