『 さんきゅ 』

ペダルをおもいっきり踏んで、自転車を漕いだ。
夏の暑さが、だるさを与える。


「暑っちぃな…」

汗が額に滲む。
首にかけてあるタオルで拭い、風を切りながら自転車を走らせた。


「あ、青子」

駄菓子屋のおばちゃんと喋ってる青子を見つけ、俺は声をかけた。



「快斗、どうしたの?」

「『どうしたの?』じゃねぇよ。青子が呼んだんだろ」

「あ、そうだった」





ったく、自分から俺に電話してきたくせに。

―『快斗っ大変なの!今すぐ来て!すぐだからねっ』


「は?おい、ちょっ…」


ツーツーツー…


俺が返事をする前に青子からの電話は切れ、有無を言わせずに俺はこの暑い中自転車を漕いで来た訳なんだけど。




「んで、何の用だよ」


この様子からして、急ぎの用事じゃないとは思う。



「ねぇ、見て!…って、あれ?」


はしゃぎながら空を指差す青子。


「どうしたんだよ」


俺は青子の指差す空を見上げるが、何もない。


「なんもねぇじゃん」


「…ない、消えちゃった」

「何が消えたんだよ?」



「…虹」

「虹?」


今の今まではしゃいでたなんて思えないくらい、しゅんとする。
慌てて呼んだのは俺に虹を見せるためか。

なんていうか…やっぱり子供だよな。



「ありがとな、」

「えっ…なんで?」

「俺に虹を見せてくれようとしたんだろ?」

「でも、消えちゃった…」


「十分だよ、青子のその気持ちが」

「うん…」


それでも元気のない青子を元気付けようと、俺は笑ってあるものを見せた。


「青子、これ見て」

「…なぁに?」


「1…2、3…はいっ!」

「わぁぁ〜っ、凄い!!」




俺の手には、ビンに入ったラムネ。
太陽の光に反射して、ビンの中のビー玉は七色に輝いている。


「ほら、これも虹だろ?」

「うんっ!一緒に虹見られて良かった」


青子がにっこりと笑う。




―『虹を見るとね、幸せになれるんだよ』


前に青子が嬉しそうに話していたのを思い出した。




「さんきゅ!青子。」


俺に幸せを分けてくれて。





2013/05/06




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