季節感というものがあまり無い地下街から、俺はよく地上へ出て、人気の無い川縁で過ごした。 春になると思い出す、ナマエは元気にしているのか……と。 「やっぱり居た」 聞き覚えのある声に振り返ると、見慣れない女が立っていた。 誰だ? と、思っている俺に笑い掛ける。 「リヴァイ……忘れちゃった?」 そこで漸く、此の場所に俺が居る事を知る人物、先程思い出していたナマエだと気付いたのだが…… 「何でこんな所に居やがる」 俺の口は素直な言葉など知らねぇ様だ。 「たまたま、近くまで来たからさ、居るかな……って思って」 「そうか。用が清んだならさっさと帰れ」 立ち上がった俺は、ケツを払って立ち去ろうとしたが、腕を掴まれた。 「それがさぁ、手違いで宿が無くなっちゃって……どこも空いてなくてね……」 「……」 「一晩、泊めて貰えないかな?」 陽も傾いている……今から彷徨いたらロクな事にはならねぇ…… 「晩飯で手を打ってやる」 「やった! 流石リヴァイ。あ、でも、私が行っても大丈夫?」 「どういう意味だ」 「部屋に彼女とか……さ」 「そんなもんが居たら、先に断ってる。誰も居ねぇよ」 歩き出すと、後を着いてくる。それは数年前と変わらない様で、何故か安心した。 あの日、ナマエは遠くに行く事になったと言って、居なくなった。 それまで、3日と空けずに一緒に居たのだが、最初は何だったかと思いを巡らせた。 俺が川縁に来る様になったのは、風呂の代わりだった。金も無けりゃ、家なんてもんもねぇ。人目につかねぇ場所を見つけた俺は、時々そこに居る様になった。 そこへ、傷だらけのナマエが何かから隠れる様にして、来たのだ。 「何してる。邪魔だから何処かへ行け」 ひとりで居たいから、此処に居るんだと、ナマエを追い出そうとした。 「ごめんなさい、でも、少しだけ……」 そう言って、ナマエは座って震えていた。 「何で隠れてるんだ?」 気紛れだった。興味も無い筈だった。 だが、俺は黙ってナマエの話を聞いてやった。 親は無く、親戚の家で世話になっているが、その家の子等に追い回されるのだと言った。汚れた服に傷だらけの手足は、その大変さを窺わせていた。 それからは、時々やって来るが、俺も気にしなくなった。何をするでも無く、俺は黙って聞いているだけで、ナマエがひとりで愚痴を溢すというのが普通だった。 だが、俺はいつの間にか待つ様になっていた。 来ない日は心配になった。 傷だらけの日は、手当てをしてやった。 泣いている日は、撫でてやった。 そうして、何年か過ごした。 ナマエが居なくなった後、俺は初めて寂しいと思った。 それからも、時々川縁で……来る筈の無いナマエを待っていた。 「食事作るから、材料買いに行きたい」 俺の腕にしがみ着いているナマエは、近くに住んでいたが、地下へは入った事が無かったらしい。 「そこまで警戒するな……」 「う、うん」 「だが、俺から絶対に離れるなよ?」 「離れろと言う方が無理よ」 「……だな」 買い物の最中も、帰る時も、ナマエは腕を離さなかった。 「ここ?」 「あぁ、掃除はしてあるが……期待するなよ?」 「しないよ、寝かせて貰えるだけで充分だし」 そう言っていたナマエだが、部屋に入るなり「綺麗過ぎる」と、笑った。 「じゃあ、私作ってるから、出来るまで待っててね」 「あぁ……食えるもん作れよ?」 「任せといて!」 部屋……と言ってもひと部屋で狭く、ベッドから数歩でナマエが料理している場所だ。 背中を見ながら転がったが、落ち着かねぇ…… 「シャワー浴びて来る」 「はぁい! 後で借りられる?」 「あぁ、使えばいい」 振り向きもしねぇ事に少し不満だったが、そのままシャワーを浴びに行った。 リヴァイがシャワーを浴びに行ってから、私は振り返った。 何年も会えなかったのに、変わらないリヴァイが嬉しくて、わざわざ会いに来たなんて言えなかった。 でも、今会わなきゃと思う理由が私にはあった。 リヴァイと会えなくなった私は、訓練兵団に行った。厄介払いだったのだろう……家を追い出されたのだ。でも、兵士は嫌いだと言ったリヴァイには言えなかった。そして、私は調査兵団に入った。 1週間後に、壁外調査がある…… 貰った休暇で、ずっと好きだったリヴァイに会いに来た。 でも、ただ……少し一緒に居られれば良いと思っていた。 何回か無事に帰った。けれども、今回は先陣を切る班に所属となった私に、帰れる希望は無かった。 「もうすぐ出来るよ」 シャワーを終えて出た俺に、ナマエが言った。野菜を炒めた物と、スープだった。 「あぁ、いい匂いだな」 テーブルは、ソファーの所にあるだけで、必然的に並んで座る事になる。 「どう?」 「……悪くない」 「それって、誉めてるの?」 「そうだが……」 「わかりにくいよ。でも、嬉しい」 俺を見て笑うナマエを見ていて、俺は更に落ち着かなくなった。 食事が終わると、片付けておくからと言って、ナマエにシャワーを浴びる様に言った。 片付けはすぐに終わり、やる事の無くなった俺は……ベッドに転がった。 遅ぇ…… まだガキだった頃とは違う、ナマエの姿を想像した俺は、打ち消そうとするも反応したモノに困った。 出て来ちまったらどうすんだよ…… 毛布を掛けて覗き込み、収まれと思っていると、ナマエが出て来た。 「何やってるの?」 「何でもねぇ……」 だが、言ってる事とやってる事が違った。 近寄ったナマエの腕を掴み、気付けば俺の下にナマエが居た。 「リヴァイ……」 「悪かった……」 体を退かそうとした俺を、ナマエの腕が引き寄せた。 柔らかな身体に重なった、その感触に熱が集まっていく。それがナマエの腹を押しているのがわかるが、それすらも刺激となり、擦り付けたい衝動に抗う。 「冗談じゃ……済まねぇぞ?」 「うん、わかってる。リヴァイと……なら……」 「あぁ、俺もお前となら……」 ……出来そうな気がする。 今まで、そういう事はしたいと思わなかったが、今はとにかくナマエのナカに埋めたいと思う。 見聞きしただけの知識をフル稼働させたが、キスすらもどかしい。 それでも、早く早くと急かす思いを押し留め、ナマエの服を脱がせた。 「あんまり……見ないで」 「俺は見たい」 「恥ずかしいよ」 「恥ずかしい事するんだろう? なら、俺も脱ぐ」 着ていた物をすべて脱ぎ、ナマエを跨いで膝で立った。 「これで一緒だろう?」 「うん」 ナマエは恥ずかしそうにしながらも、俺を見ていた。 もう一度キスをして、胸に吸い付いた。 解放されたモノは、ナマエの肌に触れて跳ね、更に俺を急かすが、ナマエの足を少し開かせて指を挿れた。 「んっ……」 「痛いか?」 「びっ、ビックリしただけ、……初めてだから……ごめんね」 顔を服で隠しちまったが、それは同じだ。 「俺もだ、よくわからねぇ……」 「私もわからないから、大丈夫」 「あぁ、そうだな」 フッと笑ったナマエを見て、俺も少し力が抜けた。 大きく開かせて、見ながら……間違わねぇ様に先を押し込んだ。その感覚に驚きながらも、覆い被さって抱き締めた。 ナマエの腕が俺に巻き付いて、少しずつ深く深く入り込んでいく。 「大丈夫……か?」 「ん……へい……き」 女は痛てぇと聞いた……腕にもナカにも力が入っているのがわかるが、平気と笑うナマエが愛しい。 もっと深くと、押し込んだ。 そのまま今度は少し引き、また押し込む。段々と動きも大きくなって、ナマエの事まで頭が回らなくなりかけた時、引き過ぎて抜けたことに気付かずに押し込もうとして、失敗した。 「すまねぇ……」 今度は挿れようとするも、滑っちまって上手く行かねぇ……と、焦る俺をナマエが引き寄せた。 「まだ……夜は終わらないよ……」 「そうだな」 暫くそのまま抱き締めていたが、その後は、何度も何度も……そのまま眠りに落ちるまで、抱き続けた。 翌朝、ナマエは起き上がれず、俺が世話をした。戻るのは明日で大丈夫だと言ったが、その晩はただ、抱き締めるだけで何もしなかった。 それでも、俺は満足だった。 「それじゃぁ……」 「あぁ、気を付けて帰れよ」 翌日、ナマエを馬車に乗せて見送った。そして、俺はまた地下に戻った。 部屋に戻ると、とても広く感じた。たかが2日足らずの事で、そんな風に思うとは……思いもしなかった。 何も、訊けなかったな…… そこで、ナマエは別れ際に「またね」と言わなかった事に気付いた。会えなくなると言われた、あの日と同じ別れ方をした。 何処に住んでるのか、何をしているのかすら……俺にはわからなかった。だが、楽な生活や仕事じゃねぇだろうと思った。 筋肉の付いた身体をしていたから、肉体労働をさせられているのかも知れねぇ、そう思うと、訊けなかったのだ。 もう、会えねぇのか? あれから、ナマエとは会えねぇまま、また、数年経った。 そして……ある日、俺はとうとう捕らえられちまって、調査兵団で兵士になると約束させられた。 人手不足だから捨て駒が必要なんだろうと、勝手に思っていたが、どうやら、戦力として連れて来られたらしい。 「此処での生活と訓練のサポートをする者を紹介しよう」 団長に呼ばれ、現れたのは……ナマエだった。 俺は言葉も出ずに、嬉しそうに俺を見たナマエを見ていた。 「知り合いらしいな。まあ、仲良くやってくれ」 「あぁ、わかった」 「ナマエ、後は頼むよ」 「はい、任せて下さい」 「ああ、期待している」 二人になると、ナマエは困った様に笑った。 「分隊長に……なっちゃった」 「そうか、無事なら何でもいい。だが、兵士になっていたとは思いもしなかった」 「リヴァイ……」 「久し振り……だな、ナマエ」 駆け寄ったナマエを抱き締めた。 「逢いたかった……でも、勇気が無かった」 「お前だけじゃねぇ」 「えっ?」 「連絡先すら置いて行かねぇから、探しようも無かった」 それから、何故あの時は連絡先を置いて行けなかったのかを、聞いた。そして、俺もナマエも……あれ以来誰ともそういう事は無かったのだと……笑った。 生きて帰ってくれた事に……感謝した。 兵士になった事を……密かに喜んだ。 やっと……ナマエと同じ場所(世界)で生きていると思えた。 End [ *前 ]|[ 次# ] [ request ]|[ main ]|[ TOP ] |