星に願いを [ 2/14 ]

その日の何日か前からずっと、そわそわしとった。

天気予報がやっていれば真剣に見て。
曇やって知ったら、また他の天気予報を見て。

晴れのマーク見つけて喜ぶ。


……子供か。




「なぁ平次、今年の七夕も空いてる?」


和葉が七夕祭りのパンフレットを見ながら俺に聞く。
そして、決まって俺の返事はこう。


「特に何もないで」



物心ついた時から言っている。




一度、用事があって「その日は無理や」って答えたことがあった。
そしたらコイツ泣きじゃくりよって、せっかく着付けてもろうた浴衣も脱いで七夕祭りも行かんと家で一人留守番しとったらしい。

それを後々聞いて、なんや悪いことしたなって思った……
このことがあってから毎年、どんなに忙しくても七夕の日には予定を入れんようにしとる。



「ほんなら今年も七夕祭り行こう!」


嬉しそうに目をきらきらさせて、声を弾ませる和葉。




「あぁ、ええで」


なんて、そっけなく返事をした。








* * *






……遅い。




「ナンボ遅れれば気ぃ済むねん」



七夕祭りが行われる近くの神社で待ち合わせやって言うから来とるのに、言い出したアイツが来てへんやんけ。

待つことに慣れていない俺は、待ち合わせから5分ちょっとを過ぎたところで既にイライラし始めていた。



「……」

「…………。」


「……」







何もすることがなかった俺は、空を見上げる。



曇かもしれんって天気予報では言っとったけど、どうやら晴れたみたいや。




数え切れへんくらいの星が、夏の始まりの夜空に広がっていた。
天の川も、綺麗に架かっとる。



( これなら織姫と彦星も会えたやろな… )



なんて、ふと思う。



せやけど、俺は織姫と彦星みたいになりたいとは絶対に思わへん。

1年に1度とか、無理やろ。
ホンマに好きなら毎日でも『会いたい』と思ってまうやろうし。





「何言うてんねやろ、俺らしくない……」



自分で言うて、苦笑いした。





でもまぁ……

1年に1度くらいは、こんなこと考えてもええか。




ふっと、頬が緩む。






「平次っ!」



聞きなれた声が俺の名前を呼ぶ。



「浴衣の着付けに手間取ってしまって……」



「ごめん」と謝る声の方を見たら、今年用に新しく買ったのか
初めて見る花柄の白い浴衣を来た織姫サンが俺の前に立っとった。









七夕の夜。

神社で星に願う二人が居た。




星に願った二人の願いは、少し違ったかもしれないが。


(織姫と彦星みたいに……)

(織姫と彦星みたいにはならんように……)







“強い絆で結ばれますように”

“会おうと思えば会える距離にいられますように”




すでに叶っている、なんて。

願った本人達は気付かない。



2013/07/07




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