今日は早終わりの日。
バイトの制服から私服に着替えて、帰ろうかと従業員用の出入り口へと向かう途中。

ガッシャーン!と、また今日もお皿の割れる音がする。



「……山田ぁ!何回言えば分かるんだ!皿は割るなって言ってるだろ!!」


小鳥遊くんが山田さんに説教してる。
ちょっと様子を見にいこうかな。


「う〜……山田、何だか体が重いです」

「そうやってまた、逃げようとする!ふざけるな山田!!」

「けほっ……けほっ…こほっ……」




「小鳥遊くん」

「あっ、相馬さん」

「どうしたの、またお説教?」

「俺だって好きで怒ってる訳じゃないですよ!山田がお皿割ったのに逃げようとするんです!全く反省しているようにも見えないし、今日は一日ふらふらしててこれで四枚目ですよ?!」


怒りで喋るのが速くなっている小鳥遊くん。
まぁまぁ、と落ち着かせる。


「……っ…」



あれ、なんだか大人しいな。
いつもなら泣きながら俺にひっついてくるんだけど、なんて思いながら山田さんの方を見る。





「山田さん、今日は静かだね……あっ、ちょっ……と!」



間一髪のところで山田さんを抱きとめる。


「山田っ?!」


小鳥遊くんが驚いてる。

いや、僕も十分驚いてるけどね?
だって、いつもうるさいくらい元気な山田さんが目の前で倒れたらそりゃあ俺だって驚くよ。



赤く染まった頬、潤んだ目、浅い息。
これ完璧、風邪ひいてるよね。



「はぁっ……はぁっ……そ、う…まさん…?」


苦しそうに息をしながら、それでも俺の名前を呼ぶ。



「山田さん、大丈夫?」

「山田……昨日の夜からずっと寒くて…今日の朝は食欲なくて、今はふわふわしてます……暑いような、寒いような…変な感じです……」


「昨日の夜から?それなのにバイト休まなかったの?」

「相馬さん……山田、どうしたんですか?」


いやいや、小鳥遊くんも気付こうよ。
っていうか、こんなに辛そうなのに誰も気付かなかったの?


「山田さん、熱があるみたいだよ?」

「えっ?!」



ちょっとおでこ触るね、と山田さんに一言だけ声をかけてからおでこに触れる。


「……やっぱり」



うん、結構な熱だねぇ。
さぼっていることが多いから他の人よりは働いていないだろうけれど、こんなに高い熱でよく頑張って仕事してたなって思う。




「山田、熱があったんですか……?」


けほっと咳をしながら俺に聞く山田さん。



「ちょっと、ごめんね?」



一言断りを入れてから山田さんを抱き上げた。
いわゆる、お姫様抱っこってやつ。

佐藤くんにこんなところ見られたら絶対に何か言われるだろうけど……


「相馬、お前バイト終わったからって山田を自分の家にでも連れて行くつもりか?」


(……やっぱり)


予想を裏切らない佐藤くんは、何故か偶然通りかかる。

でも、今日は気にしない。
それよりも山田さんの方が大変だから。



「違うよ、佐藤くん。そうじゃなくて…山田さんが熱あるみたいだから、屋根裏の山田さんの部屋にでも連れて行こうかなって思ってたところ」


「あぁ……やっぱり山田、風邪だったか」

「気付いてたの?」

「いや…今日は静かだったし、キッチンにも来なかった。それに咳してただろ」


そこまで気付いてたならもっと早く休ませてあげることも出来たのに、と僕が佐藤くんに言うと佐藤くんは真面目な顔して言った。


「だって、よく言うだろ。馬鹿は風邪を引かないって」

「ああぁ〜!分かった、佐藤くんに轟さん意外の心配をしてくれって言った俺が悪かったよ!じゃあ、店長とか他のみんなに山田さんは熱で休みますって伝えておいてくれないかな?!もう行くねっ」


気にしないって決めてたのに、やっぱりイライラしちゃって僕はその場から逃げるように屋根裏へと向かった。





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