目の前のナマエは、大人と言うには少し幼い様にも見えたが、立派な女になっていた。 少し寂しく思う気持ちと……ざわつく胸の奥に困惑した。 「お母さん……」 ふわりと笑ったナマエは、あの……母親だと言った女に似ている気がした。 俺が見ていた、あの夢の中にナマエも居るのだろうか? お前は、俺がどんな奴だったか知ったら……俺を嫌うだろうか? なぁ、俺は離れたくはねぇが、ナマエ……お前は…… 「ん……リヴァイ……?」 頬を撫でると、ナマエが目を開けた。 「起こしちまったか?」 「大丈夫……」 「まだ寝てて構わねぇぞ」 「もう眠くない」 笑うナマエを抱き締めた。 不安な気持ちをどうにかしたいが、抱き締めたその身体に、余計に不安が増した。 俺は別に、父親って訳じゃねぇ。だが、ナマエにとってはどうなんだ? 「ナマエ……」 「はい」 「いや、何でもねぇ……」 訊いてどうするんだ、答えなど要らねぇよな? ナマエが一緒と言ってくれたのを……今は信じていたい。 「服がきつい……」 起き上がったナマエは服を脱いでいく、俺はそれを何故か黙って見ていた。 上着を全部脱いだところで、俺はハッとして毛布を掛けてベッドから降りた。 「これを着けるんだ……」 「……?」 「大人はみんなするもんだ」 不思議そうに見ているが、俺だってどうしてブラジャーというものが必要なのかまでは知らねぇ。 着け方もわからねぇナマエに着けてやる時に、どうしたって胸に触れてしまう。柔らかいものを中で整えてやると、ナマエの手が俺の手を掴んだ。 「リヴァイ……」 「どうした?」 「リヴァイの手、気持ちいい」 「……っ?!」 まだ突っ込んだままだった手を、慌てて引っ込めた。 「ほら、早く服を着ろ」 「はい」 「それから、人がいる所では服は脱ぐなよ?」 「はい」 危うく引き摺られそうたになった事で、ざわついていた胸の内は"何故"だったのかがわかった。 俺は……保護者では無く、ナマエが欲しいと思ったのか…… 俺も少し離れて着替えを済ませ、雑念を払うつもりで掃除をした。だが、無駄な足掻きと知る。 前に屈んだナマエの尻に目が行き、高い所へ手を伸ばせば、容赦なく胸に目が行き、露になった姿が浮かぶ。 こりゃ、どうすりゃいいんだ? 「ナマエ、掃除はもういいぞ」 「はい」 邪魔にしたり、要らねぇと思わねぇ自信はあったが、これはどうすりゃいいんだ? と、夢の中の女に訊きたい気分だった。 朝食が届くまで、もて余した俺は紅茶を淹れてやったり、風呂場で洗濯をしたりと、忙しなく動いていた。 「リヴァイ、手伝う」 「あぁ……」 邪険にする訳にも行かず、先ずは見ていろと言って、やり方を教えた。 「これでいい?」 「あぁ、良く出来たな」 頭を撫でてやろうとして、手を止めた。 もう、ガキじゃねぇ…… だが、そんな考えを無視して、ナマエは少し俺の手の方に頭を寄せた。 見た目と中身が追い付いてねぇのか、それともそれは習慣で……と、また考えたが、ナマエはナマエだなと、俺は頭を撫でてやった。 その後は特に困った事にはならなかった。 ハンジもモブリットも、ナマエの姿に驚く素振りは無く、普通に接しているのを見ると、俺だけがおかしいんじゃねぇかとすら思う。 夕食も済み、問題は風呂だった。 「ナマエ、風呂はもうひとりで入れるだろう?」 「リヴァイ、どうして?」 「普通はひとりで入るもんだ。ガキのうちは出来ねぇから仕方ねぇが、ナマエはもう大人だ」 「でも……」 意地でも入ろうとしねぇナマエに根負けした俺は、結局一緒に入る事にしたのだが、どうも脱ぎにくい。 「何でそんなに見てるんだ?」 「私は女で、リヴァイは男で、体の形が違うと教えてもらったから、見たくて」 「はぁ? 誰がそんな事を……」 モブリットは有り得ねぇ、クソ眼鏡か? 「お母さんが……」 「あ?」 何考えてやがるんだ…… 間抜けな声を出した俺は、一気に脱いで浴室へ逃げ込んだ。 「待ってよ、リヴァイ!」 慣れてねぇからか、モタモタとなかなか脱げねぇナマエが来る前にと、俺は急いで洗っていたが、いくら急いだからといっても、脱ぐ方が早いのは当たり前だ。 「リヴァイが置いて行った」 「あ、あぁ、悪かった……」 拗ねた顔に眉が下がる…… 「お前もさっさと洗え」 「はい」 こうなったら慌てても仕方ねぇ……と、洗い終えた俺は浴槽に浸かった。 暫くして、洗い終えたナマエも隣に浸かった。 「リヴァイ……」 「なんだ?」 俺の足伸ばせと横を向かせて、ナマエは足に乗った。 「それはガキのする事だ……」 「……?」 気に入らねぇって顔をしやがるが、沈んじゃいけねぇと乗せてやっていたのが悪かったのか? 「ガキ……でいい」 「そういう問題じゃねぇんだがな?」 ナマエはそれが普通だと思っているだけだろうが、浸かる意味がねぇだろうと思うくらい、体が湯から出ちまっている。だが、満足そうにしているナマエを見ると、俺の心配は意味がねぇと気付いた。 「暖まったら出るぞ」 「はい」 湯を掬って掛けてやりながら、ナマエの夢の話を聞いていた。 文字も書けるようになったというのはもちろん、いろんな事を教えて貰ったのだというのには驚いた。 「そりゃすげぇな……」 「はい!」 そろそろ出るかと、ナマエを退けて立ち上がった俺は、失敗した事に気付かなかった。 「ほら、ナマエも立て……っ、?!」 丁度ナマエの顔の前にぶら下がったモノを、ナマエが掴んだ。 「コレ……なに?」 「何って言われてもな……取り敢えず離しちゃくれねぇか?」 引っ張られたら痛いんだが……何と説明しろというんだ? 「必要になったら教えてやるから、今は我慢しろ、なっ?」 「本当に?」 「俺は嘘は言わねぇ」 「……はい」 納得は行ってねぇって顔だが、それでもナマエもそれ以上は言わなかった。 今までならもう眠くなる頃だが、どうなんだろうと見ていると、ナマエは欠伸をして目を擦った。 「眠いのか?」 「はい」 「なら、寝るか……」 「はい……」 風呂の事もある、ひとりで寝ろと言ったところで同じだろうと思い、ナマエの隣に寝転がると、俺は上を向いた。 「リヴァイ……」 腕枕をしろと、腕を持っていかれたが、可愛く呼ぶ声が耳を擽る。 「抱っこして……?」 少々色っぽい雰囲気だけ味わおうと思ったが、抱いては無いにしても……せめて抱き締めてと言われたかったが、抱っこか。そうか、そうだな…… 「仕方ねぇなぁ、ほら、来い」 頭の中では、小さかったナマエを必死に思い浮かべてはいるが、感触とのせめぎ合いが続く。だが、決着は着かねぇが、ナマエの寝息に俺は大きく息を吐いた。 そして、起きたらナマエは……20歳を越えてしまうのか? 俺より先に歳を取るな……もう少しだけ大人になってもいいから、少しでも長く傍に居られる歳で止まってくれねぇかと、俺は願った。 そのままとは言わねぇが……せめて人並みの成長にしてくれ。 寝れば会えるんじゃねぇかと俺は目を閉じたが、そう都合良く寝れる訳もなく、目を開け……ぼんやりと壁を見ていた。 そこで、あの時聞き取れなかった言葉を思い出した。ナマエは何の卵だったんだろうと考えるが、いくつか浮かんだ言葉はどれも違うとはっきりと頭が否定する。気付けば、外は仄かに明るくなりかけていて、少しでも眠ろうと目を閉じた。 来るなと思っても、朝は来る。 恐る恐る目を開けると……目の前にナマエの顔があって驚いた。 「とうしたんだ……?」 「え? リヴァイの顔を見てたの。綺麗だなぁ……って」 「綺麗ってぇのは、女に使う言葉だろうが……」 「そうなの?」 「そうだ。お前に似合う言葉だろうよ」 幼さの完全に無くなったナマエは、綺麗と言うに相応しいだろう。 だが、何故か昨日ほど焦ってはいない。どうしたことかと思ったが、結局1日穏やかにナマエを見て過ごした。 勿論、ナマエと風呂も入り、また、一緒に眠った。 それから3日経っても、4日経っても……ナマエの姿は変わる事無く、1週間が過ぎた。 モブリットにナマエを頼んで、俺はハンジと団長室へと向かっていた。 「リヴァイ、どうやらナマエちゃんは……」 「あぁ、成長してねぇな」 「良かったね」 「何がだ?」 「ずっと一緒に居るんでしょう?」 「……あぁ、そうだ」 ナマエはここ数日変化はなかった。俺の望みが叶ったのだろうか。 望み……? 『 あの卵はお嫁さんの卵よ』 ……思い出した。 「嫁……と言ったんだ」 「え? 誰が?」 「いや、俺はナマエを嫁にする」 「丁度いいね! エルヴィンに報告だっ!」 「あぁ……」 そのまま、団長室に着くなり……俺はエルヴィンにそう言って承諾を得た。 そして、用を済ませた俺は急いで戻り、自室に飛び込んだ。 「リヴァイ、お帰りなさい」 満面の笑みで俺に向かって手を伸ばしたナマエに俺も手を伸ばすと、ナマエが胸に飛び込んで来た。 モブリットが微笑んで部屋を出ていったのを見て、俺は少しだけナマエを離して顔を見た。 「ナマエ、俺の嫁になれ」 「よめ?」 「あぁ、ずっと一緒に居るための約束の言葉だ」 「はい!」 俺が 育てた。 俺の ナマエ。 俺は 一生傍に居ると誓う。 End [ *前 ]|[ 次# ] [ main ]|[ TOP ] |