「…おはようございます」


裏口から入る。



彼女に会わないように…なんて考えていたら、運がいいのか悪いのか裏口のすぐの所で話をしていて。





「良かったね〜葵ちゃん!風邪、治ったんだね」


「はい!山田、もうバッチリ治りました!」


「相馬さん、山田さんのこと心配してたもんね」


「そ、そうなんですか…?」





種島さんと、伊波さんと…彼女。





種島さんが俺に気付いて手を振る。





「相馬さん、おはようっ!今ね、三人で話してたの!葵ちゃん、風邪治ったんだって〜やっぱり相馬さんが看病してくれたおかげだねっ」




種島さんはにこにこと笑顔で俺の腕をひっぱり、彼女の元へ連れて行く。





「そ…そうまさんっ///」




彼女の顔を見て、思う。

顔色は一昨日よりいい、なんて落ち着いて彼女のことを見ている自分がいる。
風邪が治ったと聞いて良かったとほっとしていた。

それなのに、彼女の頬はみるみるうちに赤く染まっていく。





「お、おはよう…山田さん」


「おはようございますっ…」





小さく呟いて頭を下げると彼女は逃げるように走り去っていった。



「―……」



やっぱり、忘れてなんかいない。

きっと―…あのキスのことも…





「山田さん、行っちゃった…」


「どうしたんだろう、葵ちゃんの顔赤かったよ?まだ熱が下がりきってなかったのかなぁ?」




葵ちゃん大丈夫かな?と心配している種島さん。





「ごめん、俺…ちょっと山田さんに用があるの思い出したから行くねっ…!」


「えっ、相馬さん?」




種島さんと伊波さんを無視してそのまま彼女を追う。






「山田さんっ!」




待って、と彼女を呼びとめ止ってくれない彼女の手を掴む。






「……っ…!!」



「ねぇ…山田さん」





どうしてなのかな、いつも君から俺に寄ってくるのに。





「俺が山田さんに近づくと…逃げるの?それっておかしくない?」



「だって……山田っ…」





…ほら、そうやって黙る。




ずるいよ…そんなの。

でも、もう止められないよ。





俺は彼女の手を引いて、そのまま小さな体を抱きしめる。
まだ成長途中の、少し寂しいそれが何となくだけれど分かった。




トクトクと速すぎる音が聞こえてきて。
そんな彼女が愛おしく思えると同時に意地悪をしたいという衝動に駆られる。


彼女の手を離して、空いた手で彼女の真っ赤な頬に触れた。






「そうま、さん…」






初めてだ、と。こんな気持ちになったのは、俺のせいだと。
そう言った彼女。




…彼女の初恋の相手が俺なんかでいいのだろうか。



今ならまだ、間に合う。
抱きしめてしまった以上、少し苦しい言い訳になってしまうだろうけれど…



『これは恋愛じゃない』って。






「相馬さん…山田は、本当に……本当に相馬さんが好き、なんですよ」




俺の心を読み取ったかのような山田さんの言葉。

本当に…彼女は変なところで鋭い。







「……好きだよ。俺も、山田さんのこと」






もう、自分の気持ちに嘘をつかなくても良いのだと。



彼女の驚いて赤く染まった顔を見て、どうしようもなく幸せな気持ちになった。





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2013/09/02



 




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