「う〜ん、これでいいかな」
適当に風邪薬を選んで、手に持つ。
あ、山田さんってカプセル飲めるかな?
錠剤のほうがいいのかな…粉薬のほうがいいのかな?
迷った結果、三つとも買っていく。
ついでにリンゴも買っていった。
「ありがとうございました〜」
一分って言われてたけど、もうかれこれ三十分は経っちゃってる……
腕時計を見て、山田さんのことを思い出しながら俺は走ってワグナリアへと戻る。
「佐藤くん、ちょっと厨房借りてもいいかな?」
「ん…?あぁ、構わない」
俺は手早く卵粥を作る。
熱々の土鍋をおぼんにのせて、スプーンとお椀、果物ナイフを持ちコップに水を入れると屋根裏へと向かう。
「うう〜……けほっ…こほっ…」
屋根裏の部屋へと上がると、山田さんがうなされながら横になっていた。
「山田さん?遅くなってごめ…」
「相馬さんの嘘つき……!!一分で…一分で戻ってくるって言ったのに…!」
(いや、一分とは……確かに早くは帰ってくるって約束はしたけど)
「ごめんね、山田さん」
「うう…ひっく……やま、やまやま寂しくて…うぇ〜ん…」
「泣かないでっ山田さん!熱上がっちゃうから、ほら!俺が悪かったから!!」
しばらくして、泣き止んでくれた山田さんに俺は聞く。
「山田さん、食欲ある?」
「山田、今はなにも食べたくないです…」
「う〜ん…それは困ったなぁ。少しだけでもいいから食べよう?それから薬も飲まなきゃでしょ?」
「くっ…くすり…!」
「そう、早く治さなきゃ」
「いっ、いいです!山田、何も食べません!食べないで、薬も飲まなくていいです!!」
(もしかして、山田さんって……)
「薬、苦手?」
「…っ?!そ、そそそんなことないです!」
「分かった、じゃあ薬はまだいいからお粥だけでも食べて?朝から何も食べて無いんでしょ?俺、卵粥作ってきたから、ほら」
ふたを開けて、粥を見せる。
「…これ、相馬さんが作ったんですか?」
「そうだよ?」
「…山田のために、ですか?」
「うん、そうだよ」
山田さんは少し考えたように黙ってから、小さく呟いた。
「山田、お粥食べます……」
はい、どうぞとお粥を小皿に取り分けてから山田さんに渡す…のをやめた。
一口すくって、自分の口元へと運ぶ。
まだ湯気の立つ熱いお粥をふうふうと冷まし、スプーンを彼女へと向ける。
「熱いから気をつけてね」
ぱくっと食べて、山田さんが笑う。
「…美味しい」
「ふふっ、ありがとう」
妹がいたら、こんな風なのかななんて彼女を見ている時にふと思ったりする。
でも、最近……
これは妹というカテゴリーの中には入らないような気もしているのだ。
余計なことは考えずに、彼女の体調が少しでも良くなることを考えた。
「どう?もう少し食べられそう?」
「もうお腹いっぱいです…」
「そっか、でも食欲ない割にはちゃんと食べられたね」
「…相馬さんの、手作りだからですよ」
最後の言葉は、あえて聞こえなかったふりをした。
(3/5)
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