ふう、と山田さんが横になる。
額には汗が滲んでいる。やっぱり、熱が高いのだろうか。
熱測ってみて、と俺が渡した体温計が鳴るのを待って、約一分。
「38.5℃………うん、山田さん薬飲もうか」
「なんでですかっ?!飲まなくてもいいって相馬さん言ったじゃないですかっ…やまやま…ううっ…嘘つき相馬さん!」
涙目で俺に訴える山田さん。
「嘘つき?どうしてそうなるの、俺は『まだ』薬を飲まなくてもいいって言ったんだよ」
「はっ……!山田、確かにそういう風に言われたかもしれません…」
「『まだ』ってことはさ、このあと飲んでもらいますよってことだよ?山田さん、喜んで了承してくれたよねえ?」
「ううっ……山田を騙しましたねっ?!」
「ほらね?俺、嘘はついてないでしょ」
こんなに嫌がる山田さんをみて思う。
あぁ、薬を三種類買っておいてよかった、と。
言葉のあやとは言ったものだけれど、山田さんを騙すような真似をしてしまったのは少し心苦しい。
「ごめんね、山田さん」
唐突に謝ると、山田さんは不思議そうな顔をして俺の顔を見上げた。
「山田さんはカプセル飲める?」
俺が箱から取り出して、山田さんに見せる。
「なっ…何を言うんですか!あんなプラスチック、人間が口の中に入れてはダメです!見るからに怪しい赤と白のカプセルじゃないですかっ」
あ…うん、要するに飲めないってことだね?
あと、カプセルはプラスチックじゃないんだけど……まぁ、いいか。
「じゃあ、粉?」
「……っ…!ダメダメダメダメです!お口の中がにがにがになります!」
山田さんは舌を俺に見せ、苦い顔をして見せた。
う〜ん、これも駄目と。
「残る選択肢は錠剤しかないよ?」
「山田、今まで錠剤の薬を飲めたことがありません!」
いやいや、自慢げに言われても困るんだけどね。
俺は構わずに続ける。
「山田さん、体重どのくらい?」
「花も恥じらうこの年頃の乙女にそんなこと聞きますか?!」
花も恥じらう……って普通、自分で言うかな?
「あ〜…ごめん」
まぁ、俺の質問も女の子に聞くようなことじゃなかったな。
さっき山田さんを抱き抱えた時に大体なら分かってるし。
いや、でも薬はちゃんと飲まないと治らないからなぁ。
「じゃあ、山田さんっていくつ?」
「なっ、何がですか?」
「年齢、だよ」
「やっ山田は1…5歳、ですよ?」
「本当に?」
「ほ、本当ですよ!」
「そっかぁ〜じゃあ、仕方ないね」
「何が仕方ないんですか?!」
「15歳以下は一粒でいいんだけど、15歳から二粒になるんだよ」
「そっ…そんなことがあるんですか」
「あるよ?だからちゃんと二粒飲もうね」
年齢を聞いたのは、薬のため。
本当はいくつなのかな、って気になっていたのは確かだけど…
「山田…一粒でいいです」
「駄目だよ〜15歳、なんでしょ?」
ちょっと意地悪だったかな。
年齢と名前を偽ってまで、ここに残りたかった訳だし……
聞いたことを後悔し始めたとき、山田さんがぽつりと言う。
「…山田は一粒で大丈夫なんです。それでもちゃんと効くんです…」
「そうなの?」
「……みんなには内緒ですよ」
「分かってる」
「……っ…」
山田さんは、ほっとしたような……
でも、どこか寂しそうな、なんともいえない表情を浮かべていた。
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