『 待って 』
「じゃあ行ってくる」
目暮警部から事件について意見を聞かせて欲しいと電話がきた。
俺はいつも通り、警察署へと向かう。
「…。」
また、この顔。
何か言いたそうな顔してる。
「蘭?」
俺が顔を覗き込むと、顔を赤くして目をそらす。
…何か言いたいなら言ってくれればいいのに。
いや、本当は蘭が何を言いたいのかも分かってる。
俺がまた、どこかへ行ってしまって消えてしまうんじゃないか…
出かける時、蘭はそうやっていつも不安そうな顔をする。
「蘭、どうした?」
「…ううん、なんでもない」
無理に笑顔を作って蘭は俺を見送る。
「ほら、目暮警部待ってるんでしょ?」
蘭は俺の背中を押して、玄関へ向かわせた。
「ほら、行ってらっしゃい」
その顔が泣いているようにしか見えなかった。
「蘭…本当のこと言ってくれていいんだぜ?」
「えっ…?」
「俺は、蘭の本当の気持ちが知りたい。迷惑だなんて思わないし、わがままだなんて思ったりしねぇよ」
そう言うと、蘭の目から静かに涙が毀れた。
「新一…私ね…本当は―…」
泣きながら喋る蘭を俺は抱きしめる。
「…どこにもいかないで…待って。待ってよ…私だけ置いていかないで―…」
「あぁ、分かってる。置いて行ったりしねぇよ」
蘭の本当の心の声を聞くことができた気がした。
それから十分程、蘭はずっと泣き続けた。
「あ…新一、行かなくちゃ…」
目を真っ赤に腫れさせて、俺を見上げる蘭。
でもしっかりと俺のことを気遣う。
「いいよ、今日は」
「でも―…」
俺は携帯を取り出して、目暮警部へと電話をかけた。
「もしもし、工藤です。目暮警部、やっぱり今日は行けません。彼女が寂しがるので。」
「えっ…?ちょっと新一…」
「では失礼します。」
一方的に電話を切ってしまったけれど、まぁいいだろう。
「新一…いいの?」
「いいに決まってんだろ?ほら、これで今日はどこにもいかねぇよ」
そう言ったら、蘭が俺に抱きついてきてちょっと焦ったり…
心拍が速くなっていたなんてことは…蘭には黙っておこうと思う。
2012/06/04
※あとがき
「待って」の一言が言えなくて…
蘭ちゃんの心の葛藤を書いたつもり。(新一目線ですが)
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