はしごを出してから、ふと思う。
お店と言えど、ここは山田さんの部屋。女の子の部屋に、許可なしに入ってもいいのかな。

山田さんに声をかけようとしたけれど、苦しそうに目を瞑る山田さんを見たらそんなこと気にしている場合じゃないって思った。


(ごめんね…ちょっとお邪魔するよ)




心の中で謝りながら、はしごを上っていく。
山田さんを抱えたままだから、落とさないようにと十分に注意を払いながら。



特にこれといって物がない屋根裏の山田さんの部屋。
まぁ、それもそうか。家出してきてる訳だし。

きちんと畳まれてある布団。その上には、この間買ってあげたくまのぬいぐるみデイジー。
小さな棚と、あとは何着か買ってあげた私服のワンピースがハンガーにかかっている。


「けほっ…けほっ…」


デイジーをどかして、布団を敷く。
山田さんを寝かしてあげて、掛け布団をかけてあげる。


「山田さん、風邪薬とか持ってる?」

「山田は…風邪とかめったにひかないので、薬は持ってません…生理痛用のお薬なら持ってます」

「あぁ……うん、そっか」


なんとも返事に困る答えだ。
僕は曖昧に返事をして、どうしようかと考えた。


「…う〜ん……やま、やま…くっ苦しい……」



佐藤くんなら持ってるかな?



「ねぇ、山田さん。僕、ちょっと薬探してくるね?もしかしたら佐藤くんが持っているかもしれないからさ」

「すぐ……戻ってきますか?」

「え?」


山田さんが俺の洋服の裾を掴む。


「山田…寂しいので、早く…すぐに戻ってきて下さい…一分です。一分で戻ってきて下さい」



……何、これ。



甘えてるの?


寂しいからすぐに戻ってきてとか、かわい…いやいや、違う。
あれだよ、きっと。あれあれ。
風邪を引いたり熱がある時には人恋しくなるってやつだよ。
不安なんだよ、きっと。




「……相馬、さん?」

「あっ、うん。そうだね、一分はちょっと無理だけど早く帰ってくるよ」



山田さんが洋服を掴む手を離してくれたので、俺は下へ降りてキッチンへと向かう。



「あ、佐藤くん。風邪薬持ってない?」

「持ってない。頭痛薬と腹痛用なら持ってる」

「……さっき同じようなこと言われた」

「…どういう」

「いや、気にしないで」



う〜ん、佐藤くんも持ってないか。
どうしようか。




「相馬さんっ!葵ちゃんが熱出して倒れたって本当?」


種島さんを筆頭に、轟さん、伊波さん、店長までもがやってきた。




「山田さん、いつも元気だから風邪なんてひかないような子かと思ってた…」

「わたし、葵ちゃんと喋ったのに気付いてあげられなかったわ…」

「山田、そんなに具合悪いのか?」



「まだ熱は測ってないですけど、おでこを触った感じでは結構高いかなって」


俺が店長に答えると、みんなは心配そうな顔をした。


「大丈夫かしら……」

「様子見に行ってもいい?」


「う〜ん、やめといたほうがいいんじゃないかなぁ?」

「どうして?」


「風邪がうつっちゃったらいけないし、それにほら俺はもうシフト入ってないから看病は俺に任せて心配しないで。ほら、みんながここにいたらお店が回らないでしょ」



「あっ、本当だ!」

「大変、お客様が呼んでいるわ」

「こっちも注文入ってたんだった」



急に忙しくなって、みんな持ち場に戻っていく。
俺は薬が無いと分かったので、仕方なく近くのスーパーにでも買いにいくことにした。






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